〈食を制す者、ビジネスを制す〉
出張の移動時間の過ごし方
先日、出張で秋田に行ってきた。東京駅から新幹線で約4時間。最初は飛行機で行こうと思ったが、ときには旅情に浸りながら観光気分を味わいたいと新幹線を選んだ。平日、午前9時台の秋田新幹線はやはり空いていて、乗り込んだ車両にはスーツ姿のビジネスパーソンが少し。あとは70代前後の男女グループがビールを飲みながら、大きな声で話をしている。
私はいつものように東京駅で購入した崎陽軒のシウマイ弁当を平らげたあと、新聞と週刊誌を読む。この時間が何とも楽しくてならない。新聞は『日経』と『朝日』。週刊誌は曜日によって違うが、購入比率が高いのは、『週刊文春』、『週刊新潮』、『ニューズウィーク』。または『週刊東洋経済』、『週刊ダイヤモンド』、『日経ビジネス』のいずれかになる。
それらを読み終われば、次に文庫か新書に移る。単行本は荷物になるので、できるかぎり文庫か新書にしている。こちらは今読んでいる途中の本を持ち込むことが多いが、乗る前に駅の書店で買うこともある。いつも持ち込むのはだいたい3冊くらい。それだけ読むものがあると、とりあえず安心する。
最近は池波正太郎の『剣客商売』と『仕掛人・藤枝梅安』シリーズを再読している。仕事で疲れているのかもしれない。そんなとき、なぜかこのシリーズを読みたくなるのだ。池波の小説世界は考えながら読むというよりも、池波の語りを心地良く聴きながら物語の展開を楽しむといった感じ。そのうち時間を忘れ、いつのまにかリラックスしている自分を見つけるのだ。
そのうち秋田新幹線は盛岡から進路を変えて、秋田方面へとゆっくりと走る。在来線を走るため、スピードは各駅停車並みの速度しか出さない。車窓からは豊かな自然が目の前に迫ってきて、気分がリフレッシュされる。
秋田で稲庭うどんを食べるなら
秋田駅には午後1時頃、着いた。ここからは仕事。時間にして約2時間。そして帰りの新幹線の時間は午後4時過ぎ。時計を見ると今は午後3時だ。残りの時間は1時間しかない。そのため、駅の近くで時間を潰すことにする。時間も中途半端なので、駅近くの商店街を歩くが、目ぼしい店を発見できない。結局、駅に戻り、駅ビルの中にあるレストランで食事をすることにした。いろいろ店を眺めたあげく、その日は暑く、歩いて喉も渇いていたので、生ビールを飲んで、少し軽い食事ということで、秋田名物の稲庭うどんを選ぶことにした。
稲庭うどんは東京でもときどき食べる。だいたいが居酒屋で飲んだ後に、〆の食事として選ぶことが多い。でも、本場の秋田ならば、いつも食べる稲庭うどんと少し違うのではないかとの期待もあって選んだのである。
選んだお店は稲庭うどんの名店「佐藤養助」。秋田を代表する稲庭うどんのブランドだ。基本的には稲庭うどんの麺の販売をしているが、飲食店も多く手掛けている。稲庭うどんでは、ほかにも寛文五年堂などが地元では有名だ。
注文したのは、定番メニューの「二味せいろ」。ザルにのった冷たい稲庭うどんを醤油ダレとゴマダレでいただくものだ。これに生ビールと炊き込みごはんを追加した。まずは生ビールを一口。やはり仕事の後のビールはうまい!
そうやってビールで落ち着きながら、調子を整えていると、しばらくして「二味せいろ」が出てくる。最初は醤油ダレということで、麺をつゆに浸けようとするが、いつも自分が食べる稲庭うどんよりも麺が長く感じられる。つゆをしっかり浸けて、ズルズルと勢いよく口の中に運ぶ。「ああ、気持ちがいい!」。そう声が出そうになるくらいうまい。麺の輪郭がしっかりあって、ツルツル。のど越しは抜群だ。ゴマダレもあるので、いくら食べても飽きがこない。それに炊き込みごはんが合う。滞在時間は30分程度だったが、秋田に来た甲斐があったと思える時間を過ごすことができた。