外食力の鍛え方〜客上手になろう〜

タベアルキスト・マッキー牧元さんに、外食をするには避けて通れない「お酒」について教えていただきます。「ワイン」編に続き、第2回は「日本酒」編。

 

「日本酒」ってどうやって頼めばいい?

すし屋さんや日本料理屋さんで、日本酒を頼むタイミングがやってくる。この時、とても困ることはないだろうか。今から三十数年前は、このようなことはなかった。和食系の店には、地酒に混ざって、菊正宗や剣菱といったような大手酒蔵の酒がオンメニューされていて、迷ったらそれを頼んでおけば無難だし、価格的にも安心であった。

 

しかし今は、何種類も置いてある店が多い。メニューにずらりと書かれていて、親切な店はそれぞれの特徴が書かれて、値段も明記されているが、そのような店は少ない。中にはお酒の品書きも置いてない店もある。これでは銘柄も分からなければ、値段も分からない。

「どんなお酒がお好みです」とかれても……

「日本酒をください」。というと、「色々あります。どんなのがお好みですか?」と、聞いて来る店が多い。

 

ここですぐに銘柄を言える人は少なく、また仮に銘柄を言ったとしても、何かいやらしく感じられてしまうのではないかと思って尻込みしてしまう。あるいは、生半可な銘柄を言うとバカにされるんじゃないかと思ってしまうこともあるでしょう。 躊躇していると、「普段はどんなお酒がお好きですか」と、聞いてくる。これはさらに困る。

 

まずとっさに出てくる人は少ないし、銘柄をえばいいのか、味わいや香りを言えばいいのかもわからない。ましてや、味わいや香りを、どのように表現していいのかもわからない。

さらには、「辛口ですか? 甘口ですか?」と聞いて来る時代錯誤な店もある。なぜ時代錯誤なのかと言えば、三十数年前くらいまでは、そんな言葉が横行していたからだ。

 

これは、戦後日本酒が不足していた頃に普及した「三増酒」(さんぞうしゅ)と呼ばれる酒が横行していた時代に端を発する。「三増酒」とは、米と水だけで造られた酒に、糖とアルコールを加えて3倍に増量した、ある意味の粗悪品。糖を加えない従来の日本酒に比べ、口の中に糖やアルコール中の糖分が、しつこくべったりと残り、甘く感じられた。酒米が豊富に取れず、大量生産のために拒めなかった時代では仕方なかったのもしれない。だが次第に本来の米と水だけの造りを追求して、糖の甘さを排除した“辛口”の地方酒が評価されるようになっていく。

 

そんな時代を背景に「辛口ですか? 甘口ですか?」と聞かれるようになっていたのである。現代の日本酒には、“日本酒度”と言われる、数値が低いほど辛さを表す基準が設けられている。だが人が感じる辛さや甘さは、酒の持っている酸度とも関係があり、また酒の濃淡も影響してくる。それゆえに単純に、辛口か甘口かの判断だけでは補えないのである。

 

でもそこから先、自分の好みを言うのが難しい。あまり日本酒に詳しくない人は、どう受け答えしたらいいかわからなく、ますます固まってしまう。

マッキー流、日本酒の頼み方

僕の場合は、2パターンの受け答えを用意している。一つは、「その時の気分を言う」である。「今日は蒸し暑かったから、飲んでさっぱりとした気分にさせてくれる酒をグラスで」とか、「今日は一日頭をフル回転させて疲れているので、温泉に入ったような気分、頭の疲れをほぐしてくれるようなぬる燗をください」といった具合である。

 

これはちょっとキザに感じられるかもしれない。「何言ってんだこの客」と思われるかもしれない。しかしそう思うような店は大したことがない。いい店であれば、そう言われて、なんとかお客さんの要望に沿うように努力する。さらに言えば、初めてのお客であっても「この人はうちの店を楽しんで過ごそうと思っていらっしゃたんだ」と、お客さんの積極性を感じ、料理作りにも反映されるかもしれない。結果として、好印象を強く残すお客さんになるだろう。

 

しかし中には、そういうふうに頼むと、困惑している様子が感じられる店もある。また「こんなことは言えない」と言う人もいるだろう。そうう時は次のパターンで、酒の好みを言う。無難にきたいので「香りの強くないやつ」「酸味を感じるものを」「ぬる燗にしてうまい酒」と頼んでみる。 理由は、日本酒とは食中酒であるからである。大吟醸にありがちな、華やかで香りが強いものは、最初の一口はいいかもしれないが、料理の邪魔をする。またある程度酸味がないと、飲み飽きてしまうからである。あるいはぬる燗にしてまろやかな膨らみが出る酒は、食中酒に向いているからである。

店主がもっと詳しそうだったら、「飲み飽きないものをください」「しっかりと熟成して、キレ味がいい酒」という頼み方もしてみる。これもまた、食中酒として最適だからである。

日本酒の頼み方、プロの場合

さらにはプロの意見もあげてみよう。四谷にて「鎮守の森」と言う膨大な日本酒ストックを持ち、日本酒と料理の新たなマリアージュを追求している店の店主、竹口樹さんに、他のお店にいって頼む時はどうしますかと、聞いてみた。

さまざまな日本酒を楽しめる「鎮守の森」 出典:coccinellaさん

 

彼も上記のような頼み方をするという。それに加え、「こちらの料理の味わいを邪魔しないように、香りがおさえめで、透明度の高いお酒を冷酒でください」「この料理の温かさを消さないように、ややふくらみのあるお酒を常温(ひや)でください」などと言うそうである。もしくは、「その料理の食材の産地に近い地域のお酒があればください」という頼み方もあるという。

 

さすがである。また気をつけなければいけないのは、「おまかせ」だろう。完全に任せると、高いお酒ばかりを「どうだ」とばかり出してくる店がある。どうしてもおまかせにしたい場合は、自分の酒量と予算をうべきである。

好きな銘柄をお教えします

最後に銘柄の僕のおすすめと、竹口さんのおすすめをあげたい。

 

牧元のおすすめ、松の司、七本鎗、神亀、竹鶴、いづみ橋、石、八海山。

 

竹口さんのおすすめは、日本料理やお鮨など合う、すっきりしたもの、旨みの膨らみやコクのあるものとして、安東水軍、あづまみね、綿屋、黄金澤、羽陽男山、稲里、登水、松尾、有磯曙、孝の司、近江藤兵衛、富久錦、竹泉、石見銀山、中島屋、川亀、媛一会。

 

さあ皆さん、日本酒を楽しみましょう!