〈おいしい歴史を訪ねて〉

歴史があるところには、城跡や建造物や信仰への思いなど人が集まり生活した痕跡が数多くある。訪れた土地の、史跡・酒蔵・陶芸・食を通して、その土地の歴史を感じる。そんな歴史の偶然(必然?)から生まれた美味が交差する場所を、気鋭のフォトグラファー小平尚典が切り取り、届ける。モットーは、「歴史あるところに、おいしいものあり」。

第18回 狸小路7丁目は札幌の食文化の遺産かな

札幌に僕の好きなお城はないが、明治2年(1869年)に北海道開拓の拠点となった札幌は、北の大地の原点と言えるかもしれない。いまや人口190万人超の大都会だ。

札幌の名の語源は、アイヌ語の「サッ・ポロ・ペッ」(乾いた・大きな・川)みたいな意味らしい。

 

札幌といえばジンギスカン(味噌ラーメンと言う人もいるが)。ビールと味わえば最高のパフォーマンスが楽しめる。夕方に到着して、さあ、繰り出すぞと意気込んでいたら、仲間から「まずは、狸小路に行け」という指示。

 

なお、札幌の「狸小路」は、日本全国にある「狸小路」の発祥の地だという。なぜ、狸か? よくわからないけど。狐と化かしあうぐらいミステリアスなんだろう。ここは札幌の食のカルチャースポットなんだ。札幌狸小路商店街は南2条と南3条の中通に存在する、約1キロのアーケード商店街である。市内どこからでもタクシーですぐだ。

その中でも最高なディープな場所が狸小路7丁目と誰もがすすめる。1丁目から7丁目までのお店がすべて「狸小路商店街」に加盟しており、1丁目から続くアーケードは7丁目のみ旧アーケードのままになっている。まあ、7丁目は新しいことを拒否しているのかなあ。なぜならば、ここはほぼ地主がお店を経営しており、安くておいしい味を保つのに、見ての通り立派なアーケードはいらないということかもしれない。歩いてみるとなるほど。どの店もにぎわっていて、客においしいものを提供したいという愛に溢れている。札幌ではここでしか体験できないたくさんの味がある。

狸小路7丁目の目玉はやはりジンギスカン「アルコ」だった

で、ジンギスカンである。狸小路7丁目商店街にある、「アルコ」へ。昔はスナックだったというこちら、店内を覗いてビックリ。12席ほどのU字のカウンター席しかない。お店には予約を入れていたが、予約の時間より少し早く行ったら満席だ。商店街散策のあと19時過ぎにお店に入ると、誰もいない。そしたら、あっという間に席はお客さんで埋まった。

みんな旨いものをさっさと食べて次に繰り出すのかな。ここではあたり前らしいが、もちろんお肉は冷凍ではなく生だ。そして肉厚がすごい。常に新鮮なマトンが使用されている。ときに煙が目にしみながらも、この炭火のジリジリやるジンギスカン鍋が頼もしい。

焼き野菜はお代わり出来るそうで、練炭で熱くなったジンギスカン鍋にモヤシと玉ねぎをワサッと入れて、真ん中に羊の脂をチョコンと。タレは酢醤油のような味わいで、おろしニンニクと粉唐辛子を好みで入れる。とにかくおいしかった。ニンニクが少しきついがそれもみんなで食べれば怖くない。僕にとって、ここは札幌ジンギスカン天国の最頂点だ。

札幌の叙情的な空間求めて「ELSKA」へ

地元の友人がおいしいワインを飲もうと連れていってくれたのがこちら。一歩足を踏み入れれば、本棚なんかがあっておしゃれな空間。

1階はカウンターで常連がわいわいやっていた。2階に案内されて、スペインのカヴァで乾杯。つまみには北海道の野菜を頼んだが、これが新鮮でおいしかった。

野菜とベーコンのコンビも卵がからんで、それぞれの旨みがまろやかにまとまりおいしかった。ワインはスマートで繊細なシャルドネをオーダー。意外にも、クリームコロッケと相性バッチリ。

女性陣が楽しそうにデザートを頬張っていた。夜はまだまだだ。ふと、昔住んでいたパリの下町を思い出した。

取材・文:小平尚典