フードライター・森脇慶子が注目の店として訪れたのは、2017年12月にオープンした日本料理店「大竹」。岐阜の名店出身のご主人が織りなす美しい料理の数々をとくとご覧あれ!

【森脇慶子のココに注目 第2回】東海屈指の日本料理店出身オーナーによる新たな名店候補「西麻布 大竹」

 

岐阜「日本料理 たか田八祥」。基本を大切にしつつも、独創的発想の懐石料理で東海屈指との呼び声も高いこの名店から、またひとり、将来有望な新人が現れた。

 

「西麻布  大竹」。去年の12月7日にオープンしたこの新店の噂を耳にして、好奇心はマックス。期待度もググッと高まった。というのも、件のたか田八祥から巣立った料理人には、予約の取りにくい日本料理店として知られる三田「晴山」の山本晴彦氏や、独自のアレンジが楽しい銀座「寛幸」の佐藤寛幸氏など優秀な人材が多いからだ。

 

ご主人の大竹達也氏

 

カウンターで出迎えてくれたご主人の大竹達也氏は、愛媛出身の元高校球児。「魚釣りと食べることが大好きだったので料理人になりました」そう言って笑うその姿が福々しい。

 

辻調理師専門学校時代に講習を受けた、たか田八祥のご主人の料理と人柄に惹かれ、卒業後、19歳でその門戸を叩いた。日本料理の伝統を守りつつも、進取の気性に富んだ料理の有り様が自分には合っている、そう思ったからだ。基本を踏まえた上で、少し崩す。真空調理法などの新しい技術も良しとなれば、積極的に取り入れる。そうした柔軟な姿勢も、和食の技術と共に学びとったのだろう。

 

「じゃがいものハリハリ」 。修業先の「たか田八祥」の名物料理。細切りにしたじゃがいもを、シャキシャキした歯応えを残すよう炒めたもの

 

デザートを含め全11品からなる同店のおまかせコースは、先付けに始まり、お椀、お造りとオーソドックスな流れながら、揚げ物には、菜の花やそら豆など旬の素材を巧みにアレンジしたクリームコロッケが登場。時には、焼き物に牛肉や猪がお目見えすることもあるなど、いわゆる型通りの割烹料理とは一味違う遊び心のある一皿に思わず笑みが溢れる。

 

グリーンの色鮮やかな「菜の花と帆立貝のクリームコロッケ」と、奥が「すっぽんのおから」

 

また、本来は褻のおかずのおからにしても、すっぽんの身とスープを合わせて作ることで、料理屋の一品にふさわしい品格ある味わいに仕立てあげている。その一方で、お椀は正統派。

 

「松葉蟹の真薯椀」。名残松葉蟹を贅沢に使った真薯椀。蟹はブランドの柴山産

 

塗りのお椀の蓋を開ければ、ふんわりと顔を包みこむふくよかな香りに心が和む。この一瞬もお椀の醍醐味。取材時の椀種は松葉蟹真薯。蟹の身だけではなく、中には蟹味噌をたっぷり忍ばせている。けれんなく楚々とした佇いは、シンプルでいて優美。食べ進むうち、控えめなだしの旨味に蟹の甘みがじんわりと滲みでて、まろやかな余韻が舌に残る。昆布は、北海道産の真昆布と利尻昆布。これを、その時々の昆布の状態と椀種の内容によって使い分けているとか。

 

「蟹の旨味が強いので、鰹節はやや少なめにして、代わりに淡白でいて上品な味わいのめじ節をブレンドしています」と、大竹さん。季節感を大切に、意味なく飾りたてず、素材の味を引き立てるシンプルな料理を目指す。そんな大竹料理の象徴的な佳品といえそうだ。

 

「蛤とタラの芽の炊き込みご飯」。ご飯は、福井県のコシヒカリとミルキークイーンをブレンド

 

締めの炊き込みご飯も然り。今が旬のハマグリとタラの芽の合わせ技もさることながら、ただ一緖に炊き込むのではなく油と相性の良いタラの芽は一度炒め、炊き込んでしまうと硬くなるハマグリは蒸らしの時にご飯と混ぜて余熱で火を通し、そのジューシーさをキープするなどの細やかな配慮はさすが。

 

 

ご飯はご飯でハマグリの旨味を染み込ませるため、別に取り置いたハマグリのだしを加えて炊き上げる手間のかけよう。ご主人の料理に対する愛情が垣間見えるようだ。一見、ピラフのような味わいながら、やり過ぎではないほどの良さもお見事。

 

一皿一皿の量もたっぷり。「食べた!」という実感を味わえる貴重な一軒だ。

取材・文:森脇慶子

 

撮影:大谷次郎