〈和菓子と巡る、京都さんぽ〉
四季折々の顔を見せる名所を訪れたり、その季節ならではの和菓子を食べて職人さんたちの声を聞いてみたり……。ガイドブックでは知り得ない京都に出会う旅にでかけてみませんか。
あなたの知らない京都について、京都在住の和菓子ライフデザイナー、小倉夢桜さんに案内していただきましょう。
其の十三 掛紙や化粧箱まで美しい「笹屋守栄」
多くの日本画家が家やアトリエを構えた、衣笠エリアさんぽ。
京都に長年暮らしていると、京都に暮らす人々が美術品を身近に暮らしに取り入れていることに気づかされます。お宅やお店に入るとさりげなく飾られている額装。その多くは京都で活躍した、日本画家の作品です。美術にご興味を持っている方にとっては、京都はとても楽しい街ではないでしょうか。
大正から昭和にかけて堂本印象画伯をはじめとした多くの日本画家が家やアトリエを構え住んでいた場所が衣笠エリアです。木島櫻谷、山口華楊、村上華岳など、そうそうたる面々が揃います。その衣笠エリアの一角に建つ、白を基調とした独創的な建物が『堂本印象美術館』です。
堂本印象美術館
京都で生まれ育った堂本印象(1891~1975)は、日本画家の西山翠嶂(にしやま すいしょう)に師事。帝国美術院展覧会で活躍しました。日本画、西洋画、抽象画、具象画など幅広い作品を残している京都を代表する近代日本画家です。
その堂本印象が自らの作品を展示するために手がけた美術館『堂本美術館』が1966年に開館しました。それから半世紀、2017年から大規模な改装工事を行い2018年3月21日にリニューアルオープンしました。館内に入るやいなや壁や装飾に至るまで堂本印象の世界を存分に感じることができる貴重な空間となっています。
堂本印象美術館・ロビー
この世界感から、この時代だからこそ感じる新たな発見があるのではないでしょうか。また展示室では、落ち着いて存分に堂本印象の作品を堪能することができます。
堂本印象美術館・展示室
そして、敷地内の緑に囲まれた庭園にもさり気なく堂本印象がデザインした椅子が飾られています。
堂本印象美術館・庭園
甘いもので、ひとやすみ。
贅沢なひと時を過ごすことができる堂本印象美術館。機会があれば是非とも訪れていただきたい美術館です。その堂本印象と関わりが深いお店が今回ご紹介させていただく京菓子司『笹屋守栄』です。
笹屋守栄の外観
昭和12年に京都市内で開業され、昭和36年に世界遺産『金閣寺』、安産の神様として有名な『わら天神宮』、京都の桜の名所として名高い『平野神社』などからほど近くに移転、現在に至るお店です。
平野神社
京都観光をされる方は、知らず知らずのうちにこちらのお店のお菓子を口にしているのではないかと思うほど、様々な神社仏閣のお茶菓子に利用されているお店です。
店内に入るとまず目を引くのが、華やかな掛紙や化粧箱。
店内の様子
華やかな掛紙
それもそのはず、その掛紙や化粧箱などは、前述の堂本印象画伯をはじめ、印象に師事した三輪晁勢(みわ ちょうせい)画伯、そのご子息である晃久(あきひさ)画伯などが特別に描いた作品をもとにしたものです。
和菓子好きのみならず、近代日本画にご興味のある方にも喜ばれるお店ではないでしょうか。
そのお店の暖簾を守られているのが、3年前にお店のご主人となられたご次男。サラリーマンを経て自らの希望により18年前からこちらのお店で和菓子作りを学ばれてきました。学ばれて以来、自分らしい、他にないお菓子を作りたいという一心でやってこられた今のご主人に転機が訪れたのが7年前。堂本印象美術館で行われるお茶会のお菓子製作を依頼されたことにはじまります。
堂本印象の代表作の一つである『交響』。制作にあたり、「楽譜を私なりに解釈して、絵の中に私の交響曲を表現したい」と語った堂本印象。多彩で微妙な色彩に墨や絵具の飛沫。交錯し、重なり、結合する線の数々。線の濃淡が画面に三次元的な空間を創り出している作品です。
その『交響』をイメージしたものをという依頼内容だったそうです。和菓子作りの伝統的な技法を使い、お茶会で使用されても違和感のないお菓子。それでありながら斬新な意匠にするために試行錯誤を繰り返し、完成したのがこちらのお菓子です。
交響
「交響」
二色のこなしを茶巾絞りという手法で整えた意匠。三次元的な空間をお菓子で表現して『交響』の世界感を創り出したお菓子です。
そして、もう一つのお菓子は今回の堂本印象美術館リニューアルにともない、館内のステンドグラスをイメージして作られた羊羹製『光る窓』です。
光る窓
「光る窓」
ステンドグラスの様々な光を表現したお菓子です。菓銘は堂本印象美術館・館長が名付けられたそうです。こちらのお菓子は、堂本印象が描いた作品を基に製作した化粧箱に真空パックされたお菓子が入り包装されているのでお土産にも最適です。
またお土産、進物には、こちらのお菓子もいかがでしょうか。第26回全国菓子大博覧会で金賞を受賞したお菓子『綾』。
「綾」
「綾」
甘露煮にした栗を一粒丸ごとパイで包んで焼き上げた焼き菓子です。『こし餡』、白餡をベースにした『黄身餡』、『抹茶餡』の三種類があります。お好みでどうぞ。
そして、金閣寺から徒歩7分という立地から金閣寺にちなんだ意匠のお菓子を!
鹿苑
「鹿苑」
京都産丹波大納言を使用したつぶ餡をモチモチとした食感の生地ではさんだお菓子です。世界遺産『金閣寺』の象徴である、舎利殿の焼印が入っています。その名も『鹿苑』、金閣寺の正式名称『鹿苑寺』から名づけられたお菓子です。
このようなお菓子をはじめとした様々なお菓子を化粧箱に箱詰めして、華やかな掛紙を掛けてみると素敵な雰囲気の贈答品となります。
化粧箱
詰め合わせ
受け取った方の喜ぶ表情が目に浮かんできませんか。もちろん、見た目だけではなく、味も上質で、原材料はすべて国産。それだけにとどまらずグレードのよいものをセレクトして使用されています。
「美味しいお菓子を作ることに責任を持って取り組んでいます。その想いを少しでも感じて食べていただければいいと思っています」と語るご主人。「どんな仕事の依頼でも受けるのではなく、自分が必要にされていると感じた時にだけ仕事を受けてお菓子を作っています。自分らしいお菓子をとことん追求していきたいと思っています」
もの静かに喋るご主人ですが、その言葉から和菓子作りに対する熱い想いを感じます。
今後のことについて訊ねてみると、「様々な和菓子を作っていますが、和菓子はそもそも生活の一部です。今まで通りに季節に合わせた美味しいお菓子を作って、ご近所さんを大切にしていきたいと思います。そして、和菓子職人として優れた技術があれば、この仕事の未来は明るいと思っています。和菓子職人として、もっと、もっと、いいお菓子を作ることができるよう、究めていきたいです」
これから先、どのようなお菓子で私たちを楽しませてくれるのか注目のお店です。