【噂の新店】名だたるフレンチの名店で研鑽を積んだシェフが、フランス料理に本気で向き合う「SeRieUX?」(セリュー)

世界的な美食都市“東京”——。その中でも、ひときわグローバルな食のるつぼと言えば、やはり六本木だろうか。食の時流に先んじたさまざまなスタイルのレストランがひしめく中、また一つ、フレンチの新店がオープンした。その名も「SeRieUX?」。フランス語で“本気”を意味する店名の同店を託されたのは、フレンチ一筋20年余の大塚哲郎シェフだ。

乃木坂駅から歩くこと3分ほど、六本木駅からも歩いて4〜5分ほど、東京ミッドタウン西の交差点の角を曲がると、ひときわ目立つスタイリッシュな建物が目に入る。扉を開ければ、外観とリンクするかのようなモダンな空間が出迎えてくれる。大きくとったコの字形のカウンターを配した店内は、天井も高く広々として開放感あふれる雰囲気だ。

「カウンターでの仕事は初めてなので、最初は緊張しましたが、お客様と直に向き合えるのが新鮮で、今は楽しんでいます。料理への反応がダイレクトに感じられるカウンターは張り合いもありますね」と語る大塚シェフは、六本木の「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」でキャリアをスタート。その後、「ピエール・ガニェール」「ランベリー」、そして、銀座「ティエリーマルクス」に「ラルジャン」とガストロノミック系のレストラン畑を歩いてきた手練れだ。途中、29歳で「本場を肌で感じたい」と渡仏。ブルターニュの「パトリック・ジェフロワ」で1年間研鑽を積んだ経歴を持つ。

大塚哲郎シェフ

ガニェール氏の感性の豊かさに刺激を受け、ブルターニュの田舎暮らしでは現地ならではの食材や食べ方に触れ、「ランベリー」の岸本直人シェフからは和の食材について教わったという大塚シェフ。ここでは、それらの経験を生かし、新たな“東京発信のモダンフレンチ”を提唱しようとしている。

ディナーのコース(12,100円)は3種のアミューズから始まる。その一つが「そばのアイスクリーム」。ガレットでも知られるブルターニュの伝統的な特産品の一つ“そば”を使った一品だ。

使用するそばは、山形産の出羽かおり

そば=日本のイメージが強いが、ブルターニュでのそばの歴史も古く、今を遡ること約600年前、15世紀まで遡る。当時、土地が痩せていたブルターニュ地方は小麦粉など穀類の栽培は難しく、そのため貧困にあえぐ農民達が多かった。それをおもんぱかり、時のブルターニュ女公アンヌ・ド・ブルターニュが、十字軍によってもたらされたそばの栽培を奨励したのがことの始まり。それにより、そばはブルターニュの食文化に深く根ざすようになったわけだ。

「そばのアイスクリーム」

日本でおなじみのそばにフランスという意外な場所で出合い、日本とはまた違うそば文化に触れた大塚シェフ、どこか心に残るものがあったのだろう。ここでは、自らのシグネチャーな食材として「メニューのどこかに必ずそばの料理を入れていきたいと思っている」そうで、写真のそれは“そばのアイスクリーム”。といっても、いきなりデザート!というわけではない。そばの実を殻つきのまま牛乳で炊き、そばの風味を移してアイスクリームに仕立てているのだ。

口にすれば、ほのかな甘みの中、塩気とそばの風味がほんのりと広がり、後を追うかのごとくわさびの辛味が清涼感を誘う。甘みと塩味はフレンチの常套だが、そこに爽やかな辛味が加わることで味わいの奥行きが更に深まるよう。添えてあるのはシガレット状に焼いたそばのガレット。中にはカマンベールを忍ばせている。ちなみに、そばは山形産出羽かおり。香り高く優しい甘みのあるそばだ。

山口県 マナガツオ ブールブランソース

続いて、静岡産ミナミマグロをわらであぶり柚子コショウを添えた一品やハマグリと磯つぶ貝の料理、リドヴォーが出た後、メインの魚料理の登場となる。前菜までは、おしゃれで意外性のあるイマドキのモダンフレンチ系の皿が続いてきたが、クライマックスになってぐっとクラシック寄りにシフトした料理がお目見え。フライパンでポワレしたマナガツオに、大塚シェフが目の前でかけたのは、80年代フレンチさながらのブールブランソース。バターと白ワインがベースの古典的なソースだ。

大塚シェフいわく「何を食べたかしっかりと印象に残るようにメインの魚料理と肉料理は、あえて伝統的なソースを使った皿にしています」とのこと。とはいえ、そこは現代。昔ながらのセオリーは守りつつも、バターの量を控えめにしたり、生クリームの代わりにあさりだしを僅かに加えたりすることで旨味を足すなど濃厚でありながら、軽やかなおいしさを目指している。それは、次の仔羊料理も同様。

シストロン 仔羊 ペリグーソース

わらの香りと共にストウブの鍋に閉じこめて運んできたのは、緻密できれいな味わいのシストロン産の仔羊。これには、ジュ・ド・ヴォーとマデラ酒がべースのソースにトリュフのジュを加えたソースペリグーを合わせ、味に深みを持たせている。軽やかさと重厚感。この相反する2つの味わいを、日本の食材に寄り添うことで、その豊かな経験値からひもとき編み出す大塚フレンチ。新たな挑戦に期待したい。

そして、もう一つ、特筆すべきはグランメゾン出身の支配人兼ソムリエである小倉さんのワインセレクト。ロマネコンティの共同経営者であったオベール・ド・ヴィレーヌと伝説のブドウ栽培家ラリー・ハイドのコラボレーションによるカリフォルニアワイン「ハイド・ド・ヴィレーヌ」をマナガツオの一皿に合わせるなどペアリングも絶妙。物腰柔らかなサービスと共にガストロノミックな料理を引き立ててくれる。

ペアリングもあり、シャンパーニュプラス6種で11,000円。1杯の量が少なめのペアリングも6,600円から用意されている。ちなみに料理も8,800円のショートコースもある。

※価格はすべて税込、サービス料別

撮影:佐藤潮

取材:森脇慶子

文:森脇慶子、食べログマガジン編集部