出世ごはん

デキるビジネスパーソンはこんなお店で食べている! 元銀座のホステス&開運アドバイザーの藤島佑雪が、かつての同伴その他の経験から見極めた「出世する店」を「おいしい理由」とともにご紹介!

No.29 幻の野菜を絶滅から救う! 江戸前の鍋

亀戸升本

みなさま、鍋つついてますか? 今回はわたくし大のお気に入り、江戸前のお鍋のご紹介です。「亀戸升本」さんというお店のお鍋なんですが、なんと、推しの素材が大根なんですよ? 大根って普通に考えたら、お刺身のツマになってたり、おろして焼魚に添えられるような脇役じゃないですか。確かに大根サラダみたく、主役になってるお料理もありますが、それも唐揚げだのステーキだのメインのおかずがあってこその脇の一品でしょ? 神戸牛や熟成肉、イベリコ豚などのお肉勢、マグロにカニといった魚介勢のように華があるわけでもない大根。それをセンターに据えて商売されているって、ちょっとすごくないですか? これが東京・亀戸の地に明治38年(1905年)に創業した当時は酒屋さんだったのを、戦後、お料理屋さんに業態変更しつつも、110年以上も続いている老舗のお話なんですから。凄みを感じますよね!

写真:お店から

 

とはいえ、本来なら脇役である大根に主役を張らせるわけですから、当然、そんじょそこらの大根とは違います。わざわざ契約農家につくってもらっている土地の地野菜、亀戸大根を使っていらっしゃいます。この大根は江戸時代に亀戸近辺で栽培が始まり、明治時代には「おかめ大根」または「お多福大根」と呼ばれて、たくさんつくられていたのが、大正初期に「亀戸大根」と名称が改まったものというのですが、戦後、近辺の宅地化が進んだ結果、栽培数が激減し、現在ではとても希少な存在だとか。

 

この亀戸大根を主役にあさり、旬のお野菜をたっぷり合わせた名物が「亀戸大根あさり鍋」。大根はみっちり身が詰まって、きめ細か! 風味がしっかりしていて、味噌ベースの出汁で煮込んでも負けない味。しかも、一般的な大根よりビタミンCを2倍も含んでいるというのですから、風邪予防にもぴったりですよね。お鍋の汁をごはんにかける、締めのぶっかけ飯も、すごくおいしいんです。地味な存在の大根でも、その土地ならではの風土と伝統に育まれた素材と調理法でいただくというのが、しみじみ贅沢さを感じさせてくれるんです。このお鍋はオンラインでも販売されているほか、亀戸大根推しのコンセプトのお弁当もデパ地下で販売されているなど、ブレずに多方面に大根展開をされているんですね。

写真:お店から

 

どうでしょう? 和牛やマグロといった、一般的な売れ筋素材ではなく、大根というマニアックな素材で勝負を賭けるって、よほどの信念と哲学がないとできないことだと思いません? プラス、地元愛なくしてはできません。

 

こちらの経営者の方のお言葉を伺ったことはありませんが、地元の食文化を大切にしたら、結果、利益が出たというそんな成功例のお手本のような気がしませんか? 幻となりかけていた地元の野菜を絶滅から救い、農家さんを潤すことで社会貢献につながるような経営って、ちょっと羨ましくもありますし。世の中の多数派とは異なろうと、文化を守り育てるような店づくりをする。それは出世の先にある、老舗になる条件なのかもしれません。