〈秘密の自腹寿司〉

高級寿司の価格は3~5万円が当たり前になり、以前にも増してハードルの高いものに。一方で、最近は高級店のカジュアルラインの立ち食い寿司が人気だったり、昔からの町寿司が見直されはじめたりしている。本企画では、食通が行きつけにしている町寿司や普段使いしている立ち食い寿司など、カジュアルな寿司店を紹介してもらう。

教えてくれる人

門上武司

1952年大阪生まれ。関西中のフランス料理店を片っ端から食べ歩くももの足らず、毎年のようにフランスを旅する。39歳で独立し「株式会社ジオード」設立後はフードコラムニストというポジションにとどまらず、編集者、プロデューサー、コーディネーターとマルチに活躍。関西の食雑誌「あまから手帖」編集顧問であり、全日本・食学会副理事長、関西食文化研究会コアメンバー。著書には「食べる仕事 門上武司」「京料理、おあがりやす」(廣済堂出版)、「スローフードな宿1・2」(木楽舎)、「門上武司の僕を呼ぶ料理店」(クリエテ関西)など。年間外食は1,000食に及ぶ。

1939年創業、地元民に愛される寿司店

京都市営地下鉄烏丸御池駅から徒歩約5分。三条新町を東へ行ったところに「すし善」はある。風情ある外観に「お高いのでは?」と思ってしまいがちなのだが、地元の人々から日常使いとして愛される、手ごろな寿司がいただけるお店なのだ。創業は1939年、3世代で通われる常連さんもいるとのこと。

店内はカウンターと小上がり、奥には座敷の個室がある。カウンターでは、3代目の西村健吾さんと父であり2代目の善明さんが白衣をまとい、手際よく作業をしている。「お寿司に向き合って作ることが面白いので、今まで続いたのだと思いますよ」と西村さんは笑う。

 

門上さん

家族がみんなで客をお迎えする姿勢に、温かみを感じました。

名物はちらし寿司。仕出しや持ち帰りもできる人気の品だ。「京都では甘くて水分の多いすし飯のところが多いですが、うちは酸味がある、ちらしに合う味付けにしています」とのこと。使うのは近江米。洗う回数や浸水時間など細部まで留意し、好みの硬さに炊き上げている。

桶にすし飯を詰め、のりを敷き、魚介を敷き詰めていく
ツメをたっぷりとはけで塗る
 

門上さん

何かの雑誌でちらし寿司を見て訪れました。一面錦糸玉子がびっしり敷き詰められたビジュアルと、その下に潜む魚の味わいに感銘しました。

これぞ名物のちらし寿司!

均一で美しい錦糸玉子をたっぷりとまとったちらし寿司(1,700円)。供されたときには一面黄色で魚介の姿は見えないが、食べ進めると次から次へと出てくる。食べ応えのある厚みにそぎ切りした、マグロ、鯛、はまち、穴子、たこ、イカと鮮度のよい魚介が存分に楽しめる。魚介の上にはややゆるめに仕上げた醤油ベースのツメがたっぷりとはけで塗られ、魚介と錦糸玉子、すし飯が一体化する。魚介の甘みを引き立てるよう、錦糸玉子は塩のみで味付けされているそう。

錦糸玉子の下はたっぷりの魚介が。供されるとき本来は一面、錦糸玉子で覆われている
 

門上さん

錦糸玉子の下には、はまち、穴子、鯛など鮮度のいいものが並びます。錦糸玉子は塩のみで味付けされ、甘みを排除しています。