〈和菓子と巡る、京都さんぽ〉

四季折々の顔を見せる名所を訪れたり、その季節ならではの和菓子を食べて職人さんたちの声を聞いてみたり……。ガイドブックでは知り得ない京都に出会う旅にでかけてみませんか。

 

あなたの知らない京都について、京都在住の和菓子ライフデザイナー、小倉夢桜さんに案内していただきましょう。

其の十 独創性で愛され続ける「日栄軒」

落葉の色彩を愛でる、大徳寺さんぽ。

京都市内北部を東西それぞれ平行に通る北大路通と北山通。

それぞれ全長約5kmの京都市民にとっては親しみ深い幹線道路です。

その通りの西部には、有名な観光地の一つとして一休宗純や千利休と縁のある大徳寺が挙げられます。

臨済宗大徳寺派大本山であり、境内には20か寺を超える塔頭が立ち並びます。

 

境内は禅宗寺院らしく、松や紅葉(もみじ)などの木々に囲まれた厳かな雰囲気です。

秋には、紅葉やイチョウなどの落葉広葉樹が色づき、多くの観光客で賑わう寺院です。

大徳寺の紅葉

 

その寺院の東側には、北大路通から北山通にかけて二つの商店街が平行して並んでいます。

一つは「新大宮商店街」、そしてもう一つが「新町商店街」です。

 

約800mほどの新町商店街のちょうど中間あたりで店を営む和菓子店「日栄軒(にちえいけん)」。

昭和10年に創業して以来、地元住民に愛され続けている和菓子店です。

甘いもので、ひとやすみ。

日栄軒

 

3代目であるこちらのお店のご主人は、とある和菓子店で修業をした後、店を先代より受け継いだのが25歳の時。

それ以来23年間、国産原料を使い、素材の風味を大切にしてお菓子作りに励んでこられました。

 

お店の代表銘菓である「光悦好み」。

光悦好み

 

今から半世紀前より販売されている黄身餡が入った桃山製のお菓子です。

 

お店の口上には、「京都の西北の隅に山あり鷹ヶ峯と言う。この幽玄の地に光悦寺を建てた茶人光悦の心をこの度日栄軒主人が菓子に製(つく)って『光悦好み』と題しました。茶によく酒にもよく、みやげとして又ふさわしい誠に新しい京名物と称されます。幸に幅広く賞味あらんことを」とあり、1950年に出版された『京菓子』の著者である井上頼寿先生から推薦されています。

 

琳派の創始者のひとり本阿弥光悦が好んだとされる竹を斜めに組んだ垣根「光悦垣」にちなんだお菓子です。

黄身餡を包んだ生地の中には、練乳が使用されており、まるで洋菓子のよう。

お茶だけでなく、コーヒーにもよく合います。

 

創業当時は京菓子屋ではなく、餅菓子屋として営んでこられたこちらのお店ですが、時代の変化と共に核家族化が進み、お菓子の販売量が激減したそうです。

その変化に対応する為に京都の四季に合わせた上生菓子を取り扱うようになりました。

 

最初は馴れない上生菓子の世界に戸惑いもあったそうですが、今では茶道のお稽古菓子として利用してもらえるようになりました。

そのお菓子からご主人のお菓子に向き合う姿勢を見て取ることができます。

初音

 

「初音(はつね)」

底冷えの京都から初春へ。

寒い冬が終わりを告げて春めく頃、鶯(うぐいす)がたどたどしく鳴き始めます。

その季節の最初の鶯の鳴き声を「初音」といいます。

こなしで鶯を表現したお菓子です。

花小袖

 

「花小袖」

陽春の京都。

桜柄の着物を着てそぞろ歩きが似合う町。

着物のお袖を表現したこなし製のお菓子です。

せせらぎ

 

「せせらぎ」

京都市街地を取り囲むようにそびえる山々。

山あいを流れる清流。

せせらぎを聴きながら涼をとります。

暑い京都の夏の過ごし方の一つです。

清流を表現した錦玉羹のお菓子です。

里の秋

 

「里の秋」

京都市街地より車を走らせてわずか。

稲刈りを終えて、稲木干しが行われている田園風景を見かけることができます。

そして、たわわに実った柿。

外郎(ういろう)で柿を表現したお菓子です。

 

 

どのお菓子も優しい雰囲気のお菓子です。

季節感を大切に、毎月入れ替わる上生菓子は常時5種類から6種類ほどが販売されています。

 

「自分とこのお菓子だけでなく、京都にあるいろんな和菓子屋のお菓子を食べてほしいんですわ。いろんなお菓子があることを知ってもろて、もっともっと和菓子を身近に感じてもろたら嬉しいです。自分とこの店としては、独自性を追求していき、これからも来店されるお客様を大切にして、長く愛されたいと思てます」と語るご主人。

これからも多くの方に足を運んでいただきたいお店です。

取材・写真・文:小倉 夢桜-Yume-