畑の真ん中がリストランテに。自然の中で味わう贅沢を東京で体験できる

 

Farm to Table(ファーム トゥ テーブル)”というスタイルをご存知だろうか。「農場から食卓まで」を意味するその言葉は、収穫された食材が一貫した安全管理のもとに消費者へ届けられるという、アメリカのポートランドを中心に10~20年ほど前に始まったムーブメントだ。

輸送技術の発達に伴い、全国各地から、果ては世界各国から食材を取り寄せることが可能となり、それこそがグルメでファッショナブルで価値と思われたのがひと昔前。ところがその後、長距離トラックで、はたまた飛行機で莫大なCO2をまき散らしながら食材を運んで食べることの環境への負荷に気付き、本当に美味しいのは、近隣で育てられた採れたての野菜だという、あたりまえのことに気づいた。日本には古くから身土不二という考え方があったが、それこそがFarm to Tableなのである。

そのスタイルに端を発し、畑の真ん中で採れたての野菜をゲストに食べさせたいという思いからこの春始まるのが、「Table to Farm」。「レストランを飛び出してダイニングを畑に作る」というコンセプトのエルバダナカヒガシの企画だ。

 

Erbaとはイタリア語で草の意味。「Erba da Nakahigashi=中東からの草」は、摘み草料理で名高い、京都「草喰なかひがし」の中東久雄さんの次男である俊文さんが西麻布に開いたイタリアンレストランだ。店名にたがわず、俊文さんは週に2~3回、秋川渓谷で山野草を摘み、近隣で無農薬で野菜を育てる児玉さんの畑で畑仕事を手伝い、頃合いの野菜を収穫してキッチンへ持ち帰る。日々、そうした自然の恵みでメニューを組み立てている。しかしながら命ある野菜は、畑から収穫した直後がピークで、その後は味も力も下降していく。いくら、朝のうちに畑でもいだ野菜であっても、夜お客様に出すまでの間には、多少なり劣化している。畑でかじったか時の、口の中で弾けるような瑞々しさは失われていくのである。なんとか、野菜の本当の姿をお客様に味わってもらいたいと、長らく温めてきた思いがついに実現する。

「Table to Farm」は造語です。レストランをメインにやっている私どもが、畑に飛び出した、という意味では従来の“Farm to Table”よりしっくりくる気がして」と中東さん。

「収穫直後の美味しさを味わっていただきたいのはもちろんですが、日ごろ、土に触れる機会のない方に、土に触れる喜びを感じてもらいたいというのも目的です。収穫を手伝ってもらい、その野菜を僕が料理する、そんなステージが作れれば素敵じゃないか、と思ったんですね。恐らく、日ごろ食べている野菜がどんな風に育っているのか、見たことがない方が多いはずですから」

そんな思いを実現した「エルバダナカヒガシ」のTable to Farmは、畑での収穫作業から始まる。揃いの軍手をはめて、じゃがいもを引き抜く。ブロッコリーを茎からはさみでチョキンと切り取る。見事に育った大きなキャベツをよっこらしょと持ち上げる。そんな収穫体験を1時間ばかり。たいして(いや、まったく)お役に立てていないのに、いっぱしに土と戯れ、労働した気分になっているから、人間って、本当に現金だ。

さて、その後は、畑の真ん中にあるキウイ棚の下に設えられ、きれいにナフキンやカトラリーがセットされたテーブルに座って、ボナペティ!「畑の中で食べるからといって、ラフにビニールシートを敷いて、というのではつまらない。見渡す限りの大自然の真ん中だからこそ、パリッとしたセッティングをしたい。サービスもある程度フォーマルに、そんな風に考えました」とも。

グラスやカトラリーが木漏れ日を受けて、キラキラと輝いている。着席してリネンを膝にかければ、日本のどこよりも贅沢なリストランテだ。テーブルからほど離れたところにはレンガを積んだ手作りの窯が設置され、主な調理はそこで行われる。

まず、一皿目に運ばれてきたのは、ブロッコリーやケールなど、収穫したばかりの野菜のミモザサラダ。緑の野菜の味わいの濃いこと! 口いっぱいにヘルシーな味覚が広がる。

二皿目は野菜たっぷりのラザニア。炭火しかない厨房で、こんなに本格的なイタリア料理が食べられるのかと思うと、それだけで感激する。

3皿めは根菜のバーニャカウダ。アンチョビとねりごまのソースが掘り立ての甘い根菜にからんで、なんとも美味。土の豊かさとはこのことかと、脳内の幸せ物質が抽出されるようだ。

メインディッシュは、ハンターが近隣で撃ったイノシシのロースト。付け合わせには皮ごとほっくりと焼いたかぶを添えている。興味があれば、炭火でローストするところを見せてもらうのも楽しい。

デザートはたきぎの中でこんがり焼いたスイートポテトだ。食後は摘んできたばかりのハーブを煮出し、木苺を浮かべたハーブティですっきりと。畑の真ん中で自然の恵みをいただくという、なんとも幸せな体験に、食事が終わる頃には、プランターにハーブを植えてみたい、菜園を借りてみようか、すっかりそんな気になっているに違ない。

帰りには、収穫した野菜をオリジナルのトートバッグに詰めて持たせてもらえる。こんな素晴らしい体験が、都心からたったの1時間半のところにあるのだから驚く。さらに嬉しいことに、往復はチャーターしたバスが用意されており、ワイン好きも運転の心配なくともよいばかりか、往きのバスの中でスパークリングワインがふるまわれるというのだから、天国だ。

 

「現代人と自然の懸け橋になり、体験した人に畑や自然をもっと身近に感じてもらい、ゆくゆくは日本の食文化の根底を支える農業に興味を持っていただければと始めた企画です」と話す中東俊文さん。私たちの日常を支えてくれる農業への考え方、そして自然観までをも変えてくれるかもしれない、エルバダナカヒガシのTable to Farm。いや、そんな大げさなことを考えずとも、童心に返って土と戯れ、いい空気の中でお腹いぱっぱい美味しいものを食べるというそれだけで充分に楽しい時間を過ごしに、ぜひ、一度、参加してみることを薦める。

初回:2019年3月16日(土) 会費¥18,000 詳細はhttps://www.erbadanakahigashi.com/

*今後の予定は店舗のHPにて告知。