【あの映画のあの味が食べたい!】

意図せずに、映画はいろいろなことを教えてくれる。恋愛物語を見てたはずなのにモーニングコーヒーの入れ方についてウンチクを覚えたり、カクテルシュリンプの間違ってるけどイカした食べ方をまねしたり。

 

とある場面のそれがどんな味でそのときどんな存在であるのか。映画のストーリーから思い起こされる食の遍歴(ログ)。それもまた美味しい。

『リトル・ミス・サンシャイン』アメリカンダイナーのア・ラ・モーディ?

大作家マルセル・プルースト学者でゲイの伯父フランクと思想家ニーチェに傾倒し沈黙の誓いを立てている兄ドウェーン。少女オリーヴを取り囲む彼らは寡黙で哲学的だ。それを陰とするならば、ヘロインをやる、口汚い、メチャクチャな祖父エドウィンと、勝つプロセスとポジティブシンキングにこだわり口が減らない父リチャードを陽とでも言おうか。

 

そのコントラストのままに、ああ言えばこう言う、口が減らないアメリカンな掛け合い。とくに、祖父がズケズケとのたまう核心をついた言葉や、父のナンセンスな発言に対して、伯父が目だけで静かに受け止めるやりとりは、ギリギリのところで成立している感じだけど、小気味よい。

(C)2013 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

この作品の特徴のひとつは、サウンドトラックだけでなく、会話の数々、そして物音など、耳馴染みのよい音に溢れているところ。道中、朝食をとるために立ち寄ったアメリカンダイナー。店内のBGMは軽快なデヴォーチカの異国音楽。オーダーしながらメニュー表を広げたり閉じたりする音。メモを取るウェイトレスと沈黙の誓いのため喋れない兄とが鉛筆を走らせる音。隣のテーブルの客が鳴らすフォークや皿の音。そして、小さなヒロイン、オリーヴがオーダーするかわいくて小さな声。

 

「決めた。これにする。私はワッフルと……ア・ラ・モーディって?」

 

アイスクリームだと答えるウェイトレスに向かって、オリーヴは嬉しそうに言った。

 

「OK! ア・ラ・モーディを!」

 

伯父のフランクは、ア・ラ・モードというフランス語なんだと教えてくれた。その意味を当世風と解釈するのがいかにも学者っぽくておかしい。ここまではよかった。黙ってられない父のリチャードがヨコヤリを入れてくる。フランクを閉口させ、アイスクリームの主成分をあげつらい、ミス・アメリカの体形はアイスを食べないからスリムなのだと言う。

(C)2013 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

がっかりしてしまったオリーヴ。さて、大人たちはどうする?

陽気なBGM、明るい朝の店内、愛想がいいウェイトレス、そして、お待ちかねの朝ご飯。ポジティブなことが並んでいるはずのテーブルで、全員ががっかりするほどのネガティブなことを言い放っていることに気づかない父。チョコレート味のア・ラ・モーディが運ばれてきても、オリーヴの表情はまったく冴えない。

 

「誰か食べる?」

 

不憫に思った祖父と伯父と兄が、すかさずフォローするのが微笑ましい。スイーツなんていうものにとっくに興味がなくなった大の大人たち。それよりもヘロインやヘビー級の朝食セットがいい祖父に、低カロリーのフレッシュなフルーツだけで足りてしまう傷心の伯父、それに沈黙を貫き自制した食生活を送る兄が、オリーヴのあまーいア・ラ・モーディをわざと横取りしようとする。

 

「待って! 食べちゃダメ」

 

まんまと彼らの術中にハマったオリーヴは、ア・ラ・モーディを口に放り込むと一瞬だけ目を閉じ、そしてとびきりの笑顔で、あまいチョコ味をたっぷりと味わうのだった。とてもおいしくて、とても幸せそうな少女の表情が、まだ物語の序盤だというのに心に響いてきて、笑顔にも音があるんだなと感じるシーンだ。

出典うい1107さん

子どもも大人も、アイスクリームでハッピースマイル♪

もうこうなったらオリーヴの勝ち。父のリチャードが何か言おうとしても無駄だ。そして、オリーヴのサンシャインのような笑顔を曇らせたくない味方が4人もいる。年齢を重ねてくると、アイスクリームは禁断の味。食べたら絶対においしいに決まっていて、オリーヴ顔負けのハッピースマイルになるだろう。

 

しかし、その分、脂肪がついてしまうし、ついたら取れにくい。プールで1000メートル泳いだところで500キロカロリーも消費できない。やはりリチャードが言ってることは正しい。だけど、おいしくてハッピーになった方が嬉しい。どちらがいいのか。この素晴らしい作品をエンディングまで堪能する前に、ア・ラ・モーディを食べるかどうかで、頭は(おなか)いっぱいになってしまう。

 

こういうときは、オリーヴと核心をつく祖父のエドウィンに倣って、目を閉じて口に放り込んでしまうとしようか。ちょうどオススメなのが、こちら。劇中と同じカリフォルニアンだけど、砂糖や乳製品を使っていないヘルシーアイスクリームがおいしい「KIPPY’S COCO-CREAM」千駄ヶ谷店。放り込んでも脂肪になってまとわりつかないから、オリーヴより何十倍もケアが必要な大人にも嬉しいア・ラ・モーディってわけ。これでミス&ミスター・ヘルシーに!

 

(C)2013 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

■作品紹介

田舎町アルバカーキで家族と暮らす少女オリーヴは、ひょんなことから美少女コンテストの地区代表に選ばれる。ちょっぴり太めの彼女だけど、“リトル・ミス・サンシャイン”になるのを夢見て、大好きな祖父とのダンスレッスンに余念がない。

パパとママ、それにニーチェに傾倒する兄、さらには素行不良な祖父やワケありの伯父までもが加わって、本大会が行われるカリフォルニアのレドンドビーチを目指すことに。なんとも調子がよくない黄色いワーゲンのマイクロバスはこの旅の波乱を予期しているかのようで、実は笑いと感動で胸がいっぱいになるロードムービー。

『リトル・ミス・サンシャイン』 ブルーレイ発売中:¥1,905+税

発売元:20世紀フォックス ホームエンターテイメント ジャパン