〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

ナビゲーター

岡本のぞみ

ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

記念日デートが叶う、銀座の小さなイタリアン

テーブルのみ16席の小さなイタリアン

東銀座周辺は人気の高い小さなレストランが多く集まるエリア。気軽に立ち寄れる店が多い中、くつろぎの雰囲気で記念日や日常のデートで使える貴重な一軒が「ラ・ボッテガイア」。実際、店を訪れるのは落ち着いた大人世代の客層。また『ミシュランガイド東京2023』ではビブグルマンに選出されたことから欧米人の訪日客を見かけることもある。

左からオーナーソムリエの青池隆明さん、シェフの野崎裕太さん

ラ・ボッテガイアのオーナーソムリエ青池隆明さんは、料理の道を志し脱サラして、渡伊。トスカーナ州・ルッカのレストランでコックの修業をしていたが、イタリアワインに魅せられてソムリエの資格を取得。現地で出会った料理人とともに銀座でレストランをオープンした。

ラ・ボッテガイアは、2020年9月からディナーのみの提供でリニューアル。コース(6品8,500円)、アラカルトともに産地直送の旬の素材と青池さんがイタリアで惚れ込んだ自然派ワインが提供されている。フレンチも経験したシェフの野崎裕太さんは、素材をシンプルに調理することもあればクリエイティビティを発揮することもある。いずれにせよそのバランスを考え、必ず絶品の料理に仕上げられている。円熟期を迎えたシェフだからなせるホスピタリティが光る味わいだ。

鰆の炙り✕完熟白ワイン

「和歌山 鰆の炙り 柚子とカブのマリネ」2皿2,400円(写真は1皿分)

旬の魚を使った前菜は日々5〜6種類用意されている。「和歌山 鰆の炙り 柚子とカブのマリネ」は、脂がのり始めた鰆を使った一皿。軽く炙って半生状態の鰆は厚く切られているため、食べごたえがあるが、柚子とカブのマリネが口をさっぱりさせてくれる。

ニフォ・サッラポキエッロのファランギーナ・デル・サンニオ・ヴェンデミア・タルディーヴァ “アレンタ” 2020(グラス1,300円、ボトル7,500円)

鰆に合わせたいのは、イタリア・カンパーニャ州の白ワイン。「色の濃さでわかるとおり、遅摘みして完熟したブドウを使っています。南国系のボリューム感のあるワインが脂ののった鰆にぴったりで、発酵時に樽を使っているニュアンスも炙った鰆によく合いますね」と青池さん。ワインに柑橘の香りもあり、付け合わせの柚子の風味にもマッチしていた。

リードヴォーのマルサラ風味✕果実味ロゼワイン

「フランス リードヴォー(仔牛胸腺)とポルチーニのマルサラ酒とセージ」2皿3,600円(写真は1皿分)

前菜は肉を使った料理もあり、秋のおすすめは「フランス リードヴォー(仔牛胸腺)とポルチーニのマルサラ風」。リードヴォーとポルチーニをマルサラとバターで風味づけされた一皿。見た目は地味だが、旨みが凝縮されており、かなりワインを誘う味わいになっていた。

トッレ・ディ・ベアティのローザ・ローゼ チェラスオーロ2021(グラス1,200円、ボトル7,000円)

リードヴォーにペアリングしてもらったのは、アブルッツォ州のロゼワイン。2019年にイタリアのガンベロ・ロッソ誌で最高評価トレ・ビッキエーリを受賞している。「色の濃さでわかるとおり、果実味やアルコール度も高いですが味わいがシャープで、お肉にも合います」と青池さん。ボリューム感がマッチしていつつ、旨みの強い肉料理をきれいにしてくる組み合わせだった。

蝦夷鹿のロースト✕エレガント赤ワイン

「北海道 蝦夷鹿のロースト 八ヶ岳の根菜 トリュフ」2皿5,200円(写真は1皿分)

この時期のメインのおすすめは季節を表現した一皿。「おいしくなってきた蝦夷鹿をローストして、ポルト酒とシェリービネガーのソースでクラシックに仕立てています。八ヶ岳の根菜やトリュフで秋らしさを感じてください」と野崎シェフ。トリュフの香りが鼻孔をくすぐり秋の味覚として満喫できるだろう。

ラルコのロッソ・デル・ヴェロネーゼ2019(グラス1,300円、ボトル7,500円)

蝦夷鹿のローストには、イタリア・ヴェネト州の人気生産者ラルコの赤ワイン。「クセの少ない鹿には、果実味があってタンニンが控えめでエレガントなこちらのワインがおすすめです。トリュフの繊細な風味にも寄り添えるバランスがちょうどいいですね」と青池さん。タンニンのニュアンスは少ないが余韻は長く、秋の味わいを深めてくれるマリアージュだった。

青池さんの「私が恋した自然派ワイン」

マルヴィラのトレ・ウーヴェ2013(グラス1,350円、ボトル7,800円)

青池さんが恋したワインは、イタリア修業時代に出会った一本。

「マルヴィラとの出会いは2008年、イタリアで日本人の友人が働いていたワイナリーです。そこで飲んだワインがおいしくて自然派ワインを知るきっかけになりました。それ以来、フリウリなどを訪れて自然派ワインを追求し、帰国後に店を開いて扱うようになっています。もちろんマルヴィラはその筆頭です。コロナ禍でも来日した時は当店にも来ていただきました。

マルヴィラのワインへのこだわりは強く、物によってはしっかりとワイナリーで熟成させてからリリースされます。こちらのトレ・ウーヴェも2013年なので10年熟成。まだ白ワインのフレッシュさも残していながら、濃密さも出てきていて飲み頃です。この他、日本で扱いの少ない銘柄も当店では用意していますので、ぜひ味わってみてください」

食事に寄り添うイタリアワインをラインアップ

ラ・ボッテガイアでは、イタリアのワインを中心にアルザスやロワールなどのフランスの地方ワインも提供されている。クセの強いワインよりは食事に寄り添うワインが多く、中間色のワインはオレンジワインよりもロゼワイン推し。前菜に魚料理が多いこともあり、白ワインは充実している。赤ワインは、エレガントなサンジョヴェーゼやネレッロ・マスカレーゼが多く、女性客にもうれしいラインアップとなっている。グラスワイン15種類(1,000〜1,500円)、ボトルワイン150種類(6,500〜15,000円)。

季節感を高める幸せの料理を特別な日に

外観

ラ・ボッテガイアの料理は、旬の素材を見極めてさまざまな手法を取り入れながら、付け合わせとのハーモニーでさらに季節感をぐっと高めてくれる一皿の連続だった。それに合わせるワインもイタリアの自然の恵みを感じさせるセレクト。特別な日に幸せを届けてくれるであろうレストランだった。

※価格は税込

取材・文:岡本のぞみ(verb)
撮影:木村雅章