「握り」へ繋ぐ珠玉のつまみ

「あん肝」

つまみは寿司屋らしくシンプルに食材を楽しめるよう少量で6〜7品提供されます。「あん肝」はねっとりした食感ながらくどさはなく、さっぱりとした味わい。これは日本酒が進みます。

「煮牡蠣」

兵庫県室津の牡蠣を、薄口醤油と味醂だけで味をつけた「煮牡蠣」はスペシャリテと言っても過言ではありません。ぷっくりとした牡蠣を噛み締めるとほんのりと甘い煮汁と牡蠣のうまみが融合し、後を追うように海苔の風味が重なります。こんなにも心震える牡蠣があったのかと思う感動的な一皿です。

「子持ちやりいか」

旬の子持ちやりいかは出汁と砂糖で炊き上げています。イカはプリッと卵はとろっとろ、この伝統的な味わいに山椒がピリッと心地よい刺激を与えてくれます。

一体感に圧倒される握り

硬めに炊いた「あきたこまち」は米粒がしっかり立っています

すきやばし 次郎」の系譜である「鮨 水谷」は米酢で酸味と塩味を利かせた酢飯でした。林ノ内さんももちろん米酢を使用していますが、酸味を強く感じながらも塩気は少なめ。よって喉が渇くことがなく、非常にバランスの良い酢飯です。

「鮪赤身」

見ただけでおいしいだろうと予測できますが、口にすると想像を遥かに超えていました。香り高く、うまみも十分な赤身はしなるようにやわらかく酢飯を包み込み、酢飯は舌で米粒を感じた途端ほろっと解け、一体となって喉を通ります。これは一貫で虜にしてしまう握りです。

「コハダ」

数日寝かせたコハダはうまみが凝縮され、しっとりとやわらかく、口の中が良い香りに包まれます。このコハダに林ノ内さんのキリッとした酢飯、まさに江戸前という言葉がぴったりです。

「車海老」

目の前に置かれた瞬間、「立派すぎる!」と言いたくなるほどプリップリに膨らんだ車海老は歯応えがよく、ちょっぴり残った海老味噌が隠し味になっています。ひと口で頬張るとしばらくは甘みと香りの余韻に浸れます。

「穴子」

ふっくらふわっと焼き上げた「穴子」に煮詰めをたっぷり。見た目は濃厚な煮詰めですが、食べると甘さも濃度もあまり感じさせず、穴子と酢飯に寄り添った味わい。小骨など1本もあたらず喉を通ります。

お寿司を食べた!と思ってもらえる店を作りたい

握り方が美しい!

おいしさは言うまでもないのですが、目を見張ってしまったのが林ノ内さんの握り方の美しさ。「(水谷)親方の指が長くて細く、キレイなんですよ。指先まで神経を尖らせて握ればキレイに見えると教わってから指をピンと張って握るようにしました」と。

仕入れは豊洲の仲卸「結乃花」から

林ノ内さんの握りは手に取った瞬間は硬めに感じますが口に入れた途端、酢飯はほろりと解けてタネと一体となり、喉を通った時にどちらかが強調することのない完璧な調和が生まれます。これには酢飯同様、タネも重要。仕入れ先は豊洲で若手NO.1と評される「結乃花」に一任しています。酢飯と寿司ダネの一体感、これこそが寿司の醍醐味であり、林ノ内さんの目指す寿司なのです。

渾身の一貫

こちらではランチ限定の握りのみのおまかせコース(17,600円)と、ランチ、ディナー共通でつまみ6〜7品と握り10〜12貫のおまかせコース(28,600円)の2種類となっています。予約時間は2部制とは言いながら、1部は17〜18時の間で、2部も19時半〜20時の間で選択でき、一斉スタートのプレッシャーがないのはうれしいところ。

印象的な文字

「少食の人、アレルギーなど人によって量も速さもさまざまなので提供するものも順番もすべて一緒にはしていません。だから一斉スタートにする必要がないので、できるだけお客様に合わせたい」という柔軟な姿勢も人気の所以。早くも予約が難しくなっていますが、ぜひ訪れたい店の誕生です。

※価格は税込


文:高橋綾子、食べログマガジン編集部 撮影:溝口智彦