小宮山雄飛の〈今月最高のツマミ〉2026年9月「つず久」

このお店のこの一品!という、東京の酒場の名物メニューは色々ありますが、牛込柳町・つず久の「わさびめし」はまさにここでしか食べられない(そして涙なくしては食べられない)、究極の居酒屋メニューの一つ。 

昔ながらの雰囲気が漂う外観

酒飲みはもちろんですが、純粋においしいものを食べたくて集まるお客さんで、連日一杯の人気店です。

レトロで居心地良さそうな店内

カウンターに毎日並べられる新鮮な食材、所狭しと貼られた短冊メニュー、著名人のサイン、さらにご主人の趣味(というか本気)のお祭りの写真、天井にまで貼られたポスターと、とにかくカオスな雰囲気が何度来てもワクワクします。 

奥で笑顔を見せているのが、ご主人の樋口作三さん。ダジャレ好きでも有名で、誰もが和まされる最高のお父さん!

刺身盛り合わせ 5,280円(値段は内容により変わります)

名物の「わさびめし」はラストにとっておいて、まずは新鮮なお刺身の盛り合わせから。先にお伝えしておきますが、つず久は本当に何を食べてもおいしいんです! 魚でも野菜でも、何を頼んでも絶対にハズレがない。 

この日のお刺身盛り合わせは、マグロ(脳天)、イカ、マグロ(すき身)、タイ、エビ、数の子、酢だこ、アジ、カツオ、ホタテ、トコブシ、クジラベーコンの豪華12品!

右側がえぞわさび

そして、ここがポイント。つず久の刺身盛り合わせには、通常のわさびに加えて「わさびめし」に欠かせない、えぞわさび(山わさび)が付いてきます。2種類のわさびを使い分けて、いただきましょう。 

すりおろす前のえぞわさび

こちらが、えぞわさび。 この日も北海道から届いたばかり、直接送られてくるので土がついた新鮮そのものです。この一見素朴そうな野菜が、いずれ我々を、思いっきり泣かせることになるのです。 

マグロの脳天

まずは1匹のマグロから少量しかとれない、貴重な脳天の刺身。中トロのように脂がしっかり乗っているのに、まったく重たくない。赤身のおいしさと、トロの脂の甘さを兼ね備えている、最高の味わい。 

えぞわさびはイカにも合う

白い魚やイカには、えぞわさびを合わせるのがつず久ルール。新鮮そのもの、歯応えコリッコリのイカに、爽やかな辛さのえぞわさびがめっちゃ合います。

マグロの脳天ステーキ 1,980円

イカの風味を殺さずに、辛みだけ加わった感じで、見事な組み合わせです。刺身の盛り合わせの次は、お刺身でも出てきたマグロの脳天をステーキで。生でもとろけていた脂が、焼くとまたジュワッと身から溢れてきて、焼き魚特有のパサつき感は皆無! これはご馳走中のご馳走です。 

特別純米美山錦(1合)990円。入荷は日によって、とのこと

合わすお酒は大将にお任せで、特別純米美山錦・超辛口・直汲み・無濾過生原酒を。マグロの脂をさっと洗い流すことで、またもう一口食べたくなる。魚と酒の無限ループが続いてしまいそうな、最高の組み合わせです。さすが大将! 

岩もずく 1,100円

つず久に来たら絶対食べたいのが岩もずく。時期により入荷がない場合もあります。この日は青森産です。ざるに氷と一緒に盛られて、見た目も涼しげ。 

入荷は時期によるそうなのでタイミングが重要

キラッキラに輝いていて、見るからにおいしそう。氷と一緒に出てくるので、キンキンに冷えているのも特徴です。 

麺のように食べられます

一般的なもずくと違い、しっかりしたコシと長さがあるので、素麺のように箸でたぐって、麺つゆにつけて食べます。海藻の風味と、適度なぬめりがあって、あっさりさっぱりいただけるので、本当に箸が止まりません。つず久のツマミの魅力をしっかり堪能したところで、いよいよ本日の主役「わさびめし」の登場。しっかりと段階を踏んで紹介していきます! 

釜で炊いたツヤツヤのご飯

まずは最初の儀式。一つ一つ釜で炊いたご飯の蓋をオープン! お米が輝いているのがわかります。すぐにでも食べたいですが、ここでは一旦おあずけ。

蒸らす時間も大事

ご飯を軽くかき混ぜたら、一旦蓋を戻して蒸らします。これが大事な工程なのです。

わさびめしを作る食材

ご飯を蒸らしている間にやってくるのが、つず久「わさびめし」を完成させる三種の神器とも言える、3つの食材。青菜の漬物、刻み海苔、えぞわさび。

おいしさを引き立てる香り

次のステップは、まずご飯にえぞわさびだけをのせて、しっかりとかき混ぜます。 えぞわさびだけではそこまで香っていなかったものが、温かいご飯と混ぜることで、一気に爽快な辛さが香ってきます! この時点で、香りだけでむせてしまう人もいるほど強烈な辛みが。この混ぜる行為が、えぞわさびのおいしさをぐっと引き立てるのです。 

醤油を全体にかける

醤油をざざざっとかけます。これだけでも十分においしそうですが、そこに最後の工程を。 

海苔をのせて「わさびめし」の完成

刻み海苔を、これまた豪快にかけます。 釜で炊いた新潟産のお米のおいしさに、えぞわさびの辛さと、醤油と海苔の風味が相まって、これでつず久の「わさびめし」の完成! ついつい、豪快に頬張ってしまいますが、えぞわさびの辛さが鼻にきて、一口目は確実にみんな泣きます。 

女将さんが「息を鼻から吸って、口から吐いて!」と毎回アドバイスしてくれるのですが、それでも強烈な辛さに涙が出てくる。しかし、その辛さが収まると、不思議とまた次の一口を頬張りたくなる。食べては泣き、涙が収まったら、また食べては泣く。このループが止まらないのが、つず久の「わさびめし」。偉大なる東京の酒場メニューの名作です。

えぞわさびは追加できるので思う存分楽しめます

えぞわさびが減ってくると、こちらから頼まなくても強制的に追加で出てきます(笑)。というのも、えぞわさびはおろし立てが香りのピーク、すぐに香りが飛んでしまいます。そこで、いっぺんに大量におろさず、大将がこちらの食べるスピードを見ながら、追加分をその都度おろして出してくれるのです。こういう細かいこだわりが、つず久の全ての料理のおいしさの秘密。「わさびめし」は、これで今でも500円という破格の値段。うれしくて涙が出てきます(えぞわさびのせいじゃないよ!)。

料理一つ一つのおいしさもさることながら、大将の人柄と、細かい気づかいで、常連さんから長年愛される、東京の酒場の超名店です。 

文:小宮山雄飛、食べログマガジン編集部
撮影:GENIUS AT WORK