〈和菓子と巡る、京都さんぽ〉

四季折々の顔を見せる名所を訪れたり、その季節ならではの和菓子を食べて職人さんたちの声を聞いてみたり……。ガイドブックでは知り得ない京都に出会う旅にでかけてみませんか。

 

あなたの知らない京都について、京都在住の和菓子ライフデザイナー、小倉夢桜さんに案内していただきましょう。

其の十四 現代の名工にも選ばれた努力家のご主人が営む「笹屋吉清」

比叡山を借景とする美しい庭園を眺められる、圓通寺

杉やヒノキの木立越しに比叡山を借景とする枯山水式庭園が参拝者の心を鎮める寺院「圓通寺(えんつうじ)」。

圓通寺

 

左京区岩倉にあるこちらの寺院は、宅地開発が進んだ現在でもなお、ご住職をはじめとする関係者のご尽力により創建当時の風景を守り続けているお寺です。京都には様々な借景の庭園がありますが、こちらの寺院から見る借景の美しさは別格です。

 

四季はもちろんのこと、気象条件などによって刻々と様子を変えていく比叡山。その様子を心ゆくまで楽しめる寺院です。

甘いもので、ひとやすみ。

今回、ご紹介させていただく和菓子屋は、こちらの寺院のお茶席のお菓子を担っている京菓子司「笹屋吉清」です。

 

京都駅から205系統の市バスに乗り約40分、府立大学前で下車してすぐのところで営むお店です。

外観

店内

 

1946年から営まれてきたこちらのお店は、現在70歳となる2代目のご主人が暖簾を守り続けてこられています。70歳とは思えないほどバイタリティ溢れるご主人。そのご主人と和菓子の関わりは、ご主人が小学生の時まで遡ります。

 

家業が和菓子屋だったことから小学生の頃から家の手伝いをはじめ、高学年となる頃にはお菓子を大人たちに交じって作っていたそうです。高校卒業後、本格的に家業を手伝い、後を継ぎました。

「どこかのお店に修行へ行くことはなったですわ。和菓子作りの基本は小さい時にもう出来てたんで、あとは京菓子組合で色々と学ばしてもろたんですわ。言ってみたら、京菓子組合が修行の場みたいなもんですわ」

と話すご主人は、かなりの努力家。

 

京菓子組合に持ち寄られる他店の色々なお菓子を見ては、試作を重ねて自身の感性と技を磨いてきたそうです。その努力が実を結び、平成25年度「京都府の現代の名工」に選ばれました。

工芸菓子

椿

照もみじ

 

「和菓子は餡が大事やから、餡にこだわってるんです。甘すぎず、もう一つ食べてみたい甘さがええと思てます。そして、時代にあったお菓子作りをしていかんとあきません。最近は今まで以上に身体にいいお菓子を作ることを心がけてます」

 

そう語るご主人が昨年作ったお菓子がこちらです。亜麻仁(アマニ)と呼ばれる植物の種子を使った焼き菓子です。

アマニ焼き菓子

 

白ゴマのように見えるのがアマニです。アマニには、α-リノレン酸、食物繊維、アマニリグナンが豊富に含まれており、魚離れが進む現代人の食生活に有用とされています。

 

こちらの代表銘菓『大栗殿(おおぐりでん)』。

大栗殿

 

栗の甘露煮をきざみ、白あんと混ぜ合わせたものを大粒の栗に包み卵の黄味を表面に塗り焼き上げたお菓子です。栗好きには、至福のお菓子となること間違いなしです。こちらにも餡の中にアマニが含まれています。アマニを使用することで、餡が長時間しっとりとして風味を損なわないそうです。パラチノースを使用した四季折々のお干菓子も販売されています。

お干菓子

 

本業の和菓子作りだけにとどまらず、後進の育成にも尽力されてきました。現在は、『京菓子の素晴らしさを伝えたい』と考える京菓子のご主人たちで立ち上げた京菓子講師倶楽部の代表をされています。

 

毎年2月に「和菓子創作作品展」を開催され、年々来場者数が増えて、今では人気のイベントとなっています。ご主人の和菓子に対する情熱は並々ならぬものがあり、いつも和菓子のことを語るご主人は楽しそう。「これからどのようにしていきたいですか?」の問いには、

 

「うちところは百貨店や通信販売をしてへんから地域の方に育てられてここまできたんで、今まで通り地域密着でやっていきたいと思てますねん。桜餅のような朝生菓子で新商品を作りたいと思てますねん。うちところのお菓子を食べていただいて笑顔になってもらえたら職人冥利につきますわ。そういうお菓子をこれからも作り続けていきたいと思てます。とにかく、勉強してチャレンジですわ」

 

いくつになっても守ることなくチャレンジしていく姿勢。それは和菓子というものに答えがなく奥が深いものであるからこそ。「生涯現役ですね!」という私の問いかけに、照れくさそうに笑顔だけを返してくれたご主人でした。

取材・文・撮影/小倉 夢桜-Yume-