おしゃれフードトレンドを追え! Vol.43

予約困難店も続々! 中華ニューウェーブがアツい

やっと秋めいてきた10月。おしゃれフードに異変あり! ファッション業界人たちのインスタは寿司から、こってりした中華料理の写真に変化してきている。唐辛子やスパイスが何種類も入った牛肉と中国野菜の鍋、パクチーたっぷりの蒸し鶏の前菜、アヒルの砂肝とクレソンといった写真がタイムラインを埋め尽くす。あれ? これって中華なの? と思うような目新しいメニューばかりだ。日本人が“中華”と聞いて想像するようなエビチリや春巻といった一般的な中華ではなく、無国籍的で広東やモンゴルや台湾や中国東北地方の料理が融合した中華が流行りのようだ。キーワードは、エスニック感&雑多感。さらに中華×ワインという食べ方も斬新でいい! とおしゃれ人たちを騒がせている。

サエキ飯店(出典:きゅいそんさん)

昨年あたりから食通たちの間では、日本人シェフによる新しい感覚の中華が盛り上がっていたが、今年になってファッション業界人たちをも巻き込む一大ムーブメントになってきている。根っからの食通の方々と比べると、おしゃれ業界人たちには、食のトレンドが少し遅れてやって来る。そこはやはり、「〇〇さんがインスタに上げていたから」とか「〇〇に載っていたよね」といった口コミ情報を見てから来店するので、開拓精神のある美食家たちとはタイムラグが生じるというわけだ。現在おしゃれ人たちが絶大なる信頼を寄せているご意見番の一人が、平成生まれのフードエッセイスト平野紗季子さん。BRUTUS、Hanako、anan、&Premiumといったマガジンハウスのおしゃれ雑誌からGQ JAPAN、Numero TOKYOといったファッション・カルチャー誌まで様々な媒体でコラムを書いている。彼女が訪問して絶賛すると、時代の波に乗っていたいおしゃれ業界人(と追随するおしゃれ読者たち)はその店に行きたがるというわけだ。

サエキ飯店(出典:出拳さん)

そんなエッセイスト平野さんが絶賛していることもあり、ファッション人たちの最も旬なトピックが 2019年4月に恵比寿と目黒の中間にオープンした「サエキ飯店」のこと。カウンター6席と4人テーブル席が1つの空間を、オーナーシェフの佐伯さんが一人で切り盛りしている。「聘珍楼」や「赤坂離宮」などで修行後にファッション系御用達だった青山の「楽記」、香港に渡って名店で修行し、世界を飛び回り食文化を学んだシェフが生み出す広東料理をベースとしたアジア感溢れる味。それをジョージアのワインとともに楽しめば、中華の新しい風を感じられるはずだ。

coyacoya(出典:りおーさん)

2年前にオープンした恵比寿のカジュアル中華「coyacoya」もニューウェーブ中華と言えるが、今では1ヶ月先まで予約が取れない人気店となった。シンプルで無機質なグレーのカウンターのまわりには、かわいくておしゃれな女子が多く“おしゃれフード”であることを物語っている。山くらげとキクラゲのコリコリつまみ、カルダモンと煮込まれたトリッパと豆、仔羊のワンタン、よだれ鶏などが小さなポーションでどれも400〜900円ほどのうれしいプライス。こんなかわいくておいしいお店、ふらっと気軽に立ち寄りたいものだが、現在は1ヶ月半ほどからの予約がおすすめだ。

coyacoya(出典:みるみんくさん)

予約困難なお店は多いが、ここならまだ予約が取りやすいという中華ニューウェーブをご紹介する。

心がほっとする中華をおしゃれ空間で:サルーズキッチンマーケット(千駄ヶ谷)

春餅(出典:ishiyama1480さん)

「パリのマレ地区に華僑がオープンした」という空想からコンセプトが生まれたこのレストランは、アンティークなインテリアが小洒落ていて中華には見えないかわいいお店だ。壁の大きな黒板に書かれたメニューも個性的で、酸っぱい白菜ちゃん、揚げもろこし(反抗期)、よだれ鶏(私も四川から来ました)、牡蠣玉子ちゃんなどほっこりするものばかり。価格は650円〜2000円弱で気軽にアラカルトでオーダーできる。人気メニューは、クレープのような薄い小麦粉の生地で、錦糸卵や旬の野菜など7種の具をお好みで巻いて食べる、春餅(チュンピン)で、その中国北方の料理はSNS映えも上々のビジュアルだ。

麻婆マッシュ
パクチーのサラダ
パリパリ羽根つき餃子

そしてぜひ食べたいメニューが「麻婆マッシュ」。麻婆の上にそびえる揚げたカダイフ、下にはマッシュポテトが隠れている。カダイフのパリパリ感、ひき肉入り麻婆の辛味、マッシュポテトのなめらかな食感が三位一体となって食べ始めたら止まらない。「パクチーのサラダ」も、「パリパリ羽根つき餃子」もほどよい塩とスパイス加減で、ビオワインとよく合う。高級過ぎず、リピートしても疲れず飽きない。おいしい普段使いの中華がフレンチシックな心地よい空間で食べられる。

奥深い辛味と多様なスパイス使い:中国酒家 辰春(中目黒)

ヤリイカとアスパラの黒胡椒炒め

中目黒駅から徒歩7分、山手通り沿いにある小さな中国料理店はカフェのような外観の店。壁の黒板いっぱいに手書きされたスパイスや野菜など料理の説明が目を楽しませてくれる。旬の食材や中国野菜、香辛料を使い、素材を生かした素朴な中華が、山椒や唐辛子の使い方、あらゆる種類の香辛料、調味料の利かせ方で新たな中華へと昇華している。

国産牛ロースと野菜の唐辛子煮

看板メニューの「国産牛ロースと野菜の唐辛子煮」は辰春の真骨頂と言える。牛ロースの柔らかさは特筆すべきで、具は青梗菜、白菜、セロリ、山芋、椎茸、パクチーなどゴロゴロ入っている。山椒のピリリとした刺激と、優しくほどよい辛味が絶妙だ。ヤリイカとアスパラの黒胡椒炒め、エビと金針菜の塩味炒め、水連菜の炒めなどどの料理を頼んでも、珍しい中国野菜が新鮮でシャキシャキ、塩は濃過ぎず品良く体に優しそうな味わいだ。21時までの入店の場合、1人4,800円(税抜)となり料理を6品選べて、最後に麺、デザートも料金内で食べられる。

モダンカジュアルで女子会向き:CINA New Modern Chinese (恵比寿)

鉢鉢鶏 四川よだれ鶏

恵比寿にある焼肉の名店「うしごろ」系列の中華は、白を基調とした店内がスタイリッシュだ。大理石のL字カウンター、エイジングさせたコンクリート壁面、アンティーク家具と所々にあしらった東洋と西洋のミックス感。中国料理をベースに世界各国の料理をミックスしているそうで、見た目もピンチョス風、パクチーやセロリなど香り野菜を多用したサラダのようなルックス、ソムリエおすすめワインが飲めるなど近隣のお洒落なビジネスウーマンたちが昼にこぞってやって来る。

細切りクラゲとパクチーの和え物
麻婆豆腐

細切りクラゲとパクチーの和え物はさっぱりと、熟成黒豚の酢豚は肉の柔らかさに驚き、麻婆豆腐は山椒を利かせた本格派。おしゃれ過ぎるからと言って侮るなかれ。夜は火鍋が鉄板メニュー、これからの季節は女子会が連日開かれそうだ。

 

日本人シェフの作る中華は、地域や歴史にとらわれ過ぎず、自由で独創的。このどこか漂う無国籍感と、多種多様なスパイスに魅せられて、おしゃれ業界人たちは“中華ニューウェーブ”を今日も探索し続けている。

 

撮影・文:小泉恵里