【噂の新店】MAISON OLINA

東麻布で数多のフーディーを魅了していた「OLINA」が人気絶頂でまさかの閉店。1年半の時を経て理想を注ぎ込んだ家で提供するのは、自然と食の精神に向き合う“現代の野点”をコンセプトにした唯一無二のコース。オリヴィエシェフが美食の概念を塗り替えます。

理想を形にした家(maison)で「OLINA」が再始動!

店には2人のこだわりが細部に宿っています

フレンチと韓国の食文化を融合したフュージョン料理を提供するパリ11区の「Pierre Sang」や、マカロンで有名な「Ladurée」を経て、オーストラリア、フランス、スウェーデンなど、さまざまなスタイルのレストランで経験を重ねたフランス人シェフ、オリヴィエ・ガルシアさんと、ファッション好きなら誰もが知る「Acne Studios」でデザイナーとして活躍した髙遠菜都子さんが手掛けた「OLINA」。オリヴィエさんの独創的な料理と、ファッションデザイナーである髙遠さんがクリエイトした世界観が話題となり、2024年2月、東麻布にオープン以降、高感度なフーディーたちを虜にしました。しかしながらフランスに拠点を置く運営会社が日本撤退を決めたため、わずか8カ月で閉店を余儀なくされたのです。

JR蒲田駅から徒歩5〜6分の場所にあります

それから1年半が経ち、2人が新天地として選んだのは大田区蒲田。雑多な街並みを歩いていると突如として現れるのは、緑が建物を包みこむ「niwa」と名付けられた一軒家です。東麻布の店のことを思うと意外な移転先ですが、「この場所との出会いがすべてだった」と髙遠さんは語ります。

“”FUA FUA(ふわふわ)”とネーミングした羊のような椅子が可愛らしい!

鉄扉を開けた瞬間から世界は一変。2人のビジョンをクリエイターたちが具現化した空間は、2階のテラスと同じタイルを敷いたり、外壁を厨房の壁に取り付けることで外と繋がっていることを感じさせ、透け感のあるリボンを贅沢に使用して刺繍で仕上げた生地とオーガンジーを重ね合わせたカーテンは外からの視線をほどよく目隠しながら、柔らかな自然光だけを室内に届けます。ゲストの居場所は無機質なコンクリートの壁と相反するように、温もりを感じさせる樹齢300年ほどのアフリカンチェリーの大きな一枚板のテーブル。5.5m×1mもありどっしりと、それでいて手に馴染む優しさにあふれています。庭が見える2階の個室にも同じ材質のテーブルが置かれており、こちらは特別な日に利用したい。

所作を目の当たりにできる!

同じ時間に居合わせたゲストが調理の音や香り、会話を共有する一期一会の場でありたいと、厨房には壁を造らず、三角のアイランドキッチン、コンロやシンクもゲストのテーブルと同じ高さにして隔たりを無くしました。提供するのは「OLINA」からの“ラスティックモダン(素朴さと洗練)”な皿を、素材の水分を閉じ込めた独自の火入れ、食材への敬意、食材のポテンシャルを極限まで引き出した熟成、30種以上の自家製発酵食材という4つの技術哲学により、“野点”を現代に解釈したコース料理です。

食材、火入れ、熟成、発酵が織りなす至高のコース

「燻る新緑」

こちらではコースの流れを表すのに1皿目でも1品目でもなく、紙の枚数や本のページを数える「葉」を使います。まるで1つの物語かのごとく、第1葉、第2葉と進みます。第2葉に供されたのは鮮やかな緑色が印象的な旬の豆野菜のサラダ。モロッコインゲンやスナップエンドウなど新鮮な豆野菜と葉野菜に、自家製コンブチャをベースにオレガノ、辛味オイル、蜂蜜を合わせて泡状にしたドレッシングを絡めると、中からスモークの香りを纏った桜鱒が現れます。プチプチとしたとびっこの食感も楽しい一皿です。

「煙る海岸」

海岸沿いで何かを探しながら散歩しているイメージで作った第4葉の皿は、キャベツをこんもりと盛り、白いアリッサムが飾られています。きっと何か忍ばせているなと予想しながら食べ進めると……。

海岸での探しものはアサリだった!?

中から現れたのは木更津のアサリと、オーブンでホクホクにしたものとピクルスにしてシャキシャキさせたものの2つの方法で調理したじゃがいも。ソースはアサリから出たスープにバターとレモン汁を少々入れて酸味を感じさせています。春キャベツは甘く、やわらかさと歯応えを併せ持つ絶妙な茹で加減。肉厚でプリッとしたアサリのうまみの陰から食感でその存在をアピールするじゃがいも。それらを程よく酸味が利いたソースが調和させるのです。

「森の残響」

メインに使ったのは「おいしい赤身の牛肉を探してたどり着いた」と言う、岩手県産の短角牛。鶏ガラと赤ワインを煮詰めて山椒を加えたソースが、うまみの強い赤身肉を華やかな複雑味を真髄とするフランス料理へと仕立てあげます。付け合わせは南瓜の種の味噌を味醂と水で溶いて塗りながら備長炭で焼き上げた筍。添えたのは通常使うヘーゼルナッツではなく南瓜の種で作ったプラリネと黒ニンニクを混ぜたペースト。深みのある甘さやナッツを思わせる香りが生み出す“新しい味”は、陶酔するほどのおいしさがありました。

「白いオマージュ」

こちらはオリヴィエさんがリスペクトする日本の米で、フランス人である自分らしさを表現した一皿として完成させた、フランス伝統菓子の「リオレ」を甘酒で再構築したデザート。米のアイスクリーム、甘酒で煮込んだリオレ(ライスプディング)、日本酒のジュレ、米のポン菓子、甘酒のベール、オルチャータ(ライスミルク、水、砂糖、シナモン、バニラなどで作るスペインや中南米で飲まれているドリンク)の6つの要素で構成されています。オリヴィエさんのルーツ、さまざまな料理を作ってきた経験と技術、日本の食材との出会いと、まさにオリヴィエさん自身を映し出したような、オリヴィエさんにしか作れないこのデザートは、スペシャリテにふさわしい一皿です。

外に出た瞬間に再訪が待ち遠しくなる!

旬の食材を独創的な発想で繰り広げる料理が魅力

来日してから4年。未知なる日本の食材と対峙し、自身の経験と感性でおいしくすることが楽しくて仕方がない様子がカウンター越しに見てとれます。オリヴィエさんは一つの食材を掘り下げる料理が多いと聞いていましたが、終わってみればアミューズと前菜は食材を多種使ってハーモニーを楽しませ、魚料理と肉料理はメイン食材に野菜を添えるというスタイル。オリヴィエさん自身も第1葉から第2葉へとページをめくったのでしょう。これは第3葉以降も目が離せなくなりました。

「OLINA」から「MAISON OLINA」

移転して「家」という意味の「MAISON」を店名につけたのは、“2人の家に遊びに来た”ような気持ちで気軽に楽しんでほしいという思いから。お土産にと渡された小さな袋には最後の一皿、第10葉「物語の続き」が入っています。レストランとはあらゆる美意識によって完成する総合芸術なのだと教えてくれた「MAISON OLINA」。生涯記憶に残る店が誕生しました。

※コースは17,000円(税込・サービス料別途)

文・高橋綾子 写真・八木竜馬