代々木上原に生まれた新しい風

Ukiyo内観
ライブ感を生み出す効果もあるバーカウンター。

隠れた名店や個性豊かな店が点在する街、代々木上原。新しいことに敏感なグルマンが注目する街のひとつと言える。「Ukiyo」は、そんな街で7月に新しくオープンしたレストランだ。

イノベーティブなレストランとして注目を集め続けている目黒の「Kabi」でソムリエを担当していた竹内直人さんがオーナーを、その姉妹店である兜町の「caveman」から独立した新井・赤間・トシさんがシェフを務めている「Ukiyo」。カジュアルなスタイルから、洗練されたワンランク上のスタイルを演出し、グランメゾンなどにも行き慣れた大人も楽しめる空間となっている。

宝石のような甘海老の前菜

Ukiyoコース料理の前菜
コース最初の「甘海老」。黒の皿に甘海老と唐辛子の赤が映える。

「Ukiyo」のコースは、季節に合わせて1~2カ月ほどで大きく内容を変えるが、細かなメニューはその日に届く食材によって随時変わる。

例えば、コースの最初を彩る前菜の「甘海老」は、少し前までは「雲丹」だった。シェフのトシさん曰く「すごく良いものが手に入ったから絶対にこっちだと思って、当初に予定していた甘海老から変えた」とのこと。
取材時には再び良質な甘海老が入手できたことから、ひよこ豆のケーキの上に生姜のソースをのせて甘海老と赤唐辛子を盛った冷菜に仕立てた。

Ukiyoコース料理の前菜 甘海老
ふわりと鼻に抜けるのは、生姜の風味。海老の下には生姜のソースが隠れている。

一口サイズの美しい冷菜は、海老の甘さにひよこ豆のケーキの香ばしさ、中に隠された生姜のさわやかな風味がアクセントとなっている。さらに唐辛子のシャキッとした食感が、やわらかな海老とのコントラストを楽しませてくれる。

なお、この唐辛子。氷水にさらして辛みを抜いているためまったく辛くない。たっぷりと盛られているのに辛みはなく、むしろ清々しい青さが口内に広がって海老の甘さを引き立てていた。

華やかなパッションベリーのソースが決め手

Ukiyoコース料理 鱸
左上からスズキ、スパイスのソース、白ナス。

コースはおおよそ10~11品。一皿ごとにテーマとなる食材が設定されたコース構成となっており、取材時は「甘海老」から始まり「唐辛子」「勘八」などと続く。

ここしばらくはスズキがおいしいとのことで、4皿目には脂ののったスズキと白ナスにスパイスのソースが添えられた一品が提供された。

皿の中央にあるのはパッションベリーのソース。魚でとった出汁にパッションフルーツのようなトロピカルな香りと山椒を思わせる香気が合わさったスパイスをふんだんに使っており、炭火でふんわりと仕上げたスズキのうまみを引き出している。

付け合わせも絶品だ。白ナスは、まるでコンフィのようだが、実は炭火の遠火でじっくり焼いたシンプルな調理。ナス自らの水分で蒸され、いぶされているため、弾力ある食感を残しながらもやわらかくナスのうまみをたっぷりと味わうことができる。新鮮で瑞々しいナスだからこその一品だろう。

コースで振る舞われる数々のスパイスたち

Ukiyoのスパイス
こだわりは、フレッシュなスパイスを使うこと。

「Ukiyo」の料理を語るのに欠かせないのがスパイスだ。シェフのトシさんは、ロンドンにある西アフリカ料理の店「Ikoyi(イコイ)」でスパイスの魅力と奥深さにハマり、これまでにもスパイスを扱ってきたが「Ukiyo」ではさらにその扱いが進化している。

日本でも認知度の高いクミンやターメリックといったスパイスは、どうしてもアジアンテイストやインド料理といったイメージが強い。しかしシェフが扱うのは「鱸(スズキ)」で活用されたパッションベリーや、コースの色々な料理に使われている胡椒に似たセリムグレインといったアフリカで親しまれているスパイスが多い。

そして、素材の臭み消しやうまみを引き出すアクセントとして活用されることの多いスパイスを、ソースという形で表現する。ソースもまた食材を引き立てるアイテムではあるが、ここまでスパイスそのものを上手に取り入れるソースもそうそうないだろう。スパイスの新たな楽しみ方だ。