〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

ナビゲーター

岡本のぞみ

ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

注目の街・門前仲町で人気の創作イタリアン

カウンターとテーブル席

門前仲町は下町情緒の残る街として、数年前までは居酒屋の多いイメージがあった。しかし、ここ最近はフレンチの有名店出身のシェフが独立して店を構えたこともあり、フレンチやイタリアンも続々とオープンしている。2022年に開店した創作イタリアン「Calore(カローレ)」もそんな店の一つ。

シェフの嶋脇央喬さん

「門前仲町に住む人が銀座や日本橋まで行かなくても、気軽においしいものを食べられるようなレストランにしたかったんです」と話すのはシェフの嶋脇央喬さん。メニューを見ると佐賀牛や下仁田葱など素材名が並び、生産者から届く食材の味を引き立てることを大切にしていることがうかがえる。「ワインも生産者を身近に感じられるような自然派ワインが多くなっています。生産者を選ぶと、食材もワインも力強くなります」と嶋脇さん。

店内奥のテーブル席

料理もワインも選りすぐりを用意しているにもかかわらず、ディナーコースは4,000円〜、ペアリングコース4杯4,400円とリーズナブル。オープンから1年が経った今は、月替わりのコースを楽しみに訪れる地元の夫妻や仲間が集まる人気店となっている。

下仁田葱のムース✕紅茶風味のオレンジワイン

下仁田葱のムース ズワイガニとトラウトキャビア(2個1,600円、写真は1個分)

前菜のおすすめは「下仁田葱のムース ズワイガニとトラウトキャビア」。下仁田葱とズワイガニ、トラウトキャビア、オゼイユを合わせてムースにしたもの。ムースにすると下仁田葱の甘みが引き立ち、ポタージュのような味わい。やさしいまろやかさが1品目にうれしいおいしさだった。

ブラジッチのピノ・グリージョ・ラマート 2021(グラス1,000円、ボトル6,000円)

こちらにペアリングされるのは、イタリアのフリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州のオレンジワイン。「オレンジワインですがタンニンが控えめで紅茶っぽいニュアンスです。すっとした味わいが甲殻類の入ったムースと相性がいいですね」と嶋脇さん。紅茶の風味がムースのいいアクセントになっていた。

アサリのニョッキ✕ミネラリー白ワイン

自家製サフランのニョッキ 北海アサリとセルバチコ(1,800円)

カローレのパスタは手打ちのものやニョッキも手作りされている。「自家製サフランのニョッキ 北海アサリとセルバチコ」はサフランを練り込んだじゃがいものニョッキを使ったパスタ。ハマグリかと思うくらい大きな北海アサリとセルバチコをのせ、ソースには高糖度トマト・こいとまが使われている。それぞれ素材の味が強く、主張のある味わいだった。

モルモライアのヴェルナッチャ・ディ・サン・ジミニャーノ・スアヴィス 2021(グラス900円、ボトル5,000円)

こちらに合わせたいのは、イタリア・トスカーナ州の白ワイン。「青りんごのようなはつらつとした白ワインです。ミネラル感が豊かなので、アサリとよく合います」と嶋脇さん。力強いミネラル感が全体をきれいに引き締めてくれていた。

佐賀牛のロースト✕リッチ赤ワイン

A5ランク佐賀牛のロースト マッシュルームのソースと炭酸葡萄 竹炭塩のクロッカンテ(3,800円)

メインディッシュのおすすめは「A5ランク佐賀牛のロースト マッシュルームのソースと炭酸葡萄 竹炭塩のクロッカンテ」。以前、嶋脇シェフが働いていたレストランで和牛の食べ比べをした際、最もおいしかったのが佐賀牛だった。独立した際には、目玉メニューとして使うことを決めていたそう。しっとりとレアに焼き上げられ、火入れ加減は申し分ない。寒い季節にはマッシュルームのこっくりとしたソースがよく合う。

テヌータ・デル・オルネライアのレ・ヴォルテ・デル・オルネライア(ボトル9,500円)

佐賀牛のローストにペアリングされたのはスーパートスカーナ・オルネライアのカジュアルワイン。「こちらのワインはしっかりした果実味で凝縮感があり、タンニンもしっかりした複雑な味わいです。上質なお肉とワインの王道の組み合わせをお楽しみください」と嶋脇さん。まさにカローレのコンセプトに合ったマリアージュ。それぞれの素材が織りなす世界を堪能できる。

嶋脇さんの「私が恋した自然派ワイン」

カ・ヴェスコヴァードのソーヴィニヨン・ブラン2021(グラス850円)

嶋脇さんの恋した自然派ワインは、試飲して惚れ込んだ一本を紹介してくれた。

「インポーターさんの試飲で見つけたイタリアワインです。飲んだ瞬間に、フルーティーな青りんごの風味が広がって衝撃を受けました。間違いなく、自分が飲んできた中で一番おいしかったワインです。

そのことをインポーターさんに伝えると喜んでくれて、生産者の来日に合わせて、当店でメーカーズディナーを開きました。お店の常連さんも楽しんでくれたようで、お店にとっていい記念になりましたね」

バラエティあるグラスワインをラインアップ

カローレでは、グラスワインが6〜7種類(850〜1,000円)、ボトルワインが約40種類(4,400〜20,000円)用意されている。ボトルワインはイタリアやフランスを中心に有名な銘柄が用意され、人気ワインが楽しめるようになっている。一方で、グラスワインはイスラエルワインなど嶋脇シェフが見つけたさまざまなタイプのワインが出されている。ちょっと冒険してみたいときはグラスワイン、しっとりと楽しみたいときはボトルワインを選ぶのがよさそうだ。

カウンターならふらりと訪れてもOK

内観
外観

カローレはテーブルでお得なコース料理を楽しむ人が多いが、実はふらりと訪れてカウンター席に座るのもおすすめ。カウンターは予約をとらない仕組みのため、満席の日でも入れるようになっている。門前仲町に住む人はもちろん近くに立ち寄った人も、素材の味がしっかりした料理やワインに出会えるだろう。

※すべて税込

取材・文:岡本のぞみ(verb)
撮影:山田大輔