食べログフォロワー数2トップが緊急対談! 平成のグルメシーンを振り返る
【第3回】平成の食事情、よかったこと&悪かったこと。そして、令和へ
食べログ・フォロワー数1位に輝く川井潤さんと同じく2位柏原光太郎さんの対談もいよいよ最終回。平成を通じて食べて、食べて、食べまくった2人のベスト・レストランとは? そして令和を迎え、日本の食シーンはどう変わる?(第1回・第2回はこちら)
−−ところで、お二人にとってのメモリアルなお店ってどちらなんでしょう?
川井 平成の31年間を通じて、通ったのが大井町の中華「萬来園」。昼は850円で究極のパラパラ五目炒飯を出すような街の中華屋で、夜は紹介制予約のみの高級店に様変わり。あんな地味な場所でこんな値段!?って感じもインパクトあったし、食材をプレゼンして調理法はいかようにもというスタイルも面白い。食材に応じて料理を千変万化させるオヤジさんのクリエイティビティ、ちゃんと下支えの仕込みをする息子、サポートするお母さんのチームワークがすごいんだよね。途中でケンカするのも面白かった。劇場型レストランの元祖かも。
柏原 僕は京料理「と村」ですかね。今は虎ノ門にありますが、赤坂でランチにうどんを出していた頃から通っています。最近、ご無沙汰ですが(笑)。ここは高級店なのに、コースの締めが煮麺だったり、じゃこごはんだったり、質素なんです。若いときは「なぜ?」 と思ったりもしたのですが、最後がサラッとしているからこそ、それまでに食べたおいしい料理の記憶がちゃんと残るんですよね。料理って力技で攻めるだけでもダメで、緩急が大事なんだなということを学んだお店です。
−−渋い2軒ですね。
川井 使い分けなんだよね。自分が落ち着く店は落ち着く店で通って、デートに向く店、接待用の店という風に使い分けてるから。
柏原 そうそう。ゆっくり話したいときはそういうお店、話さなくてもいいのであれば、今、流行りの劇場型のお店に行けばいい。
−−劇場型?
柏原 日本料理「銀座しのはら」、寿司「東麻布 天本」、西麻布のイノベーティブレストラン「81」みたいに、料理人自らが話すことにみんなが集中するようなお店ですね。素材や調理法など、情報をたくさんくれるので、SNSにアップするときも役に立つんですよ。お客さんに後日、詳細なメニューと写真を送ってくれる店も出てきましたね。
SNSやクチコミがもたらした変化
−−レストランで料理を撮影するのが当たり前になった、時代のニーズに合ってるんですね。キャプションがつけやすい。
川井 一般の人も評論家みたいになってて、そのおかげで情報もたくさん入ってくるんだけど、弊害も出てるよね。評価点数が付いてないと、自分で判断できないという人が増えてる。本当においしいものが何かよくわかってないんだけど、みんなが高評価しているところに行って確認をするというのが、食のひとつのトレンドになっちゃってる。
柏原 かつてはお金を持っていても自分のような若造が行ってはいけない店が確実にあったけど、今はコース5万円以上もするようなお店にも、いろんな食べ手が来るようになった部分もありますよね。おかげで予約困難なお店がすごく増えました。
川井 何ヶ月も前からの予約が当たり前になったから、直前だと目当ての店に行けなくなっちゃったね。バブル期には、なかなか捕まらないタクシーを手配ができる人が一目置かれていたのが、今はいい店の予約を取れる人がリスペクトされる。それと昔なら、料亭は会社の重役みたいな偉いおじさんしか行けなかったのが、ITやデイトレード系、インバウンドで来る外国人とか、若くても稼いでいる人たちが行くようになったし、そういう人がお金を出すせいもあってか、昭和の時代には庶民の食べ物だった焼鳥までもが高級化しちゃった。
柏原 今、勢いのあるお店って、結構高いところが多いから、おいそれとは行けなくなった感はありますね。
川井 あと、寿司の「大地」や「ふじなが」、中華「リース」、日本料理「水光庵」、イタリアン「ステーキ エーダ」みたいに紹介制の店も増加。入店ハードルの高い店が本当に増えて、行ける人と行けない人の格差が拡大したよね。
柏原 某ステーキ店では、ひとり100万円以上支払ったという噂もありますし。
−−えーっ!
川井 でも、それだけ食の楽しみ方が多様化したってことだから、いいこともたくさんあるよね。空輸でフォアグラやトリュフ、モッツァレラチーズや珍しい海外の野菜みたいな本場のいい食材が手に入るようになって、レストランでも現地と変わらない味を再現できるようになったし。
柏原 欧米から赤身や熟成肉の概念が入ってきたことで、肉の食べ方も幅が広がりました。
令和は、日本がグルメシーンをリードしていく!?
川井 あと、地方にも目が向くようにもなりましたよね。日本料理「えさき」は八ヶ岳に、イタリアン「アッカ」は岡山に移転しましたし。
柏原 客が料理人を求めて、どこにでも行くようになっていますから、人気が出れば東京を離れても商売が成り立つんですね。
川井 嬉しいのはさ、コペンハーゲン「noma」出身で、現在「INUA」のシェフを務めるトーマス・フレベルさんや2021年に福岡に店を出す予定だというバンコク「ガガン」のガガン・アナンドさんみたいに、日本の食材、日本の風土に惚れ込んで、わざわざ日本で料理をつくる人が出てきたこと。
–それも平成になって誕生した「イノベーティブ」のジャンルで最前線を走るような料理人が、というところがポイントですね。
川井 そう! 経済などの領域だと日本のプレゼンスが世界的に低下気味な状況だけど、料理という分野では日本の技や食材の豊かさが求められてるんですよね。
柏原 令和の時代に期待したいですね。