禁断のなめらか食感。トロふわ具合がタマゴ料理の肝!?

タマゴを愛してやまない料理人、“エッグマスター”にその熱き思いを語っていただく本連載。第一回は「トロふわタマゴ料理」にクローズアップ。なめらかな舌触りと、濃厚な黄身の風味。箸を入れると抵抗なく切れる柔らかさ。トロふわなタマゴ料理は、我々を惹きつけてやまない魅力にあふれている。

 

今回はトロふわタマゴ料理の真髄に触れるため、「水たき」で有名な「げんかい食堂」さんに足を運んだ。

水たきで仕上げた味わい深い親子丼。「げんかい食堂」の「親子御膳」

弱冠24歳の料理長、伊藤充さん。好きなタマゴ料理は「出汁巻卵」

創業90年以上の老舗水たき店「水たき玄海新宿本店」。その伝統の味をより手ごろに楽しめる店が、本店と同じ建物内にある「げんかい食堂」だ。常連客以外にも、最近では外国人観光客など様々な人が来店する。

 

「東京で初めて水たきを紹介したのは創業者の矢野廣雄と言われているんです」と語るのは、料理長の伊藤さん。そんな同店で注目したいのが、水たきの出汁で作るという「親子御膳」だ。

 

20年ほど前に誕生したこちらは、「シメとしてもサラサラと食べられ、でも濃い味の親子丼を作りたい」と前料理長が考案した、とっておきの親子丼。

さっぱりとしているのに、濃厚な醤油出汁の味わい

「出汁には水たきを使っています。福島の伊達鶏という地鶏から取った自慢の出汁です。そして、中の肉には餌にハーブを混ぜて飼育された、福島県産ハーブ鶏。タマゴも福島県産のものを使っています」と伊藤さん。

そこまで素材にこだわっているのに1,000円という低価格、そして昔から変わらぬ味わいが人気の理由だそう。

トロトロに仕上げるための工夫は、特注の“銅なべ”を使用していることだという。熱伝導に優れていて、鉄のものよりも均等に火が入り、全体的にふわふわとしたタマゴに仕上がるんだとか。

 

また、ご飯の上には少し柔らかめのタマゴをのせ、その上に鶏肉、さらに先ほどよりも少し硬めのタマゴを被せることで、ごはんのすぐ上のタマゴはご飯と混ざりやすく、タマゴの硬さの違いも楽しめるようなカラクリになっている。

 

さらに長年変わらない味を提供していくために、煮詰め過ぎていないか、味は濃過ぎないかなど、毎朝料理長自身が食べて確認しているという徹底ぶり。そこには、タマゴにかける料理人のこだわりがあった。

「親子御膳」1,000円(税込)

「小さい頃からタマゴは大好きで、大人になった今でも大好きです。和食でも、洋食でも必ずそこにある、いつも寄り添ってくれる日常に欠かせないもの。特別高いわけでもないし、手軽にいろんなアレンジを加えられて新たな味を生み出す手助けをしてくれる、料理人にとっては幸せな食材ですよね。その反面、オムライスや出汁巻卵などタマゴが主軸となる料理は“基本”と言われているにもかかわらず、難しさが存在していて……なかなか奥深い素材です」

「昔、先輩に“タマゴの気持ちになれ”とよく言われました。難しい食材だからこそタマゴの側に立たないとうまくいかないんだと思うんです。いつ食べても変わらないおいしさをお客様に提供するために、基本を横着せずにこれからも作ることが大切なのかもしれませんね」。そう語る伊藤さんには、憧れの出汁巻卵職人が居るそう。その方を超えるべくタマゴへの思いを募らせながら日夜タマゴ料理作りに勤しんでいるそうだ。

 

お昼でも夜でも1,000円で食べられる「親子御膳」。「水たき玄海」新宿本店では今年から夜の営業も始めた。お昼時に1,000円ランチを楽しむもよし、鍋のシメで食べるもよし。名店の味に舌鼓を打ちたい。

 

思わず目を奪われるトロふわっぷり。ほかにも色々絶品タマゴ料理

絶妙な火加減と鍋使いで絶品トロふわタマゴ料理を作りあげる“エッグマスター”達。ここでは、他では食べられないような唯一無二のトロふわタマゴ料理店をピックアップ。

1. デミクラスソースの酸味がやみつき。「ファウスト」の「特製オムライス」

出店:hossystさん
特製オムライス 1,000円(税込)/出典:hossystさん

神泉の高級住宅街のなかに佇む老舗洋食店「ファウスト」。今回紹介する「特製オムライス」はタマゴを2個使ったトロットロのオムレツに、酸味の利いたデミグラスソースと、まろやかな生クリームをかけた絶品オムライス。口に入れるとふわっと広がるタマゴとソースの香りがたまらない一皿だ。

 

2. 計算しつくされたタマゴと蟹のバランス。「かにチャーハンの店」の「半熟卵のかに玉炒飯」

「半熟卵のかに玉炒飯」820円(税込)/出典:y_recさん

メニューは基本、かにチャーハンのみという蟹チャーハン専門店。ここでは“あん”から立ち上る湯気が食欲をそそる「半熟卵のかに玉炒飯」をご紹介。トロふわタマゴのドレスの頂上にはたっぷりの蟹の身が鎮座する、美しい一品。

 

3. 店主が厳選したバリエーション豊かなタマゴの数々を味わえる「喜三郎農場」の「ゆうやけ親子丼」

「ゆうやけ親子丼」880円(税込)
「ゆうやけ親子丼」880円(税込)   写真:お店から

店主自ら全国を渡り歩いて見つけた絶品タマゴが楽しめるタマゴ専門居酒屋。

「ゆうやけ親子丼」は山梨県にある中村農場で育った甲斐路軍鶏と、ビタミンEが一般のタマゴの約20倍と言われる群馬県産「ゆうやけ卵」の、地鶏とブランドタマゴの親子丼。

 

「ゆうやけ卵」は黄身が夕焼けのように赤いことからその名が付けられたそう。その特徴でもあるこってり濃厚な旨味と、トロふわな口どけに、箸が止まらなくなること間違いなし。

 

4. 地元に愛される京都中華の名店「芙蓉園(ふようえん)」の「鳳凰蛋(ほうおうたん)」

「鳳凰蛋」700円(税込)/写真:お店から

京都人から愛される中華の名店。ここへ来たら必ず頼みたい、店の代名詞的メニューが「鳳凰蛋」だ。こちらは“鶏肉入り玉子焼き”のことで、鶏出汁を利かせた優しい味わいが特徴とのこと。トロふわのタマゴに浮かぶ鶏肉を、ご飯とともにかきこみたい。

 

シンプルだけど忘れがたい。トロふわタマゴに溺れたい

今回ご紹介した5店舗は、トロトロふわふわのタマゴがやみつきになるものばかり。バラエティ豊かなトロふわ食感を楽しんでみてはいかがだろうか。次回は「ふわふわスフレ」の“エッグマスター”をインタビュー。乞うご期待!

 

※「食べログ」に掲載されている情報をもとに、料理名・金額を掲載しております。最新の情報はお店の方にご確認ください。

 

企画・取材・文:天野成実(Roaster)
撮影:栗原大輔(Roaster)