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禁断のなめらか食感。トロふわ具合がタマゴ料理の肝!?
タマゴを愛してやまない料理人、“エッグマスター”にその熱き思いを語っていただく本連載。第一回は「トロふわタマゴ料理」にクローズアップ。なめらかな舌触りと、濃厚な黄身の風味。箸を入れると抵抗なく切れる柔らかさ。トロふわなタマゴ料理は、我々を惹きつけてやまない魅力にあふれている。
今回はトロふわタマゴ料理の真髄に触れるため、「水たき」で有名な「げんかい食堂」さんに足を運んだ。
水たきで仕上げた味わい深い親子丼。「げんかい食堂」の「親子御膳」
創業90年以上の老舗水たき店「水たき玄海新宿本店」。その伝統の味をより手ごろに楽しめる店が、本店と同じ建物内にある「げんかい食堂」だ。常連客以外にも、最近では外国人観光客など様々な人が来店する。
「東京で初めて水たきを紹介したのは創業者の矢野廣雄と言われているんです」と語るのは、料理長の伊藤さん。そんな同店で注目したいのが、水たきの出汁で作るという「親子御膳」だ。
20年ほど前に誕生したこちらは、「シメとしてもサラサラと食べられ、でも濃い味の親子丼を作りたい」と前料理長が考案した、とっておきの親子丼。
「出汁には水たきを使っています。福島の伊達鶏という地鶏から取った自慢の出汁です。そして、中の肉には餌にハーブを混ぜて飼育された、福島県産ハーブ鶏。タマゴも福島県産のものを使っています」と伊藤さん。
そこまで素材にこだわっているのに1,000円という低価格、そして昔から変わらぬ味わいが人気の理由だそう。
トロトロに仕上げるための工夫は、特注の“銅なべ”を使用していることだという。熱伝導に優れていて、鉄のものよりも均等に火が入り、全体的にふわふわとしたタマゴに仕上がるんだとか。
また、ご飯の上には少し柔らかめのタマゴをのせ、その上に鶏肉、さらに先ほどよりも少し硬めのタマゴを被せることで、ごはんのすぐ上のタマゴはご飯と混ざりやすく、タマゴの硬さの違いも楽しめるようなカラクリになっている。
さらに長年変わらない味を提供していくために、煮詰め過ぎていないか、味は濃過ぎないかなど、毎朝料理長自身が食べて確認しているという徹底ぶり。そこには、タマゴにかける料理人のこだわりがあった。
「小さい頃からタマゴは大好きで、大人になった今でも大好きです。和食でも、洋食でも必ずそこにある、いつも寄り添ってくれる日常に欠かせないもの。特別高いわけでもないし、手軽にいろんなアレンジを加えられて新たな味を生み出す手助けをしてくれる、料理人にとっては幸せな食材ですよね。その反面、オムライスや出汁巻卵などタマゴが主軸となる料理は“基本”と言われているにもかかわらず、難しさが存在していて……なかなか奥深い素材です」
「昔、先輩に“タマゴの気持ちになれ”とよく言われました。難しい食材だからこそタマゴの側に立たないとうまくいかないんだと思うんです。いつ食べても変わらないおいしさをお客様に提供するために、基本を横着せずにこれからも作ることが大切なのかもしれませんね」。そう語る伊藤さんには、憧れの出汁巻卵職人が居るそう。その方を超えるべくタマゴへの思いを募らせながら日夜タマゴ料理作りに勤しんでいるそうだ。
お昼でも夜でも1,000円で食べられる「親子御膳」。「水たき玄海」新宿本店では今年から夜の営業も始めた。お昼時に1,000円ランチを楽しむもよし、鍋のシメで食べるもよし。名店の味に舌鼓を打ちたい。