鮨と和食の人気店がパワーアップして生まれ変わった

麻布十番の路地に佇む「eat(いいと)麻布十番」。鮨を主体とし、和食の一品料理なども味わえる店としてオープンしたのは2016年5月のこと。地下1階に広がるシックな空間の中、厳選された魚介類と創作性に富んだ和食が味わえるとあって、着実にファンを増やしていった。

店を拡張し、鉄板焼きの新フロアが誕生

同店で腕を振るうのが統括料理長の色川史生氏だ。そんな同店が地下1階はそのままに、2018年12月、フロアを1階にも拡張し鉄板焼きを主体とした空間が加わった。店を入ってすぐの手前にバーカウンターがあり、奥にはコの字型のカウンター席。手前で軽く一杯飲みながら単品料理をつまむもよし、奥でじっくりと料理を味わうもよし。高級感を漂わせつつも、開放的な雰囲気の店内だ。

「鉄板焼きといえば高級なイメージですが、フラッと来てもらえるような価格帯で、素材そのものの味を楽しんでほしいと思ったんです」(色川氏)

 

店を拡張するにあたって思いついたのは、使い勝手のいい価格帯の鉄板焼きの店があるようでないということ。そこで、コースもアラカルトもどちらでも楽しめて、かつ価格帯も手頃な“和食鉄板割烹”というコンセプトに狙いを絞っていった。地下1階の良さはそのままに、目利きによって厳選された和牛と魚介を、鉄板と和食のエッセンスで味わう店が誕生したのだ。新フロアの強みは、なんと言っても「上質な肉と魚の両方が食べたい!」というワガママを満たせるということ。地下1階で提供している寿司を取り寄せることもできる。

まずは酒が進みそうな単品料理から紹介しよう。

 

席に着いて真っ先に注文したいのは、彩り豊かな「生野菜とトマト味噌」(900円)だ。こちらのトマト味噌は渋谷にある系列店「食幹」の人気メニューだった一品。白味噌をベースに、旨味が凝縮したドライトマトをオリーブオイルで戻したものなどを加えて練り込んでおり、酸味とまろやかさのバランスが絶妙! 見た目はもちろんのこと、味や食感の異なる野菜にたっぷりと付けて味わう。

前菜は季節や食材によってメニューが変わるので、毎回選ぶ楽しみがある。今回紹介する3品は、「タコの塩煮」(1000円)、「いちごの白和え」(700円)、「シビレとネギのキンピラ」(1200円)だ。昆布だしで煮含めた「タコの塩煮」は、適度な弾力を残しつつ、すっと口の中に広がっていくところに、丁寧な仕事ぶりが感じられる。「いちごの白和え」は、意外な組み合わせでスイーツのように見えなくもないが、まろやかな豆腐といちごの酸味がマッチしている。

「シビレとネギのキンピラ」は鉄板焼きの店らしく、目の前の鉄板で作ってくれる。焼き立ての香ばしさが食欲を刺激する。前菜は基本的に2人前だが、「1人分だけ食べたい!」というオーダーにも快く応じてくれる。

肉は“その時に美味しい”ものを厳選して提供

そしていよいよ肉の登場だ。メニューには黒毛和牛と記されているが、ブランド名は書かれていない。それは色川氏の多種多様な牛肉の味を楽しんでほしいという気持ちの表れからだ。時期や肉の仕上がりによって異なる牛を仕入れ、提供しているという。

今回オープンした1階と、寿司主体の地下1階の両フロアを統括している色川史生氏

 

ぜひオーダーしたいのが、人気メニューのひとつ「たて切り牛タンステーキ」(2800円、2人前)。たて切りというその名の通り、牛タンを横ではなく縦にスライスしている。ひとくちに牛タンといっても、舌の先と根元では肉質や味わいが異なる。“たて切り”であれば、牛タンの味比べができるというわけだ。タン先はしっかりした歯ごたえが、一方のタン元は柔らかさと風味の高さが特徴的。

鉄板の上にのる前の「たて切り牛タンステーキ」と「黒毛和牛のサーロインステーキ」

人気メニューの一つ、「たて切り牛タンステーキ」(2800円、2人前)。レモン、塩、山わさびが添えられている

 

もうひとつの人気はやはり、「黒毛和牛のサーロインステーキ」(4200円、2人前)。鉄板焼きで丁寧に焼いたあと、しばらく寝かすのだが、その余熱が牛肉の脂を絶妙に溶かし、肉全体の風味を高めている。

「サーロインは筋や脂身の部分も美味しいのですが、あえて切り落とし、本当に美味しい部分のみを提供しています」(色川さん)

「焼き魚介」も各種用意。アワビ(2500円)、牡蠣(1000円)、車海老(時価)

 

細部にまで繊細な仕事ぶりが宿る同店の料理の数々。「肉も魚も和食も、美味しいものを少しずつ味わいたい!」という恋人や、グルメな友人、お世話になっている先輩など、あらゆる相手に喜んでもらえるはず。麻布十番にまた一つ、覚えておきたいとっておきの店ができた。

写真:松永直子

取材・文:吉川明子