自分の握りは自分で切り開く!
ハイレベルなつまみに酒もいい感じで進んだころ、握りが始まります。酢飯の米は山形の「つや姫」、酢は赤酢、米酢、黒酢をブレンドしています。黒酢を入れるのはコクを足して酸味をまろやかにするため。大釜から御櫃に少量移し、タネによって温度を変えています。
「毎日とんでもない量のコハダを仕込んでいたので思い入れがあるんです。思い出の魚ですね」と、深坂さん。コハダは仕込みが一番手のかかる寿司ダネで、酢の塩梅、身の締まり方、香り、味わいは十人十色、まさに寿司職人の腕の見せどころです。酢飯も温かく江戸前らしい、酢をしっかりと感じるコハダです。
サクラマスは塩麹漬けにして4日ほど寝かせ、ねっとりとした食感。少し冷ました酢飯は酢加減がマイルドになり、サクラマスに寄り添います。塩麹漬けは深坂さんのシグネチャーディッシュ。食材を変えて通年提供しています。
中にすき身を忍ばせたカマトロは見てのとおりのとろっとろの食感。本日の宮城県塩釜の釣りで161kgの鮪は豊洲の仲卸「まぐろは大善」から。「基本的に一番香りがいいと思う150〜200kgの鮪を仕入れています」と言うように、頬張るとその香りの高さに目を見張ります。
握りの中盤に登場するのが名物の「餡掛け酢飯」です。本日は魚介出汁で蒸した黒ムツと焼きそら豆の餡。
黒ムツはしっとり、焼きそら豆は香ばしく、餡を絡めた酢飯の優しい味わいにほっこりします。深坂さんの握りは酢がしっかり利いているので、後半へ向かう前に口の中をリセットさせる役目も果たしています。
「ウニは仕込みをしないので、量で表現しています」というだけあって根室産と函館産のバフンウニの3段重ねです。初めに雑味がなくやわらかでクリーミーな根室産が口の中でとろけ、追いかけるように味が濃く甘みも強いけれど歯応えがある函館産が交わってきます。湯気がほんのり出るほどの温かい酢飯でウニにも熱が入り、より甘みと香りが増した極上の一貫です。
寿司屋でも和食屋でもバーでもある、そんな店が今の気分!
「寿司も和食も素晴らしい店で働かせていただきましたが修業半ばの身なので頼ることはできないと思いました。豊洲に毎日通い、僕の料理に向き合ってもらえる仕入れ先を見つけ、魚種ごとに得意とする店で買い付けています」と話す深坂さん。料理も仕入れもゼロから独自で築きあげました。
「ウニは本来あり得ないと思うのですが、毎日味見させてもらっています。甘いけれど雑味があったり、見た目は美しいけれど味が薄かったり、金額が高ければ良いというものではないことを学びました」と、深坂さんと共に歩んでくれる仲卸から仕入れた食材は深坂さんの意図を形にしてくれるのです。
こちらはバーとしても利用できることから、ソムリエの城戸美貴子さんがメジャーな銘柄から酒蔵の姿勢に惚れ込んだものまで、ワインに日本酒、焼酎、ビール、サワー、ウイスキーと豊富に取りそろえています。今の主流であるペアリングは推奨せず好きなものを飲んで欲しいそうですが、迷ったら城戸さんに委ねましょう。きっと最高の酒を選んでくれます。
最高級の魚を扱う「鮨 はしもと」でのレベルの高い仕込み経験が料理の基礎を、「創和堂」でひと手間かけた料理と酒のおもしろさを学んだことで、“寿司×つまみ×バーの三刀流”という店ができました。何を食べるのか、何を飲むのか、ちょっとでもガッツリでも一杯でも、こんな大人好みの店が東京の食をますます楽しくしてくれるに違いありません。
※価格は税込