現在進行形で進化し続ける料理! 世界中を旅して新しい味に出会いたい
本田:料理としてはどういう料理を作りたいというのはあるの?
鍬本:めっちゃシンプルなんですけど、食べることが好きなので、旅先などで食べて、それを自分の中で解釈して、お客様にお出ししていきたいですね。熊本の食材は無理に集めなくても、自然に集まってきます。そういった熊本の食材をありったけ使いたい。
本田:他のエリアのものも使うことはあるの?
鍬本:はい、もちろん。旅に出たときに出会う素材があるので、そういうものも積極的に取り入れています。
本田:結構、旅をしてるよね。
鍬本:実際に見ないとわからないと思っているので。SNSで知識は得られますが、やっぱり行ってみて生で見ないとわからないことがあります。ストックホルムに行ったときは、めちゃくちゃ勉強になりました。そのときは、2カ月ぐらいかけてパリやナポリにも行ってきました。
本田:そんなに行ってたんだ。
鍬本:年に1〜3カ月は必ず行くようにしています。その前はニューヨークに1人で3カ月ほど行ってきました。
本田:3カ月も行ったの? 普通、店を休みたくない、というより休めないじゃん。
鍬本:「.know」をオープンしてまもなくだったので、経済的にはめちゃくちゃきつかったです。それでも営業中にこのままだとダメだなと思ったんです。自分の中に不安があって。マンネリが怖いとかじゃないんですけど、必要なことを今しておかないと、ずっとできない気がしたんです。
本田:常に何かをインプットしたい。
鍬本:はい。絶対大事なことだと思っています。
本田:行ったら、研修もさせてもらうの?
鍬本:いや、食べ歩きです。トイレと間違ったふりをしてキッチンを覗いてみたり。ニューヨークではキッチンを見せてくれないレストランもあるんですけど、知らぬ顔でキッチンに入っていって、何しているんだって聞かれたら、日本で店をしていてと言って。そうしたら仕込みを見せてくれました。鴨がすごくおいしかったので、どういう育て方しているんですかって聞いたら、次の日、何時に来なよって。
本田:それは勉強になるよね。
鍬本:修業経験がほぼないので、そういう経験を積んでいくしかないんです。リアルにキッチンを見せてもらって、その経験を日本に持ち帰って、お客様に食べていただくという。それだけですね。
本田:ストックホルムやパリのレストランに行って、インスパイアされた料理ってある?
鍬本:ストックホルムの「Ekstedt(エクステド)」に行ってきました。薪だけでやっていて、そこも振り切り方が尋常じゃないお店です。フランバゴ、牛脂をかける料理はそこでインスパイアを受けたものです。
本田:メニューは頻繁に変えているの?
鍬本:そんなにしょっちゅうは変えていないです。短くて2週間ぐらいで、長くて1カ月ぐらい。全体ではなく一部ずつ変えていっています。
本田:これだけのスタイルだとクリエーションが大変だよね。
鍬本:でも、本当に楽しいです。
本田:だから海外に行って、クリエイティブなアイデアを得てくる。
鍬本:ストックホルムの「Frantzén(フランツェン)」なんか2、3時間ぐらい涙目で食べていました。すごすぎて。
本田:「Frantzén」のシェフは和のインフルエンスを受けているよね。
鍬本:食べていて、なんで日本人なのにこういうことを思い付かなかったんだろうと悔しい気持ちにもなりました。北欧だったので、発酵のことも気になって、シェフに尋ねたら「なんで日本なのに発酵させるんだ。僕らは冬になったら食材が取れないからそういうふうにしてるんだよ」っていうのを聞いて、なるほどなと。北欧では夏に木の実を集めて、それを発酵して使うというのが元々の生活の知恵としてあるんですよね。そういうことが文字で書いてあるものを読んでも頭に入ってこない。直接、生の声で聞くとすごく勉強になります。
本田:年に3カ月は休みにして、海外に行く。
鍬本:今はインプットに対してものすごく強欲になろうと思っていて。お客様が離れるのではというお声もいただいているんですけど、そんなことをもう気にしていられないぐらい今はインプットがしたい。今見に行かないと絶対動けなくなるというのがあります。旅に行って帰ってくると、本当に自分の中でも何かが変わっていくのがわかるんです。向こうに行って何かチャレンジすることで、必ず何か得られる。例えば、ナポリでたまたま会ったバーテンダーの方にコラボレーションを持ち掛けられて、それでメキシコに行って、料理をしてきました。韓国のイテウォンでは、たまたま立ち寄ったワインバーで隣に座った方がそのバーのオーナーの知り合いで、コラボレーションしようとなって、サクッとイベントをしてきました。そういった旅先での偶然から始まるコラボレーションとかは、やみつきになる緊張感がありますね。違う国の方々に食べてもらう。やめられない感覚があります。
本田:峻は料理人だけど、食べるのも好きだし、旅も好き。これからの新しいシェフの形かもね。
鍬本:自分がシェフだという感覚はなくやっているのかもしれません。知らない味に出会うと自然とテンションが上がるんです。
本田:その感覚をこうやって料理という形に落とし込める人なんだよね。
鍬本:そういう感覚でしかできない。自分の料理にルールのようなものは本当にないので。