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おしゃれフードトレンドを追え! Vol.48
おしゃれ業界人未開拓のグルメタウン「巣鴨・錦糸町・南千住」をマークせよ
ファッション業界をはじめとするおしゃれ業界人たちの「食トレンド」を追いかけて48回目。最終回となる今回は、普段は業界人たちにとってアウェイな街を開拓することが「新しい!」「さすが通だね!」と絶大な評価を受けるという最近の風潮について考察してみたい。
昔からファッションの世界で働く人にとって馴染み深いエリアと言えば、青山、表参道、中目黒、恵比寿、代官山。さらに六本木や広尾、少し足を伸ばしても銀座あたりまでとされている。なぜかと言うと、これらのエリアにはショップやアパレル企業、ファッション系のPRオフィスが多いから。これまではランチ、打ち合わせ、夜の会食は全てホームグラウンドで済ませるのがお約束で、近場でおいしいお店をたくさん知っていることを競っていた。
食の感度の高い業界人たちの間で、店選びの街に変化が見られ始めたのが一昨年あたりからだろうか。彼らのインスタを覗けば、巣鴨、錦糸町、南千住、北千住、亀戸といったエリアで食事をしているのだ。周囲の人たちはそれを見て驚き、「なにそれどこ!?」となる。知ってはいるものの行ったことのない地名を見るとドキドキし、未開の地への好奇心と憧れが増すのだ。「#巣鴨」や「#錦糸町」など、見慣れぬ地名とともに投稿される数々のおいしそうなビジュアルに胸が高鳴り、よーし私も勇気を出して行くぞ!と挑むような気持ちで完全アウェイな街に仲間達とともに飛び込んでいる。
そんなに勇気がいるものか?という疑問の声が聞こえるが、ファッション業界人こそ実は行動範囲が狭いのだ。前述のエリアでしか行動しない“同業者の生息地にとどまろう意識”がある。なんとなく自分たちは“ここで生きるのが楽だよね”という自覚があるからだ。だからこそインスタで巣鴨や錦糸町というワードを投稿するファッション業界人を見つければ、羨望とリスペクトの眼差しを向ける。冒険していてカッコいいな、と評価が上がるわけだ。そして「最近あの人が巣鴨によく行っていて気になるよね。今度一緒に行かない?」と気の置けないお洒落仲間を誘う。今回はそんなおしゃれ業界人未開拓のエリアで、その確かな味で人気を集めているお店をピックアップする。
香港シェフの丁寧な仕事に温かい接客:サウスラボ南方(錦糸町)
昨年夏にオープンしたばかりの、錦糸町の中華料理屋が一大旋風を巻き起こしている。JR錦糸町駅から徒歩3分にある「サウスラボ南方」の外観はフレンチビストロのようなミニマルでお洒落なルックスで、ホルモン屋や大衆居酒屋が並ぶ界隈では異彩を放っている。香港通の有名写真家がプロデュースし、旧「福臨門酒家」で腕をふるったシェフ、トミーさんが料理長を務めているこの店。千葉で中国野菜を育てており、近隣のお店への販売も行い、新鮮かつ本場と同じ食材選びを大切にしている。香港の屋台料理を昇華・洗練させた料理は、どれも手間がかかっていて素材の味を上手に引き出したやさしい味。油も塩も控えめで、出汁を最大限に生かした料理は毎日食べても体をじんわりと癒やしてくれそうだ。
コース料理は6,500円、8,000円、10,000円の3種類。コースの内容は仕入れによって変わるそうだが、味わったことのない珍しい料理が次々と登場し、店員さんの料理にまつわる話を聞き感心しながら食べ進める時間が贅沢だ。ある日のコース料理のスタートは野菜をコトコト6時間も煮たスープ。温かいスープで胃を開いたら、鶏白子のペースト揚げ「鶏子戈渣(ガイチー)」が登場。希少な白子を蒸してペーストにし、卵黄を上湯とコーンスターチで伸ばしたベースに加えて練り混ぜ、1日冷やし固めた後に衣をつけて揚げた、という途方もなく手間暇をかけた一品は、表面さっくり中がトロリとコクのあるメニュー。
パクチー100%のパクチーサラダ「南方香菜沙律(ランフォンシャンツァイサーリ)」は根っこまでパリッと素揚げされて大地の恵みを感じる。鳩の醤油煮「鼓油鳩(シーヤオガップ)」は鳩を丸々使用し、八角やハーブ入りの自家製醤油に漬け、12時間湯煎して仕上げたもの。噛みごたえのある皮に醤油がからまり、手づかみで夢中で食べてしまう。
蓮の葉包みご飯「南方荷葉飯(ランフォンフォーイーハン)」からは蓮の香りがふんわり広がる。「鹹魚肉餅(ハムユイヨッペン)」は豚挽肉に、発酵した塩漬け魚の切り身をのせて蒸し上げたもの。肉汁にたまり醤油少量というシンプルな味付けだが、発酵した魚の切り身であるハムユイといっしょにくずして蒸し汁ごと食べると、ハムユイ独特の発酵感が滋味深く米が進む。お酒はワインとビールのみ。ワインはナチュールを中心に取り揃えているところも心憎い。
イタリア郷土料理を本場の雰囲気で堪能:ダペピ(巣鴨)
JR巣鴨駅から5分ほど、静かな路地に立つダペピは蔦のからまる小さなトラットリア。店名はイタリア語で「唐辛子」の意だ。こちらでは女将さんからその日のおすすめを聞きながらアラカルトで注文するのもよし、コースを選んでどんどん運んでもらうのもよし。
まず皆がオーダーするのがカリカリのパンに、「ペコリーノ」という羊のチーズとイチジクをのせたおつまみ。チーズのさらりとした甘みと、イチジクの濃厚な甘みがバランス良い。
パルミジャーノたっぷりの「サラミ&ルッコラサラダ」、豆や野菜などのスープ料理「リボリータ」(1,250円)、長時間煮込んだホロホロ鳥、薄切りのパンや野菜、チーズを重ね、その煮汁を加えてオーブンで焼いた郷土料理「ソーパ・コアーダ」(1,800円)など、どれをとっても田舎風の味わいがしみじみおいしい現地の味だ。内臓料理も十八番で「ランプレドット(牛の第4胃の煮込み)」(1,000円)や、地鶏レバーのパテと「クロスティーニ」(650円)などが常設メニューだ。ボリュームが多めなので、4人くらいでわいわい色々なものを食べるとさらに楽しめる。
昼からとことん飲んで食べて、これぞ下町大衆酒場:丸千葉(南千住)
未開拓エリアに一歩足を踏み出して、見たことのない世界に身を置いてみたい! アウェイな状況を楽しんで、味わったことのない食べ物に出会い、見たことのない世界を知る。未知との遭遇と、それを嬉々として受け入れる寛容さ。これこそファッションの真髄にも通ずるのではないだろうか。
※価格は税抜