〈映画のあの味が食べたい!〉

『若い女』ささくれだった心に、フランス風のほっこりフライドポテト。

(C)2017 Blue Monday Productions

 

2013年、和食がユネスコの無形文化遺産に認定されたことは日本人にとって大きなニュースになりましたが、ベルギーでは、フライドポテトをユネスコの無形文化遺産に登録しようとしているそう。

フライドポテトは、17世紀にベルギー南部のナミュール地方で魚の代わりにポテトを揚げて食べたのが発祥とのこと。ベルギーでは8月1日が「フライドポテトの日」にもなっています。

 

が、これに待った!をかけたのがフランス。

今年8月、フランスの大手新聞である「ル・フィガロ」が、フライドポテトは19世紀初頭のパリでつくられたのが最初であるという説を持ち出したのです。

 

この論争はともかく、フランスはフライドポテト、フランス語でいうところの“ポム・フリット”が日常的によく食べられる国であることは確か。ステーキ・フリットというビーフ・ステーキにポテトフライが付いたカフェの定番メニューに始まり、どのお店に入ってもポテトフライだけは美味しく、じゃがいも好きの身としては嬉しい限りです。

(C)2017 Blue Monday Productions

 

さて、そんな“ポム・フリット”が印象的に登場するのが、フランス映画『若い女』です。

 

主人公は、写真家の10年越しの恋人にフラれ、部屋から追い出され、行き場を失ったポーラ。

「すべてを彼に捧げて生きてきた」のに、31歳、宿なし、職なし、金なしの彼女は、恋人の飼い猫とともにパリの街を転々とします。旧友と人違いされ、そのまま家に泊まり込んだり、住み込みのベビーシッターになったり、友達のアパートに転がり込んだり、ランジェリーショップで働いたり。

やがて妊娠していることも発覚。果たして、ポーラの未来はどうなっていくのか?

(C)2017 Blue Monday Productions

 

かなり苦境に立たされている主人公ですが、我は強いし、口は悪いし、ウソはつくしといったなかなかのクセ者。見ている方も、最初はちょっととまどい、ときにはイラっとすることもあるのですが、そんな彼女もだんだん憎めない存在になってくるから不思議です。おそらくそれは、ポーラが不況で沈み込んでいるパリの街で、なにがなんでも生き抜こうと必死にもがいているから。

 

監督のレオノール・セライユは、この作品で2017年のカンヌ国際映画祭でカメラドール(新人監督賞)を受賞した新鋭。また、ポーラを演じるレティシア・ドッシュもこの作品の体当たり演技でフランスの権威ある映画賞リュミエール賞最有望女優賞を受賞した期待の新進女優です。

(C)2017 Blue Monday Productions

 

タイトルに『若い女』とあるので、果たして31歳のポーラは“若い”のかどうか、という突っ込みが聞こえてきそうですが、その答えはさらりと映画中に登場するのでお楽しみに。

 

さて、この映画に登場する印象的な食べ物といえば、フライドポテトです。

1回目は、コインランドリーでつまむファストフード店のものですが、2回目はかなり重要なシーンで登場します。

疎遠になっている母親の家に帰ったポーラは、まったくもって歓迎されません。口が悪く粗雑なポーラと母親はそりが合わないのでしょう。

(C)2017 Blue Monday Productions

 

そんなふたりのディナーが、母親の手作りのホームメイド・フライドポテト。

母親は、大きめのじゃがいもの皮を剥き、細切りにしたものをたっぷりの油で揚げます。

隣でポーラがボウルを抱えてつくっているのはこちらもお手製のマヨネーズでしょう。

かつては、ふたりはこうしてフライドポテトをつくって仲良く食事していたのかもしれません。親子の親密さがセリフなしで伝わってくる、胸を突かれるシーンです。

 

フランスやヨーロッパだけでなく、日本でもポピュラーなフライドポテト。ファストフードとしてもおなじみですが、手作りの揚げたては格別のぬくもりと味わいがあります。

「アンド ザ フリット – 広尾」/写真:お店から

 

「アンド ザ フリット」は、そんな思い入れたっぷりの手作り感を味わえるフライドポテト専門店です。

季節ごとに厳選した6種類の芋から好きな品種とカット方法、そして自家製マヨネーズや特製ケチャップなど好みのディップも選択すれば、自分流のフライドポテトの完成。

ポーラのごとく、心がささくれだったら、ほっこりフライドポテト、おすすめです!

 

作品紹介

(C)2017 Blue Monday Productions

 

『若い女』

渋谷ユーロスペースほか全国順次公開

 

パリに住む31歳のポーラは、10年付き合っていた写真家の恋人にある日突然フラレてしまう。お金も、家も、仕事もない彼女は、恋人の飼い猫を連れて友人宅や安宿、実家を転々とする。気ままな性格が災いし、なかなか居場所を見つけられずにいたが、なんとか住み込みのベビーシッターのアルバイトを見つけ、ショッピングモールの下着店でも働きはじめる。ようやく自分の居場所を見つけたかに思えたポーラだったが……。