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〈自然派ワインに恋して〉
シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。
ナビゲーター
岡本のぞみ
ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。
ワンちゃんと40種類のグラスワインがお出迎え
神楽坂はメインストリートである神楽坂通りとその路地裏を中心ににぎわいを見せるが、この数年は江戸川橋や牛込方面にも大人が使える良店が広がっている。「神楽坂ワインスタンド et du vin(エデュヴァン)」も江戸川橋方面の赤城神社の裏手の坂道に2024年2月にオープンした。扉を開けると、柵があり、ワンちゃんたちが出迎えてくれるのがうれしいサプライズ。
実はこちら、昼間は犬の保育園として営業。20〜21時くらいまでは主人の迎えを待つワンちゃんがくつろいでいるのだ。もちろんそれはおまけでエデュヴァンはワインバーとしても本格的。約40種類のグラスワインから好みの一本を店主の松田祐也さんが選んでくれる。松田さんは20年間飲食業界で活躍してきたシニアソムリエ。ここ数年は、一人ひとりにワインを届けるワインフィッターとして活動してきた。その中で、とりわけ自然派ワインを多く扱っている。
「自然派ワインには個性があります。産地の特性というより生産者の思いがでやすく、ストーリーもある。一期一会なところがあるのもいいですね」と松田さん。対話の中でたくさんの種類の中から好みのワインを見つけられるようになっている。料理は松田さんの父が作る金沢「ビストロエピス」の赤ワイン煮込みや神楽坂「アルパージュ」のチーズが取り寄せられており、ワインバーながら本格的な料理が手軽に食べられるようになっている。
チーズ盛り合わせ✕やさしい赤ワイン
まずは何かつまみたいというときのおすすめは、チーズ。毎週、神楽坂のチーズ専門店「アルパージュ」から届く5〜6種類のチーズが用意されている。ウォッシュタイプやハードタイプなどいろいろな種類があって、ワインに合わせて選ぶことも、好みのタイプを選ぶこともできる。この日はブリー・ド・モーとマール・ド・ゲヴュルツトラミネエールの2種類の白カビチーズを選んでもらった。
「フランスのチーズですが、おすすめは日本ワインです」とすすめてもらったのは、長野・みね乃蔵の赤ワイン。「長野の冷涼な地域で造られているので、ブルゴーニュと言われても遜色ない味です。むしろ最近のブルゴーニュは温暖化の影響で酸が落ちているので、いまのブルゴーニュよりも洗練されているかもしれません。軽やかで柔らかな味わいがクセのおだやかな白カビチーズにぴったりです」と松田さん。日本ワインを飲まない人にこそ飲んでほしい。
牛タン赤ワイン煮込み✕フレッシュ赤ワイン
エデュヴァンでは松田さんの父が営む「ビストロエピス」の本格フレンチがいただける。松田さんの父は吉祥寺でフレンチレストランを営み、金沢に移住後に「ビストロエピス」を開店。料理人歴50年のベテランシェフだ。店には豚肉のリエットや砂肝のコンフィなどが直送されているが、おすすめは名物料理の「角切り牛タンの赤ワイン煮込み」。たっぷりの野菜や牛骨とともにとられたブイヨンで何時間も煮込まれた牛タンは味わい深く、柔らかい。
牛タンの赤ワイン煮込みは、スペインのフレッシュな赤ワインで合わせるのがエデュヴァン流。「こちらはカベルネ・フランという軽めから中間くらいのボディの赤ワインです。スペインではレゼルバ(数年以上は熟成させてからリリースすること)が重視されますが、こちらの赤ワインはフレッシュ。青めな香りとタンニンがあります。しっかりした肉料理をフルーティーにしてくれつつ、タンニンで引き締めてくれます」と松田さん自慢のペアリングを解説してくれた。
チーズペンネ✕香り豊かな赤ワイン
締めもしっかり食べたい人には「ペンネのゴルゴンゾーラクリーム」がある。ショートパスタはワインのおともにも〆にもなるのがうれしい。ゴルゴンゾーラと生クリームを使ったパスタが赤ワインに合わないはずがない。“おつまみショートパスタ”とあるが量もしっかり1人前ある。
チーズペンネにおすすめしてもらったのは、イタリア・ウンブリア州のサンジョヴェーゼとサグランティーノの赤ワイン。「濃厚なしっかりした品種主体の赤ワインです。煮詰めたような味わいに、少しだけスパイスのニュアンスあります。2020年のヴィンテージなので、4年経って角もとれはじめています。バニラの甘い香りと酸もあるのがチーズにぴったりです」と松田さん。ややクセのあるチーズパスタをバニラやスパイスの香りで楽しませてくれる組み合わせだった。
松田さんの「私が恋した自然派ワイン」
松田さんが恋したワインは、松田さんの法人と同じ名前の一本。
「南フランス・ラングドックのサンソーを使った赤ワインです。僕の会社名と同じ名前のワインで、フランス語で“ありのまま”という意味です。僕自身、ワインは、飲んで感じたままでいいじゃん?と思っています。自分と同じ気持ちで造られたワインがあるとして気に入っています。
実際にこの生産者はブドウのできが良いですし、それをそのままワインで表現したいとして、搾ってろ過せずにワインが造られています。味わいは、サンソーのブドウを搾ったままのようなフレッシュさが特徴です。果実味がパッときてフルーティーだけれど、後味のうまみもしっかり感じられる楽しいワインです」
バラエティに富んだ自然派ワインをラインアップ
エデュヴァンでは、カウンターに並んでいる常時40種類のワインから松田さんが好みを判別してセレクトしてくれる。並ぶワインはブドウの品種やタイプや味のバランスがかぶらないようになっており、地域もエリアもいろいろ。ヨーロッパはもちろん、日本、オーストラリア、ニュージーランドも揃っている。さらに松田さんが年間1,000種類くらい試飲して、いまのワインのトレンドや飲んでほしいと思うものが用意されているのが頼もしい。グラスワインは30mlと90mlが用意され(価格目安90ml 880〜1,450円)、ボトルも40種類(5,000〜8,000円)ある。
自分にピッタリのワインで癒やされたい夜に
エデュヴァンは目の前に並んだワインから選んでもらえる楽しさ、神楽坂の名店や金沢のビストロから届く逸品メニューの揃ったワインバーだった。ワンちゃんが出迎えてくれるのもちょっとした幸せ。自分にぴったりのワインで疲れを癒やしたい夜は、赤城神社の裏にある坂を下ってみよう。
※価格は税込