長野県・北安曇郡白馬村といえば、冬のスキーのイメージが思い浮かぶ人が多いのではないだろうか。しかし今、「白馬のグリーンシーズン」がすごいことになっているという。

 

前回の“天空のテラス”「ザ シティ ベーカリー HAKUBA MOUNTAIN HARBOR」に続いて、白馬のグリーンシーズンの“食”の魅力をご紹介しよう。

山の麓町で食べる自家製ベーコン

長年、白馬で洋食屋を営む「グリンデル」は、地元民はもちろんのこと、白馬に足繁く通うウィンターシーズンの観光客も通い続ける名店だ。

 

長野県と聞くと、そばを連想する人は多いだろう。ここ白馬も同様で、そば屋の数は少なくない。その一方で、せっかく白馬に来たのだから、「白馬ならではのものを食べたい!」と思うかもしれない。そんなとき、ぜひ訪れてほしいお店が、ここグリンデル。自家製のベーコンやソーセージをメインとした洋食の数々は、玲瓏たる後立山連峰(うしろたてやまれんぽう)に囲まれた山の町・白馬のイメージとピッタリ。

「ベーコンステーキ定食」(1,150円)

こちらはグリンデルの目玉メニューと言ってもいい「ベーコンステーキ定食」。まず、厚みがスゴい。少年マンガで主人公が食らいつくレベルの肉感である。そして、写真からも分かるように肉の照り輝き方が美しい。冬の朝の白馬岳山頂のごとくピカピカしている。

 

表面はカリカリ。噛めば噛むほど、肉の甘さが際立つ。燻製ゆえに「塩けが強いのでは?」なんて思うかもしれないが、塩味はほどよく、肉のうまみがしっかり感じられる。許されるのであれば、いつまでも噛んでいたい……。そんな気持ちになる、スモーキーさがくせになる味わい。

「スモークソーセージ」(750円)

こちらはアラカルトで頼むことができる「スモークソーセージ」。グリンデルでは、「スモークチキン」「虹ますスモーク」「岩魚スモーク」など、自家製のスモーク料理を数多く揃えている。それぞれを食べ比べてみるのも面白いだろう。

 

それにしても、なぜこれだけのスモーク料理が並ぶのか?

 

店長さんにお話を伺うと、「かつて勤めていたスキー場の同僚が燻製を作るのがとても上手でおいしかったんです。その人から教えてもらううちに自分も燻製にはまってしまい、お店のラインアップに加えるように」とのこと。趣味が高じて、今や目玉商品になるまでの美味なスモーク料理を作り出してしまったというのだから驚きだ。

こちらは「サーモンステーキ定食」(1,150円)

グリンデルの洋食はどれもボリューム抜群だが、味はとても繊細。洋食にありがちな、胃がもたれるという感覚はない。

自家製スモーク

また、自家製スモークは、お土産として購入することも可能だ。宿泊先のホテルでビール片手に舌鼓を打つもよし、帰郷先で白馬の景色を思い出しながら食べるもよし。「富士には、月見草がよく似合う」とは、 太宰治の短編『富嶽百景』に登場する名文句だが、「山の町には、燻製がよく似合う」と思えてならない。

山の町なのに、実は魚もおいしい!

白馬の岩岳スノーフィールドにほど近い新田エリアにある「庄屋丸八ダイニング」も、夏の白馬で訪れてほしい食のスポット。

 

現在、新田エリアは、いくつかの団体の連合体として新会社「自然と伝統の融合した白馬岩岳の街並み活性化株式会社」を設立するなど、白馬の中でも再開発が進む地域。といっても、近代的な街並みに変えてしまおうというわけではない。“自然と伝統の融合”とあるように、古い街並みを活かしつつリボーンを図っている。昨年12月にリニューアルオープンした「庄屋丸八ダイニング」は、築約160年の歴史的古民家をリノベーションし、外観、内観ともに和を感じさせる、白馬随一のオリエンタルな場所だ。

あまり知られていないが、白馬は日本海に面した新潟県・糸魚川市へ車で1時間ほどでアクセスできる場所にある。糸魚川から松本・塩尻方面へ伸びる千国街道は、戦国時代以降、塩や海産物を内陸に運ぶために使われた“塩の道”として重宝され、中継地点である白馬も街道筋として賑わいを見せていた。現在も、白馬村と、近隣の小谷村、大町市では毎年5月初旬に「塩の道祭り」が催されるなど、山の町でありながら白馬は塩や海ともなじみが深い。そんなわけで、実はお刺身もとてもおいしいのだ。

ドライアイスを雲海に見立てた「お造り盛り合わせ5種盛り」(2,180円)

「糸魚川の競りは、国内では珍しい午後に始まります。そのため、水揚げされて競り落とされた魚が夕方~夜に届き、とても新鮮な状態で提供することができます」と話す、庄屋丸八ダイニングの松本料理長。「山に囲まれているんだから魚は大したことないんでしょ?」なんて思っていたら大間違い。白馬の魚は、むしろうまいのである。

 

「糸魚川の漁場は、海底の地形が急峻なため、豊富な種類の魚が集まります。“日本海の生け簀”なんて呼ばれることもあるほどです。お刺身はもちろん、冬季は新鮮な魚介類を炉端焼きとして提供しています」(松本料理長)

 

古民家で食べる新鮮な刺身、そして炭火でじっくり焼いた魚。安曇野の名酒「大雪渓」、白馬の地酒「白馬錦」をくいッと一飲みする日には、ここが山の町であることを忘れてしまいそうになる。ほろ酔いで宿に戻り、翌朝目覚めると目の前に圧倒的な北アルプスが広がる。白馬は、エリアによって過ごし方や、食のチョイスもさまざまだから面白い。単なる“美しい山の麓町”という域を、完全にK点越えしている。

 

もちろん、「庄屋丸八ダイニング」は魚以外にも美味な料理が揃う。

「野沢菜クリームコロッケ」(690円)

「野沢菜クリームコロッケ」は、野沢菜の塩味と、クリームコロッケのほのかな甘みが相性◎

「牛たたき燻製ロースト」(1,400円)

「牛たたき燻製ロースト」は、桜チップがくゆる演出が食欲をそそる!

 

開店から約半年が経過。連日のように満席が続き、利益予測を10%超過するほど、今や白馬屈指の人気店へと成長する同店は、今年5月末には、東京・国分寺駅に姉妹店(「炉端 丸八 国分寺」)を出店。白馬の人気店が東京に進出を果たしたことからも、その味と人気がうかがい知れるだろう。

白馬は、共通自動改札システムを導入したことで、冬季は「日本最大のスキー場」として生まれ変わった。2~3日かけても、とてもではないが周り切れないほどスノーフィールドがあちこちにある。何日滞在しても飽きが来ないように――。そのコンセプトは、いま夏にまで広がりを見せている。白馬の夏が、数日では回り切れないほどの魅力的な食べ物やスポットに溢れる日も、そう遠くないはずだ。

 

※価格は税込

 

取材・文:我妻弘崇(アジョンス・ドゥ・原生林)