【食を制す者、ビジネスを制す】

“いい仕事”をするためには“コクとキレ”が必要だ

仕事で新しい切り口を見つけるには?

もうすぐ4月。人事異動や転職など新しい職場で新しい仕事を始める人も少なくないだろう。中には、会社で新しいビジネスを始めるために、企画やアイデアを求められる人もいるかもしれない。そんなとき新しい切り口を見つけて、企画や仕事に活かすにはどうすればいいのか。かつて、ある社長から次のようにアドバイスされたことがある。

「新しいヒントを見つけるには、非常に素朴な疑問をもつことから始めるといい。仕事をして長い年月が経ってくると、業界のトレンドはわかるかもしれない。しかし、どんな業界であっても、プロになればなるほど見えなくなるもののほうが多くなってくるんだ」

例えば、一般の人からの素朴な疑問として、「どうしてこんなことできないの」と問われて、ドキッとすることがないだろうか。どう答えていいのかわからず、「確かになぜできないのだろう」とついつい考え込んでしまうときだ。

実は、そうした素朴な疑問の中にこそ、新しい企画のヒントやビジネスチャンスが隠されているかもしれないのだ。だからこそ、なるべくそうした声に耳を傾けるスタンスをもち、常に自分から疑問を生み出すように、やわらかく物事を考えることが必要になってくるのだ。

仕事に必要なコクとキレ

確かに会社で長く仕事をしていると、見えるはずのものがなかなか見えなくなるときがある。所属する会社の価値観だけに頭の中を支配されてしまって、ものの見方が固定化されてしまうのはあまりいいことではない。なぜこんな非合理的な仕組みになっているのか。もしかしたら、この仕事の過程は省けるのではないか。いつも素人の目線で物事を見ることが重要なのだ。そこに何らかの真理が隠されているかもしれない。新しい企画やビジネスチャンスを見つけるには、意外にも素朴な目線が何よりも大切なのである。

では、ヒントを得たうえで、いい企画や仕事にしていくにはどうすればいいのか。これについても前述の社長から、こう言われたことがある。

「煎じつめれば、すべてのいい仕事にはコクとキレが備わっているということだ。まずコクだけでは誰も気づいてくれない。コクだけで勝負するにはワインのスーパーブランドのように100年経った老舗でなければ、勝負できない。キレというのは、ビールのように一瞬で通り過ぎるものだから、ふわふわして、一瞬心をつかむことができるが、長続きしない。つまり、流行で儲けるにはキレが大事だが、ずっと続けるにはコクが必要なのだ。日々変化していくなかで、仕事で勝負するには、その両方がないとやっていけないのだ」

京都祇園の「祇園丸山」

そのためには日々の仕事以外にも、気付きを求めて街を歩き、世の中にある“いい仕事”をたくさん見ることが必要になってくる。例えば、気付きを得るための第一歩としては、いつもと違う場所を訪れてみるといい。できれば違う文化や環境を味わうことができる場所がいいだろう。環境が変わって比較することができれば、必ず何らかの気付きを得ることができるはずだ。

私自身なら、例えば大阪、京都、神戸。いずれも魅力的な街であり、そこで“いい仕事”をたくさん見ることができる。4月ならやはり京都に行きたい。街を歩くだけで気持ちもいいし、各所で新しい発見もあるはずだ。

そして、歩いて「見た」あとは、食の“いい仕事”を堪能する。そこでお薦めしたいのが、京都・祇園にある京料理の名店「祇園丸山」だ。こちらの店は数寄屋造りの一軒家で雰囲気、食事、サービスともに“いい仕事”を経験することができる。しかも祇園という一見客はお断りの店が多い中にあって、一般の人たちでも予約すれば受け入れてくれる。コース料理が基本で、夜なら懐石コースが18,630円から、季節料理のコースは37,260円からだ。季節料理のコースはなかなか手が出ない値段だが、懐石コースならなんとかいけそうな気持ちになれるだろう。

私も初めて行ったとき、一番安い懐石コースを選んだのだが、これがよかった。言うまでもなく、すべての料理は京料理の伝統に基づいたものであるうえ、何よりも料理が非常に新鮮に見えるのである。テンションが上がるとでも言おうか、職人の“いい仕事”随所に垣間見ることができるのだ。しかも竹筒に入った日本酒が料理をさらにおいしくする。竹の香りが日本酒になじみ、ついついたくさん飲みたくもなる。個室で食べるのもいいが、一階のカウンター席で食べていると、いっぱしの常連客のような気分になれるから不思議だ。

出典:コネリー2さん
出典:ぴーたんたんさん

祇園という特別な空間で“いい仕事”を見て、食べることは、とてもいい刺激になる。なぜ祇園は今も昔も人気があり、どのように京料理は洗練されていったのか。そうした視点で観察するだけでも、自分の仕事に活かせるヒントが得られるはずだ。