「ミュージアムのような空間に見合うお菓子を並べたい」
パティシエの吉田守秀(もりひで)氏が手掛ける「MORI YOSHIDA」といえば、一目でわかる特徴的なモンブランをイメージする方も多いだろう。吉田氏は、老舗の和洋菓子店の3代目として生まれ、自身は洋菓子の道へと進む。南青山「アニバーサリー」、新宿のホテル「パーク ハイアット 東京」、埼玉県春日部市「菓子工房オークウッド」にて研鑽を積み、27歳の時に地元静岡に「パティスリー ナチュレナチュール」をオープン(2016年閉店)。
2013年、パリ7区に「MORI YOSHIDA」をオープンし、翌年のサロン・ド・ショコラの品評会で「AWARD DU CHOCOLATIER ETRANGER EN FRANCE」を受賞。その後も現地のパティスリーのコンクール番組にて2年連続優勝を果たすなど輝かしい栄誉を手にし、パティスリーの首都とされるパリでも多くの人々から愛され、不動の地位を確立している。2019年には、渋谷スクランブルスクエアに「MORI YOSHIDA」の日本1号店をオープン(2023年閉店)。最近ではTBS「ジョブチューン」に審査員として出演し、正直でお菓子への愛が溢れるコメントが話題となった。
そして2024年11月、ファン待望の路面店「MORI YOSHIDA 東京店」が中野に誕生した。「もともとラジコン少年だったので、中野ブロードウェイも好きでしたし、活気溢れる商店街も素敵ですね。再開発が進み、さまざまな文化が混ざり合う中の一つとして『MORI YOSHIDA』があるというのも面白いかなと感じています」と吉田氏。
「MORI YOSHIDA 東京店」が店を構えるのは、中野駅から徒歩10分ほどの静かな住宅街。少し意外な場所への出店だが、それには理由がある。「実は建築事務所だった空間です。僕の親戚の、タイ王国大使館や長野県立美術館などを手がけた建築家の宮崎浩さんが、もともとオフィスとして使っていました。ずっと格好いい空間だと憧れていて、ご厚意で使わせてもらえることに」(吉田氏)
コンクリート打ちっぱなしのスタイリッシュなビルは築30年のビルだというが、何も知らなければ、この店のために新たに建てられたのかと思ってしまうほど。地下のラボと1階の売り場が吹き抜けになっており、訪れるゲストと、働いているスタッフも一つの空間で繋がっているような感覚になる。
エントランスから贅沢な動線で回り込むように進むと、目の前にエレガントなケーキの数々が並ぶショーケースが現れる。そのサイドには、クッキーやフィナンシェ、マドレーヌなどの焼き菓子もバリエーション豊富にラインアップ。見ているだけでもうっとりと心が躍る。吉田氏は内装について語る際に「この素晴らしい空間に見合うケーキを並べたい」と度々口にするが、すでに空間デザインと珠玉のお菓子の数々がしっくりと一体となった印象を受ける。
「日本でできる現在(いま)のフランス菓子を届けたい」
「リアルタイムのパリのお菓子を伝えること」が信条だが、東京店に並ぶアイテムは、すべてパリと同じというわけではない。ベースは一緒でも、材料においてフランスと日本を比較し、優れている方を選んでいる。機材においては、オーブンやパイローラーなどは、パリと同じものが作業しやすく、フランス製のものを導入したという。
「お客様と向き合いたい」という思いから「MORI YOSHIDA 東京店」を開業した吉田氏。基本はパリの店舗に居るが、来日時には時間が許す限り訪れた人々と積極的に向き合って会話を楽しんでいる。