【肉、最前線!】

数多のメディアで、肉を主戦場に執筆している“肉食フードライター”小寺慶子さん。「人生最後の日に食べたいのはもちろん肉」と豪語する彼女が、食べ方や調理法、酒との相性など、肉の新たな可能性を肉愛たっぷりに探っていく。奥深きNEW MEAT WORLDへ、いざ行かん!

 

今回は、銀座にある、コースで楽しむとんかつ専門店。まるで交響曲やオペラのように、緩急つけ楽しむことで開花するとんかつの魅力を早速みてみよう。

Vol.29 かつかみ

ひと昔前までコース料理といえばフレンチやイタリアンというイメージだったが、いまは焼肉も焼鳥もコースで楽しめる時代。好きな料理を気分やシーンで選ぶことができるアラカルトに対して、コース料理には店主渾身のメニューをその構成ごと、あますところなく堪能できるという魅力がある。焼肉や焼鳥に関していえば、さまざまな部位の異なる味を店主イチオシの流れで楽しめるというメリットも。同じ赤身でも部位が違えばこれほど味わいが変わるものか、という発見は、食の楽しさを一層膨らませてくれる。鮨のおまかせ同様、部位によって食感や風味、脂の質など個性が異なる肉は、間違いなく“コース映え”する食材のひとつだろう。

 

老若男女を問わず、コアなファンがいながら長いあいだ“深化”が見られなかったとんかつがここに来て大きな飛躍を遂げている。その旗手としてとんかつ好きから「よくぞ、やってくれた!」と称賛を浴びているのが、「銀座 かつかみ」だ。

これまで“ごちそう定食”感覚が強かったとんかつをコースで提供するという斬新さでオープン間もなくしてたちまち話題に。とんかつはロースかヒレを炊きたてのご飯や山盛りキャベツとともに、という多くの日本人にすりこまれたイメージを打ち砕くコロンブスの卵的な発想もさることながら、実際にコースでさまざまな部位を食べ比べると、はっきり異なる味の個性に驚嘆する。「かつかみ」では随時、11種前後の部位を扱っており、夜の7,000円のコースは5~6部位がひと切れずつ登場。鮑や蟹コロッケなど豚肉以外の揚げ物を織り交ぜながら、小気味よくとんかつ主体のコースを楽しませる。

店主・日向準一さん

 

最初に登場するのは、しなやかな旨みと柔らかな食感が持ち味のひれかつ。目の前で熟練の職人が揚げてくれるスタイルとあって、その様子を眺めているだけでも食欲がそそられる。半分にカットされたヒレの断面は淡い桃色で、表面には光を受けてキラキラと輝く肉汁がたっぷり。肉の面を上にして、浮いた肉汁を吸うようにして頬張ると、口の中がその旨みで満たされ、感嘆のため息がもれる。

サラダオイルとラードをブレンドした揚げ油を使用し、高温で揚げているため、衣の食感も軽やかで豚肉の豊満な旨みがより引き立つ。

「最初はヒレやうちもも、ランプなどのあっさりした肉質のものからスタートし、徐々に味の濃度が高いものへスイッチしていく」という提供スタイルもコースならではの醍醐味。

メンチカツや天然鮑のコロッケ、車海老のフライなどで緩急をつけながら、ロースへと移行し、最後はご飯もので〆るというコースの口福感は想像以上だ。

濃厚な旨みを持った肩ロースには、あえてトリュフバターをのせ、芳醇な風味の相乗効果を楽しませるといった仕掛けにも胸が弾む。

 

また、店にはソムリエが常駐しており、料理に合わせたグラスワインが楽しめる“みつくろいコース”も。なにもかもが新しいとんかつコースで、新年度の“肉初め”をすれば、運気もトンでもなくアガるかも!?

※価格は税別

 

写真:大谷次郎

取材・文:小寺慶子