TOKYO HIP BAR Vol.19

藤田嗣治の猫が引き寄せた、“鰹節”カクテル

バーテンダーの枠を超えて誕生した

「旨味」入りカクテル

 

日本発祥の味覚である“UMAMI”。だし昆布の中から発見されたという旨味は、酸味・甘味・塩味・苦味に次ぐ、第5の基本味として世界で認識されるようになりました。丁寧に取られた出汁はそれだけで疲れた体を癒やしてくれるものです。一方でお酒は、健康や癒やしとは対極にあるイメージのものですが、鰹節をベースに出汁の風味をきかせたカクテルも、この日本には存在します。

 そのカクテルを提供するのは四谷の「TIGRATO(ティグラート)」。今年2月20日に新規オープンを迎えました。プロデューサーの高宮裕輔バーテンダーは、数々のカクテルコンペティションで優秀な成績を修め、バーテンダーの技術を活かして食品企画や販売まで行う、攻めのバーテンダー。カウンター以外でもバーテンダーの力を活かせる場所があるはずと、飲食に関わる各業界の専門家や、フルーツの生産者などとの交流を広げることで、新しい可能性に挑んでいます。そして、高宮さんが江戸料理研究家の方と出会ったご縁で誕生したのが、その名も「縁(えにし)」という鰹節のカクテルです。

 このカクテルを提供するために、「TIGRATO」のバックバーには立派な鰹節が鎮座します。それをカウンターで削りおろし、ウォッカに入れ、火をつけて、フランベ抽出します。梅肉やレモンジュース、シロップを合わせ、シェイクして仕上げたその味わいは、レモンや梅の酸味の奥に、ふわっと鰹節が香る、体も心も満たされる癒やしの味です。鰹節のイノシン酸、梅肉のグルタミン酸の組み合わせがUMAMIを最大限に引き出します。

 

猫好き画家と鰹節が結んだ

不思議な“縁”

 

カクテル「縁」は、高宮さんが以前オーナーを務めた練馬のお店にいた頃からのカクテルですが、この新店とも不思議な縁がありました。というのも、イタリア語で“虎猫”を意味する店名の「TIGRATO」があるのは、画家・藤田嗣治の旧居だった場所。猫と女性を得意な画題として、西洋画壇で絶大な支持を受けた藤田は、猫を愛した作家としても知られ、“捨て猫でも泥棒猫でも、拾い上げて飼っていた”といわれています。そんな猫が引き寄せたかのように、ときに鰹節が香る店内は、どこか藤田がいるようなヨーロッパのバールのような雰囲気があります。

バーでありながら、フルーツジェラートやフルーツティーも揃い、朝11時から営業するため、近隣の大学生やご近所の方も気軽に入りやすい雰囲気。ガラス張りの店内には、早い時間は気持ちよく日差しも入り、夜も美しく周辺の通りを照らします。ジェラートを片手にカクテルを飲めば、藤田の愛した猫達が静かに表を横切ってくれそうです。