【肉、最前線!】

数多のメディアで、肉を主戦場に執筆している“肉食フードライター”小寺慶子さん。「人生最後の日に食べたいのはもちろん肉」と豪語する彼女が、食べ方や調理法、酒との相性など、肉の新たな可能性を肉愛たっぷりに探っていく。奥深きNEW MEAT WORLDへ、いざ行かん!

 

今回は、人気の鴨料理専門店による新業態。鴨肉を中華的技法で洒落っ気たっぷりにアレンジするという、麻布十番の新店に迫る。

Vol.26 中華の技法で広がる可能性!肉と鴨編

酢鴨

 

唐揚げ、焼鳥、親子丼に水炊きなど、数えきれないほどの料理バリエーションがあり、老若男女を問わずに愛されている鶏肉。そのニーズが増え続けている理由のひとつに、日本人のヘルシー志向が年々高まっているという背景もあるなか、いま、一層注目を集めているのが鴨肉だ。江戸時代の文献にも、その多彩な調理法が記されていたように、古くから鴨肉が日本人と親和性の高い食肉であったということは間違いない。

前菜

 

自社養鴨場から直送の鴨を使ったコース料理を供す1号店「鴨とワイン Na Camo guro(ナカモグロ)」を中目黒に構え、この6月、麻布十番に別業態の2号店がオープン。「十番 無鴨黒(ジュウバン ナカモグロ)」では、鴨肉の可能性をさらに広げるために、中華の技法やアジアン料理の要素を取り入れた鴨ずくめのコース料理を提供している。日本の食文化が成熟するなかで、よりニッチで密度の濃い専門的なレストランが人気を集めるいま、鴨と中華的技法の融合は、とりわけキャッチーだ。

 

要となる鴨は、山形県最上郡大蔵村で育てた最上鴨を使用。良質な米を飼料で与えるなど、飼育方法にもさまざまな工夫を凝らしているが、甘い脂、しっとりとした肉質の秘密はその飼育環境にもあるという。山形県の北東部に位置する最上郡は県内屈指の豪雪地帯。冬の厳しい寒さは、ほどよく脂がのり、身が締まった鴨を育てるのには最高の環境なのだ。

カモマンガイ

 

“最上”の美味しさを湛えた鴨肉を満喫できる「おきまりコース」は5,800円(税別)で9品前後の料理が登場。紹興酒でマリネし、バルサミコ酢と醤油ベースのソースを合わせた「よだれ鴨」や最中のなかに鴨レバーをつめた一品などを盛り込んだ前菜、黒酢に果汁を加えて煮詰めたソースを絡めた「酢鴨」など、誰もが知る王道料理にアレンジを加えた逸品が揃うが、とくにインパクトを残すのが、ジューシィな鴨肉の持ち味を最大限に引き出した「カモマンガイ」。

 

土鍋で炊き上げるジャスミンライスのうえには、しっとり柔らかい胸肉がたっぷり。ピリリと辛い有馬山椒と醤油のタレをかければジャスミンライスの香りも肉の旨みもより引き立つ。カウンターは基本的におきまりコースのみの提供だが、テーブル席では「火鍋コース」5,800円(税別)のオーダーも可能なので、シーンや気分によって使い分けるのもおすすめ。

プラス4,500円(税別)でアルコールペアリングを付けることもできる。セレクトは日本を代表するソムリエの大越基裕氏が担当。160種以上揃うワインとともに料理を楽しみ、新しいマリアージュを見つけるのもまた一興だ。

 

鉄分やビタミンを多く含む鴨肉は暑さにバテた身体にもぴったり。この夏は、鴨肉の未知なる魅力のトリコになってしまうカモ!?

写真:上田佳代子

取材・文:小寺慶子