〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

ナビゲーター

岡本のぞみ

ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

“渋谷でナチュール”はここから始まる

内観

渋谷の神泉、円山町、松濤エリアは、自然派ワインのトレンド発信地。「渋谷でナチュラルワインを飲む」ことは、もはや日常を楽しく過ごす新しいカルチャーの一つとなっている。そんな雰囲気を最も感じられる店が今回紹介する「CHOWCHOW(チャウチャウ)」だ。

店があるのは東急百貨店本店跡地(現在、工事中)から始まるオーチャードロード。わかりやすい場所にあり、店内にはカウンターもテーブル席も両方あるため、渋谷ナチュラルワイン地帯のデビュー店として利用しやすく、それでいて通な人にも満足度の高い品ぞろえが魅力。ガラス張りの店内のにぎやかさに惹かれて来店する人も多い人気店となっている。

左から料理長の荒井清成さん、マネージャーの山田隆未さん、スタッフの恵美滉一さん、菰田真平さん。スタッフの自然派ワイン愛と楽しげな雰囲気が店の空気をつくっている

店の中心となっているのは、料理長の荒井清成さんとマネージャーの山田隆未さん。荒井さんの働くワインバーに山田さんが訪れたのが、ふたりの出会いのきっかけ。「荒井さんの注いでくれるワインがいつもおいしくて、いつか一緒に店をやりたいと思っていました」と山田さん。実際にふたりで渋谷・並木橋にてカレー店を手掛けた後、2020年9月に念願の自然派ワインとイタリアンの店CHOWCHOWをオープンした。

CHOWCHOWのオーダースタイルはいたってカジュアル。料理は日替わりの黒板メニューを見て、ワインは山田さんに好みを伝えるだけ。山田さんはかつて赤ワインが苦手だったそうだが、自然派の薄旨系の赤ワインと出会って、お給料のほとんどをワインにつぎ込むほどのめり込んだそう。そんな経験もあって、ワイン好きな人はもちろん、苦手なタイプがある人にフィットしたワインを選ぶのが得意。メニューは、シンプルで気さくなイタリアンが並んでいる。

カツオとイチジクのカプレーゼ✕複雑オレンジワイン

「戻りカツオとイチジク、ブッラータ」2,400円

この日の冷たい前菜のおすすめは「戻りカツオとイチジク、ブッラータ」。それぞれが食べごたえのあるサイズでカットされ、イチジクの葉を漬け込んだオイルとホワイトバルサミコを和えたソースでいただく。千葉県産の大粒落花生・おおまさりの食感がアクセントになった一品だ。

ジャン・マルク・ドレイヤーのアルザス・フィニステラ(マセラシオン)2021(グラス1,450円、ボトル10,150円)

こちらにおすすめなのは、フランス・アルザス地方のさまざまな品種を混醸したオレンジワイン。「チーズと相性の良いゲヴェルツトラミネール、カツオの血のニュアンスをだし汁のニュアンスでまとめてくれるピノ・オーセロワ、魚介のミネラル感に合うリースリングなどが入っているため、それぞれの品種が複雑な構成の料理に寄り添ってくれます」と山田さん。ワインがバランスよく全体をまとめつつ、最後に深いコクや苦みを残していた。

牛ハツのタリアータ✕やさしいロゼワイン

「牛ハツのタリアータ、山わさびと魚醤」(2,200円)

CHOWCHOWでは「牛ハツのカルパッチョ」など牛の内臓を使った料理が人気となっている。これからの季節に食べたいのが「牛ハツのタリアータ、山わさびと魚醤」。国産牛の新鮮なハツを塊のままサッと炭火であぶって、中身がレアなままいただける一皿。レアな食感の赤身に、炭火とチーズにあるコクと香りが重なる味わい。シンプルな料理ながら後味に山わさびの香ばしい苦みがあって、良いアクセントとして利いていた。

ピエール・オリヴィエ・ボノームのヴァンクゥール・ヴァンキュ・ロゼ2022(グラス1,050円、ボトル7,350円)

こちらに合わせたいのは、フランス・ロワール地方のロゼワイン。「色の合わせ方も楽しんでほしくて、肉料理ですがロゼワインにしました。色は淡いですが、甘みを感じるくらい果実味と香りがしっかりあるので、お肉にも合います」と山田さん。肉前菜を軽やかにしてくれて、ハツのタリアータがパクパクと進むコンビネーション。おしゃべりも楽しくはずんでいきそうな組み合わせだった。

鹿の炭火焼き✕ワイルド赤ワイン

エゾ鹿 炭火焼(4,300円)

4〜5種類ある肉料理はどれも200gとボリュームたっぷり。「エゾ鹿 炭火焼」も100gずつカットして提供されている。「赤ワインソースには、バターやフォンドヴォーを使わず、モストコットというブドウの搾り汁を濃縮させたものを使っています。そのため、エゾ鹿を甘酸っぱいソースで味わっていただけます」と荒井シェフ。

ケヴィン・アンリのルー・ガルージュ2019(グラス1,000円、ボトル7,000円)

一緒にいただいたのは、フランス・ロワール地方のガメイ。「ガメイというとチャーミングなイメージがあると思いますが、こちらのワインは果実味に鉄分のワイルドさがあるタイプ。血のニュアンスがあるエゾ鹿とぴったりです」と山田さん。エゾ鹿の滋味深い味を重たくせずに引き立てる自然派ワインならではのマリアージュとなっていた。

山田さんの「私が恋した自然派ワイン」

ジャン・フォワヤールのモルゴン・コート・ド・ピュイ2019(グラス1,300円、ボトル1,500ml 18,200円)

マネージャーの山田さんが恋した自然派ワインは、初めて会った生産者の一本だそう。

「もともと赤ワインは苦手だったのですが、ボージョレーの淡い味わいの赤ワインを飲んで自然派ワインにのめり込みました。こちらのワインは、出会いのワインと同じボージョレー地区のジャン・フォワヤールという生産者のもの。なじみのワインバーで生産者が来日するメーカーズディナーがあるというので参加しました。それが初めて会ったワインの生産者で、話を聞きながらいろいろなワインを楽しめたのはいい思い出です。

こちらのモルゴン・コート・ド・ピュイは、ジャン・フォワヤールの主力畑の一つ。ボージョレーは基本的にイチゴのようなジューシーで甘酸っぱいワインが多いですが、こちらはそれとは一線を画す味。集中力があって、熟成するとピノ・ノワールのようになります。きめ細かくて余韻が長いエレガントな味になる素晴らしいポテンシャルのワインです」

さまざまな切り口でワインを豊富にラインアップ

CHOWCHOWには、店の奥に倉庫のようなセラースペースがあり、500種類ものボトル(7,000〜10,500円)が用意されている。山田さんがワインを選ぶ切り口はたくさんあり、ずっと追い続けている生産者のもの、常連の顔が浮かぶ彼らが好きなワイン、コストパフォーマンスの良いワインなどさまざま。そのため、初心者にも通の人にも必ずフィットする世界の自然派ワインがそろっている。グラスも毎日15種類(1,000〜1,500円)開いているので、いろいろなタイプにチャレンジしてみよう。

気軽にワイワイガヤガヤした楽しさの中へ

外観

CHOWCHOWの入口は、ネオンとワイン樽の外飲みカウンターが目印。店内にはいつも陽気で気さくな雰囲気とおいしい自然派ワインがある。渋谷の楽しいナチュラルワインカルチャーを体感したいと思ったら、気軽に足を踏み入れてみよう。

※価格はすべて税込

取材・文:岡本のぞみ(verb)
撮影:八木竜馬