ドキュメンタリー映画『縄文にハマる人々』に、今夏に開催された東京国立博物館・特別展 『縄文―1万年の美の鼓動』など、縄文にまつわる作品や展示が続々と公開され、縄文文化がじわじわと人気を拡大しつつある。

 

一方で青森県つがる市には、30年以上前から土偶を前面にフィーチャーしたJR木造(きづくり)駅という風変わりな駅がある。縄文ブームを機に、こちらも今後観光スポットとして再び注目を集めそうだが、実はこの駅舎から歩いて数十秒の距離に、知る人ぞ知る青森を代表する名食堂がある。

 

100年近い歴史を誇る「神武(じんたけ)食堂」の看板メニューは、担々麺。この味を求めて、遠路はるばる来訪する人も珍しくない。縄文にハマる人が増え、青森に足を運ぶ人も増えている今、木造駅の目の前の“津軽百年食堂”にも足を延ばしてほしい。

大正13年創業。青森を代表する「神武食堂」の担々麺

JR木造駅

 

今年7月、国の文化審議会が2020年のユネスコの世界文化遺産登録を目指す国内候補として、「北海道・北東北の縄文遺跡群」(北海道、青森、岩手、秋田の17遺跡)を推薦することを決定。縄文にまつわるトピックが、じわじわと盛り上がっている。

 

中でも、日本最大級の縄文集落跡を含む9つの国指定の縄文遺跡が所在する青森県は、今後ますます注目を浴びそうな縄文スポットの一つだ。1980年代末、通称・ふるさと創生事業によって建てられた遮光器土偶が鎮座する青森県つがる市のJR木造駅舎。その圧倒的な存在感は、ブームに乗じて再ブレイクする可能性を大いに秘めているが、実はこの地には、もう一つ注目してほしい名物がある。

 

それが、大正13年に創業し、現在は四代目主人である神祥仁さんが包丁を握る「神武食堂」の担々麺である。

担々麺

 

決して大きな町とは言えない木造駅周辺にあって、「神武食堂」は常に賑わいを見せている。常連だけではなく、遠方から“噂”を聞きつけたラーメン通も足を運ぶなど、老若男女が麺をすする。やはりお目当ては、お店の看板メニュー「担々麺」だ。

 

インパクト抜群の肉味噌の山に、少し辛めのスープが食欲を倍増させる。ほどよい辛さとマイルドな口当たりのスープは、いくらでも飲めてしまう。肉味噌にはひき肉に加え、たけのこ、しいたけも刻んで和えているため、風味や食べ応えも抜群。縮れ麺との相性もよく、「担々麺」なのに優しさを感じるほどだ。

 

辛さを痛烈に感じることはないものの、気が付くと額には汗が……なんという穏やかな辛味。800円(税込)という価格を含めて、優しすぎる逸品が遮光器土偶駅舎の足元で光り輝いている。駅舎目当てで訪問したとしても、この味は訪れないともったいない。

チャーシュー丼

 

がっつり食べたいという方には、担々麺&チャーシュー丼のハーフセット900円(税込)がオススメだ。角煮のようなジューシーさと、ほどよく絡まる卵の甘味の親和性たるや……。

 

もともとはラーメン用のチャーシューの味がじっくり染み込んだ切れ端をごはんに合わせてみようと始めた裏メニューだったが、人気が爆発し表メニューに。今やチャーシュー丼の注文が飛び交い、チャーシューが足りなくなってしまう日もあるほどの人気商品だとか。

「神武食堂」入口

 

また、地元の人が好んで食べる隠れた人気メニュー「レバニラ炒め定食」800円(税込)も食べてほしい。四代目は若い頃に、東京で本格的な中華修行をしていたため、看板メニュー以外の中華もとにかく美味。長年愛され続け、100年近くの歴史を誇るということは、それだけ味も人柄も素晴らしいということ。

 

遮光器土偶の駅舎と神武食堂。
つがるの町を包む大きな歴史を、思う存分、味わってほしい。

 

いたるところに土偶が!土偶と食のコラボレーション!?

木造駅周辺には、いたるところに遮光器土偶が潜んでいる。マンホールや掲示板をよく見ると、遮光器土偶のデザインが施されている。縄文ブームが盛り上がりつつあるが、この町は土偶に対するアプローチの年季が違う。縄文フリークも、昨今縄文にハマった人々も、きっと楽しめるような雰囲気が広がっている。

 

四季彩喰処「華かるこ」では、「シャコちゃん縄文弁当」980円(税込/2日前に要予約)と題した、古代米を使用した遮光器土偶形ごはんが特徴的なお弁当まで存在する。

 

こういった遊び心は、訪問者や旅行者の気分を一層盛り上げてくれる。

縄文土器形のユニークな器が三段重になっており、それぞれの器には、天ぷらそば、刺身、和え物、煮物などが並ぶ。ごぼうやサバといった青森を代表する食材が使われており、この一膳の中に青森と縄文の香りが詰まっている。

シャコちゃん縄文弁当

 

 

青森駅からつがる市までは車で約1時間、電車で1時間15分ほど。近い将来、この町は世界遺産の一角となるかもしれない。

“世界遺産の町にある津軽百年食堂”――そこで食べる絶品担々麺は一層格別であるに違いない。

 

せっかく注目の場所へ行くなら、そこでしか食べられないものを食べたい。
その願いを叶えてくれる場所が、青森県つがる市にはある。

 

 

取材・写真・文:我妻弘崇(アジョンス・ドゥ・原生林)