〈噂の新店〉話題の天ぷら店。挑戦するならランチのかき揚げ丼から!
その外観と内観のギャップや、丁寧な仕事を施された天ぷらの味わいで話題を呼んでいる「天婦羅 みやしろ」。高級店だからと尻込みしてしまってるという方でも、気軽にトライできてしまう1日20食限定のかき揚げ丼を中心に、同店の魅力をお届けします。
値段は夜のコースの10分の1以下!職人の技が詰まったかき揚げ丼
中目黒駅から徒歩約5分の商店街の脇道に5月12日にオープンした天婦羅みやしろは、築100年のトタン小屋をリノベーションした天ぷら店。その外観からはまったく想像がつかないが、夜のメニューはおまかせコース18,000円(税別)のみという高級店だ。しかも目の前で一品ずつ天ぷらを揚げてくれるのは、元「ヒルトン東京お台場 日本料理『さくら』」料理長の宮代直亮さん。一流ホテル出身のベテランである。
いきなり夜のコースを予約するのはハードルが高いかもしれないが、お昼の「かき揚げ丼」は1日20食限定で1,500円(税別)。ランチタイムにドアに貼り出されるかき揚げ丼の写真はボリュームたっぷりで、タレが染みた衣はいかにもサクサク。お値段は夜の10分の1以下だから、試さない手はない。
扉を開ければ、揚げ場を囲む8席のカウンター席はモダンな和風の雰囲気。早速かき揚げ丼を注文すれば、すぐに鍋の油が爆ぜる音が立ち始め、待つこと数分で登場する。大きなかき揚げの海老はプリッとして甘く、衣に染みたタレはひと口で元気が出る甘辛さ。かき揚げは全体のサイズも大きいが、ひとつひとつの海老も大きく、聞けばブラックタイガーを1人前10本(約100g)も使っているとか。
宮代さんいわく、海老は包丁で切るのではなく、手で半分にちぎるのが美味しさの秘訣。「海老は手でちぎると身に厚いところと薄いところができるので、食感の変化が生まれ、断面の面積が広くなって衣がしっかり付くんです」。
かき揚げに添えられた焼海苔や甘長唐辛子の衣はカラリとして小気味好い歯ざわりが独特だが、それは太白胡麻油に米油をブレンドした油で揚げているため。米油の効果で衣がカラリとするのだそうだ。
揚げ油への思い入れはさらにあり、「油の配合は季節によって変えます。夏場は米油の割合を増やすことであっさりと仕上げ、冬場はコクが出るように太白胡麻油の割合を増やしているんですよ」と教えてくれた。
出汁への思いが詰まったお椀
そんな天ぷらの真髄を満喫できる夜のおまかせコースは月替わりで、前菜、お椀、お造り、そして約12品の天ぷらから成る贅沢な内容。主役はもちろん天ぷらだが、宮代さんは日本料理出身であるだけに「お椀にも力を入れています」と胸を張る。
例えば6月のお椀は、旬のスズキにズッキーニ、じゅんさい、みょうがを添えた、初夏の風情あふれる取り合わせ。滋味溢れる吸い地は、血合い抜きの鰹の出汁と、スズキの骨を焼いてとった出汁が合わせたものだ。吸い地にはこのように、その日の椀種の魚の骨を焼いてとった出汁を使うのが宮代さん流だとか。
旬を感じる魚の天ぷら
一方、天ぷらの種に関しては、「旬の魚にひと手間かけて使う」のが宮代さんスタイル。例えば、大葉に包んで揚げた「アジのなめろう」は、5月に好評だった一品だ。穴子は江戸前の定番だが、宮代さんは美味しい時期だけ用いるため、夏の間だけ使用。定番として常に供されるのは、「海老」と、海苔の上にご飯とタレと海老をのせて揚げた「海老海苔巻き」の2品だけだ。
6月の天ぷらの一例は、日本料理の“松笠焼き”のように鱗付きのまま揚げる甘鯛や、長良川の天然鮎、中がとろりとなるまで揚げた賀茂茄子。昆布と干しシイタケで旨味をつけた自家製変わり塩で味わえば、素材の味がぐっと引き立ち、頬が緩む。
〆の「天バラ」は、トマト入りの炊き込みご飯に、芝海老と小柱と野菜のかき揚げを崩して混ぜたオリジナル料理。衣はランチタイムよりも薄く、ご飯にトマトの酸味が利いているため、最後までさっぱり楽しめるのが特長だ。
シャビーな外観と端正な料理のギャップも楽しい天ぷら店は、サプライズを演出したい夜にもうってつけだ。
写真:石渡 朋
取材・文:小松めぐみ