おしゃれフードトレンドを追え! Vol.48

ホッとするおいしさに、おかえり! 和風パスタ

「東京たらこスパゲティ」の「素たらこスパゲティ」979円(写真:お店から)

たらこスパ、納豆スパ、アサリと青じそスパ、ツナ&大根おろしスパ。35才以上には懐かしい和風スパゲティが今、大人気だ。渋谷には「東京たらこスパゲティ」がオープンし、出汁で食べる進化系たらこスパの斬新さが話題になっている。しかしそんな進化系ではなく、昔ながらの和風スパも人気復活の兆しで、和風スパ行列が都内のあちこちで目撃されている。ファッション業界でも若い男子を中心にランチに和風スパ大盛り、というのが最近の気分ということだ。

ダン(出典:芝生人間さん)

行列ができる店の特徴は、スパゲッティ専門店であること、いわゆるお洒落系ではなく昔懐かしい雰囲気の喫茶店的なルックスであること、具材のバリエーションが豊富でメニューが50種類以上と多く、生パスタではなくバリラやディ・チェコのツルツル系乾麺、全て大盛り対応が可能ということだ。これは小洒落たパスタではなく、日本人のための日本人が作ったスパゲティだ。たらこベースが一番ポピュラーで、それにウニやイカなど魚介をプラスしたり、納豆をトッピングしたりとジャパニーズな自由さを極めている。

 

私は今回3店をリサーチしたが、どこでもお洒落な20代男女が揃って大盛りを頼む姿が目立ち、オーダーも「アサリとキムチ、ノリをのせてください!」や「タラコとウニとキムチ、大盛りで!」など具を3つは入れるというクリエイティビティ。イタリア人が見たら仰天しそうな具と味付けが、毎日食べても飽きないおいしさなのだ。気取らずに自分好みの味を見つけて、大盛りでがっつり食べる。意外な具のミックスに挑戦する醍醐味もありそうだ。

数え切れないほど豊富な和風パスタの総本山!:スパザウルス(代々木上原)

出典:taityo2009さん

お洒落業界人の憧れタウン、代々木上原の駅前のスパゲティ専門店「スパザウルス」は、外観にもの凄い数のスパゲティ写真が貼られており、行列に並ぶ客は「今日はどれにしようか」と悩みながらワクワクしている。店内は自然光が入るナチュラル系で白木のカウンターやテーブルがかわいい雰囲気だ。「ハシヤ」(「壁の穴」から派生した店で、東京スパを語る上では外せないお店)から独立した店主が始めたスパゲティ店ということで、ハシヤ本店閉店後の今、和風スパゲティファンはここに殺到しているのだとか。

「タラコとイクラ」1,300円

味のベースはトマト、唐辛子入りトマト、トマトクリーム、ナポリタン、ミートソース、醤油風味、バター風味、ホワイトソース、生クリーム、カルボナーラ、サラダのスパゲティ、あさり、ペペロンチーノ、スープと実に豊富。その中で具材によってさらに細分化されているのでその組み合わせは膨大だ。バター風味で人気No.1はなんといってもタラコ。タラコだけで13種類もあるので迷うが、そこはリピーターが多いからか皆即決でオーダーしている。

「タラコとイカ」1,200円

もっちり麺にこってりと絡むクリームや具材、ボリュームもたっぷりだ。ミートソースと納豆など禁断のねばねばソースも絶品だし、濃厚ウニとタラコのミックス具合も食欲をそそる。モリモリ食べる男子の救世主的なスパゲティだ。

懐かしい味と接客の良さで愛される老舗:アンクルトム(恵比寿)

出典:べぇこんさん

1993年オープンの恵比寿「アンクルトム」も、ハシヤ系のスパゲティ専門店。喫茶店風のウッディな店内は落ち着いた雰囲気。カウンター席では麺を茹でているところが見えるのだが、約1キロの麺を一気に茹でて大きなザルに上げる様は圧巻だ。

「タラコとウニとイカ」1,260円
「ナスとしめじ」1,370円

メニューのバリエーションも多く、木の器にこんもり盛られたタラコスパはバターが濃厚で食べ進めるほどに味わい深く、ナスとしめじは醤油味が利いていて、油も絡んでこってり濃いめで全体的に塩も利いている。茹で上げからソースの絡め、盛り付けまでなんともリズミカルに進む様は、ラーメン店に似た臨場感がある。元気な挨拶とテキパキとした接客ともに好印象。BGMはビートルズだ。

モチモチたらこスパゲティに長年のファン多し:ダン(目黒)

出典:ishiyama1480さん

目黒でスパゲティといえば「ダン」、創業1976年のスパゲティ専門店だ。ここでタラコスパを食べたら他では食べられないという人もいるほど、病み付きになるファンが多い。昔の喫茶店のようなインテリアで、このスタイリッシュを狙っていないムードがお洒落な人をむしろ魅了してやまない。

「タラコイカ大根おろし」1,050円(出典:morouhさん)
「ミートソース」1,000円(出典:Brunaさん)

太めのモチモチ麺、タラコイカ大根おろし(1,050円)はバターが絶妙にうまく絡んで絶品。ボリュームが少なめなので大盛りをオーダーし、テーブルに置いてある「ゆかり」を振りかけて味変しながら食べることをおすすめする。イカ明太(950円)、たらこイカサザエ(1,020円)、たらこ納豆(950円)など魚卵系が豊富だが、ボンゴレトマト(1,200円)やミートソース(1,000円)なども安定の人気。ランチタイムは周辺の広告業界や芸能関連の人々が殺到している。トッピングも自由にでき、お値段も抑えめなのがうれしい。

壁の穴(出典:胃ちゃんさん)
写真:お店から

1953年創業、渋谷区道玄坂のパスタ専門店「壁の穴」は、タラコスパやウニスパ、納豆スパを生み出した和風スパゲティ発祥の店だ。80年代後半からのいわゆる「イタメシ」ブームに後押しされ、イタリアンパスタとともに日本独自のタラコスパが人気になり、「五右衛門」などチェーン店も生まれて全国的に和風スパゲティブームとなった。そして今! 90年代の和風スパを知らない若者たちも巻き込んで、90年代からタラコスパを食べている“懐かし世代”も混じって、スパゲティ界隈が盛り上がっているわけだ。静岡出身の私は「パスタ屋一丁目」(1977年創業のスパゲティ専門店、静岡県内に13店舗)に行ってツナと大根おろしのスパゲティを食べた高校時代を懐かしく振り返っている。ノスタルジーを感じる世代と新しさに惹かれる世代、両方を引きつけて和風スパが帰ってきた。

 

※価格は税抜

 

撮影・文:小泉恵里