築130年以上の古民家につくられた、熱源は薪と炭のみのレストラン
本田:「K」で結構人気になったんだよね。
鍬本:最初は非公開にしようとか、そういった仕掛けとかは何も考えていませんでした。とにかく知り合いが熊本には全然いなかったので、自分の携帯番号だけを書いた名刺を作って、それだけで営業をやっていたんです。そのときに来てくださって、今でも来てくださる方たちの口コミでお客様が来てくださるようになりました。「K」は「.know」の話をいただくまで続けていました。
本田:「K」でも薪料理をやっていたの?
鍬本:薪は「.know」が初めてです。「.know」が入っている建物は130年前ぐらいの古い建物なんですが、当初、キッチンはきれいに作るつもりだったんです。でも、一番古いキッチンっていろりだよなと思うようになって。薪っていうよりも、熱源をいろりにして、薪や炭でアプローチしていくレストランにしたいなと考えるようになりました。今、薪で料理する店が流行っていて、この店もそのカテゴリーに入るんですけど、こだわりは熱源となるいろりです。このいろりを使ってフライパンで焼いたりもします。
本田:最初に薪でやろうとしたとき、難しいと思わなかったの? 薪、やったことないとさ、めっちゃ難しくない?
鍬本:びっくりするほど難しかったです。使う薪の種類でも違うし、気候による違いもあります。独特のにおいもありますし、今日の薪、全然燃えないなあということもあります。でも、やっていくに連れて、毎日毎日違うので、それが楽しく思えるようになりました。
本田:オープンしたのは2020年頃かな。薪料理の店がじわじわと出始めた頃だね。
鍬本:僕が調べたところでは、当時、薪を扱っていたレストランは「レヴォ(L’evo)」「LURRA°(ルーラ)」の2軒ぐらいでした。この二つのレストランには行ってきました。
本田:ガスは全く入れていないの?
鍬本:ガス台はゼロですね。
本田:欲しくならない?
鍬本:たまに他店とのコラボレーションでガスを使うこともあります。先日もメキシコでイベントに参加させてもらったんですけど、久しぶりにガスがあるキッチンに立って、こんなに便利だったんだとシンプルに思いました。
本田:でもここまで制限したことによって生まれるものがある。
鍬本:はい、それはもう。本当にやってよかったなと。
本田:ここまで振り切ったことで得られたことって何? どんなことが見えてきた?
鍬本:熱源の薪だけの力はネガティブなものじゃなく、結構ポジティブなものと思っています。子どもの頃からの体験でいうと、単純にいろりの周りにいると温まってくるじゃないですか。火の力を感じられるというのが魅力です。料理へのアプローチを考えるなら、毎日、様子が違う熱源なので、機械化されたものではないというか、いつも少しずつ違う料理になります。
本田:たぶん、峻は同じことを続けるのは嫌なんだね。薪を使うことで毎日、発見があるのも面白いだろうし、コントロールできないものに対峙する面白さみたいなものもあるよね。