〈秘密の自腹寿司〉

高級寿司の価格は3~5万円が当たり前になり、以前にも増してハードルの高いものに。一方で、最近は高級店のカジュアルラインの立ち食い寿司が人気だったり、昔からの町寿司が見直されはじめたりしている。本企画では、食通が行きつけにしている町寿司や普段使いしている立ち食い寿司など、カジュアルな寿司店を紹介してもらう。

教えてくれる人

門上武司

1952年大阪生まれ。関西中のフランス料理店を片っ端から食べ歩くももの足らず、毎年のようにフランスを旅する。39歳で独立し「株式会社ジオード」設立後はフードコラムニストというポジションにとどまらず、編集者、プロデューサー、コーディネーターとマルチに活躍。関西の食雑誌「あまから手帖」編集顧問であり、全日本・食学会副理事長、関西食文化研究会コアメンバー。著書には「食べる仕事 門上武司」「京料理、おあがりやす」(廣済堂出版)、「スローフードな宿1・2」(木楽舎)、「門上武司の僕を呼ぶ料理店」(クリエテ関西)など。年間外食は1,000食に及ぶ。

日本料理をベースに握りを考案

中央大通沿い。大阪メトロ「緑橋駅」とJR「森ノ宮駅」のちょうど真ん中辺りにある寿司店。開店は26年前で、創意工夫のある、他にはない握りが味わえると評判の一軒だ。その噂を聞きつけ、カウンター8席、テーブル4席の小さな店には、他府県からなど遠方からの客が8割を占め、予約は必須という。

店主は金田太志さん。17歳から料理の道に入り、料亭で住み込みながら4年間日本料理の基礎を学ぶ。その後、寿司に興味を持ち、3年間で5軒の店を回り、技術を習得。「あえていろんな店に行きました。“いいとこどり”をしたくて」。その後7年修業を重ね、35歳で独立。駅近でない場所を選んだのは「ふらっと入るのではなく、選んでこの店に来てほしかったから」とのこと。

店主の金田太志さんと息子の博士(ひろひと)さん

「新鮮なネタをひと工夫してさらにおいしく、を心がけています。日本料理がベースにあるので、例えばイカとウニの和え物やアワビの肝醤油などの料理を“握れないかな”と考えていました」。 ネタの仕入れは鶴橋市場から。お米は幻の米とも評される岐阜・養老郡のハツシモを使用。あっさりとしていて、大粒なところが気に入っている。シャリは「一口目にほぐれるように、空気を入れて握るようにしています。やわらかすぎてもだめですが」とのこと。

 

門上さん

食いしん坊のシェフから値打ちのある寿司屋があると聞き、うかがいました。まさにお値打ち、それは値段だけでなく、大将の創作意欲にもあり、感動を覚えました。