〈和菓子と巡る、京都さんぽ〉

四季折々の顔を見せる名所を訪れたり、その季節ならではの和菓子を食べて職人さんたちの声を聞いてみたり……。ガイドブックでは知り得ない京都に出会う旅にでかけてみませんか。

 

あなたの知らない京都について、京都在住の和菓子ライフデザイナー、小倉夢桜さんに案内していただきましょう。

其の十九 花鳥風月を感じられる京菓子を作り続ける「紫野源水」

京都市上京区堀川寺之内周辺は、宝鏡寺、本法寺、妙蓮寺、妙顕寺など古刹(古い寺)が点在しており、時間を気にすることなくのんびりと散策をしていただきたいエリアです。

 

観光客が比較的少ない為、木造の家並みが続く、京都らしい雰囲気を静かに楽しむことができます。

堀川寺之内

桜シーズンになると、多くの寺院境内の桜が咲き、隠れたお花見スポットとして地元住民に親しまれています。

堀川寺之内

また、秋の紅葉シーズンには堀川通のイチョウ並木が黄金色に染まります。

堀川寺之内

大きなイチョウの木が続く並木路が色づいた光景は圧巻です。

甘いもので、ひとやすみ。

このイチョウ並木からほど近く、北大路新町を下ル(南へ)とすぐ右手に和菓子屋があります。

著名人もプライベートで買い求めに通う、御菓子司「紫野源水」です。店内は、落ち着いたとても京都らしい雰囲気。

 

お店に入ると気さくなご主人の奥様が出迎えて接客をされるお店です。

 

こちらのお店の創業は34年前。京都では比較的新しいお店となりますが、ご主人は江戸時代後期1825年より営まれてきた「源水」(2018年に廃業)の6代目の三男として、この世に生を享けました。

 

ご主人が33歳の時に「源水」の分家として、現在の場所に店を構えられました。

紫野源水・外観

 

「小さい頃、どうしても和菓子屋になろうとは思ってなかったんです。高校を卒業するのを機に自然の流れで店の手伝い(修行)をするようになったんです」

 

そう語ってくださったのが現在67歳となったご主人。

 

「小さい頃から店の手伝いをしていたんで違和感なく手伝うことができたんですけど、和菓子職人としてはまだまだでした。技術を磨くことで必死でした。親父は、私に何一つ教えることはありませんでした。仕方なく、見て技術を盗むことしかなかったんです。

 

私の作ったお菓子を見て、出来が良かったら使ってくれますが、出来が悪かったら、怒ることなく、『後はするわ』と言って黙々と手直しをしだすんです。和菓子作りに関しては、私に対して一度も怒ったことはありませんが、私にとっては、それが一番怖くて、厳しく感じました。手直しをされないようにするのに必死でした」

 

和菓子職人として技術を磨く日々が続いたご主人ですが、30歳を目の前にした頃から独立を意識するようになります。

紫野源水・店内

「それまでは、独立なんてまったく考えたこともなく、一番上の兄を支えて三兄弟で店をやっていくつもりでした。でもいつからか自分の和菓子を意識するようになってきたんです。

 

そこから新店舗のことなどが、とんとん拍子で話が進み、親父や兄に独立の意思を伝えると快く送り出してくれました。屋号は『源水』の名前に地名である『紫野』を付けて『紫野源水』としました」

独立が迫った頃を振り返りご主人は、こう語ります。

 

「独立に際しては一からのスタートでした。お客さんを作る為に独立前から夫婦で社寺などへ営業に出かけたりはしましたが、結果はうまくいかず、『ほんまにやっていけるんやろか』と不安ばかりが募りました。『アカンかったらその時に考えたらいいわ』と開き直って店のオープンを迎えました」

 

その不安は取り越し苦労となり、創業以来、和菓子を作るご苦労はあるものの、お店の営業としては順調にここまできたそうです。

 

「ほんまに運が良かったんやと思います。時代背景やええお客さんに恵まれてきたんやとつくづく思います」

紫野源水・店内

こちらのお菓子は、「原材料」、「季節感」、「色彩」を大切にし、特に原材料については、こだわりをもって取り組まれています。

 

主原料である小豆は、風味の良い丹波産を使用。丹波産の中でも良質な小豆を選定する為に、収穫された小豆を加工することなく、ご主人がそのまま口にしてみて歯ごたえや皮の硬さなどを見極めます。

 

「長年の経験で生の小豆を口にすると、小豆の炊き上がりが想像できるんです。妥協することなく、自分が納得した原材料を使用して手間暇かけてお菓子を作ることによって、はじめておいしいお菓子ができると思って今までやってきました。和菓子職人として大切なのは、臨機応変に対応できる能力だと思います。

 

原材料はその年の気候によって変化するんです。小豆の場合は、雨が多い年、少ない年で小豆に含まれる水分量が変わり、硬さが違うんです。その小豆に適した炊き方を見つけ出す必要があるんです。失敗して材料を無駄にすることなく、その場で臨機応変に対応して、理想の餡に仕上げていくことが、一番大切なんです」

 

創業当時より、販売されている代表銘菓「松の翠(みどり)」。

「松の翠」

短冊状の型に羊羹を流し入れたあと、大納言小豆を散らして、すり蜜と寒天を混ぜ合わせたものをかけた半生菓子。表面は松の幹肌を表現している縁起物の和菓子です。

「涼一滴」

夏の時期だけ販売される涼菓「涼一滴」は、創業当時より考案して創業の翌年より販売を始めたお菓子です。

 

その当時は、夏場になると売り上げが下がっていた和菓子屋。そこで夏場の売り上げを落とさないように、どこの和菓子屋でも、夏場になると水羊羹を販売していました。

 

「普通に小豆の水羊羹だけでは、他のお店と変わらないんで、他のお店に無い新しいお菓子をと思ったんです。近くには大徳寺などの禅寺があり、精進料理には胡麻豆腐が出されます。その胡麻豆腐のようなものをお菓子にできないかと思って色々と作ってみました。その結果、白小豆に白ゴマを混ぜたお菓子ができたんです」

「涼一滴」

良く冷えた白磁の器に入ったお菓子は、夏の陽射しで火照った身体に癒やしを与えてくれます。手間暇かけて作られた小豆と白小豆のこしあんの水羊羹は、舌に何も残らないさらりとした口どけが特徴です。特に高級な白小豆を使用した水羊羹は、贅の極みです。

 

それから、一年を通して販売されている上生菓子。

「福梅」

花鳥風月を感じられるこちらのお店の上生菓子は、お菓子に菓銘が添えられることによって、初めてお菓子に表情が表れる京菓子らしいものばかりです。

 

初めて和菓子に触れる方にとっては、分かりにくく感じるかも知れませんが、その素晴らしさを知ると、こちらのお菓子がいかに優れた、味わい深いものか実感できます。京都に暮らす茶人たちが足繁くお店に通うのも納得です。

 

「店を持つまでは、技術を磨くことばかりに一生懸命だったんで、お菓子の意匠に関しては全くあきませんでした。お菓子の意匠を真剣に意識して学ぶようになったんは店を出してからです。お菓子のことはもちろん、その他に和歌など幅広い知識が必要です。ほんまに学ぶことが多いんです。

 

写実的なお菓子ではなく、抽象的な京菓子らしいお菓子にこだわってます」

 

そう語るご主人の手から作り出される上生菓子は、どれも奥深さを感じるものばかりです。

「春告鳥」

京都でもあまり見かけることがないお菓子の一つ「薯蕷(じょうよ)練り切り」。一般的に練り切りといえば、つなぎに求肥を使用しますが、こちらのお店では、丹波産のつくね芋を使用します。つくね芋の皮を一つ一つ丁寧にむくところからはじまり、蒸して、裏漉しを数回行う非常に手間暇かけたお菓子です。

 

「昔から薯蕷練り切りが好きだったんです。薯蕷練り切りは、(一般的な)練り切りに比べると何百倍もの手間暇がかかるんで商売としては採算が合いません。それでも自分が好きなお菓子をみなさんに食べてもらいたいと思って作っています」

 

口に入れた瞬間に鼻から抜ける独特なつくね芋の香り。そして、すうっと口の中から消えていくように無くなり、程よい甘みだけが口の中に残ります。

 

季節の移ろいに合わせて、「春告鳥」「桔梗」「水面の月」など、様々な意匠の薯蕷練り切りが販売されます。

「桔梗」
「水面の月」

「京菓子を作る上で、守る意識でやってしまうと衰退すると思ってます。小さな挑戦を繰り返して前へ進んでいくことが大事やと思います。生産者さん、業者さんとの信頼関係を大切にして、良質な原材料を使って自信の持てるお菓子を作り続けたいと思っています。

 

自分が作ったお菓子を買い求めに来てくれはることが菓子職人として一番幸せで職人冥利に尽きます。これからも、そういう風に自分が作ったお菓子を買い求めに来てもらえるように頑張りたいと思います」(ご主人)

 

素晴らしい原材料で作られたお菓子の風味を味わいに、出かけてみてはいかがでしょうか。

撮影・取材・文:小倉 夢桜-Yume-