開封期限20秒の「燻製ポテトチップス」に、日本酒を誘う「鮎のコンフィ」

割烹エリアでは、季節に応じて変わる料理(10品前後)と日本酒のペアリングコースを12,000円で味わえる。しかもこの価格には日本酒だけでなく、ビールやサワーなどほかの飲み物も含まれており、実質飲み放題というのだから驚く。もちろん料理に合わせて燗もつけてくれる。

 

山本さん

一皿一皿メニューが凝っていて、気の利いた料理がけっこうな品数用意されていて日本酒ごとに合わせて楽しめるのがいいですね。

コースのレギュラーメンバーである「燻製のポテトチップス」は「つまみとしても最高で、食べはじめるとなかなか止まらないです」と山本さんも太鼓判を押す一品だ。袋のラベルには「開封期限は20秒」とある。急いで袋を開けると中からスモークが立ち上り、ポテトチップスが現れた。この日のポテトチップスには男爵芋を使用しており、スライスして素揚げし、塩や野菜を乾燥させたパウダーで味付け。桜のチップだけではしつこい薫香になってしまうということで、一旦ポテトチップスをりんごのチップで燻製して封を閉じ、提供前に桜のチップで燻製を施している。スモークが視覚と嗅覚を刺激する、野菜の滋味で味付けされたサクサクのポテトチップスは、手が止まらないおいしさと遊び心で溢れている。

コンセプトの「和魂洋才」を体現している料理の一つが「鮎のコンフィ」だ。グループ店舗のイタリアンシェフにアイディアをもらい考案したという一品で、鮎にほんのりニンニクを利かせ、101℃で4時間ほど油を使い煮込んでいる。赤いソースは、スイカとスダチを合わせ、アップルビネガーを加えたもの。頭から尻尾、骨まで食べられるほどやわらかく煮込まれ、ほろ苦い肝の味わいが日本酒を誘う。

「鮎のコンフィ」に合わせてもらったのは、福島県にある大木代吉本店の「自然郷 SEVEN 純米吟醸」。脂身が少なく、うま味の主張も強すぎない鮎に寄り添うよう、パンチが強い酒ではなく速醸ですっきりと飲みやすいものを合わせてくれた。乳酸感と微発泡感もあり、優しい酸味のスイカソースと相性が良い。

ネタごとに薬味が異なるお造りに、尾崎牛の炭火焼き、季節感満載の土鍋ご飯

築地の魚屋に勤めていた佐々木料理長が在籍していることから、同店は魚の目利きにすぐれ、魚料理へのこだわりも強い。お造りも「ただ醤油で食べるだけだと芸がないから」とネタごとに異なる食べ方を提案している。

例えばサワラは脱水して皮目を炙り、実山椒の醤油漬けをトッピングしており、プチプチと弾ける実山椒の食感と、口の中でゆっくり混ざり合い舌に残る清涼感が印象的だ。カサゴは脱水し、醤油に漬け込んだ新玉ねぎのすりおろしをのせていて、醤油よりも優しいタッチで味がネタと馴染んでいく。隠し包丁を入れたアオリイカには藻塩を振りかけ、スダチを搾っている。ねっとり甘いアオリイカの後からスダチが香り、涼やかだ。ちなみに添えてあるフワフワの削りたてワサビは西伊豆町のもの。

コースのメインを張るのは、入手困難なブランド牛で有名な尾崎牛の炭火焼きだ。どの部位が出てくるかはその日のお楽しみ。この日はシンタマというモモ肉の希少部位を使用。モンゴルの岩塩で下味をつけ、低温調理器で50℃まで一旦温める。その後塊肉のまま一気に強火の炭火で表面を焼き、肉を休め、やわらかくなるよう中心温度を気にしながら火入れを施す。肉を常温に戻してから焼くというのは一般的だが、常温ではなく50℃までゆっくりと温度を上げてから火入れすることで、尾崎牛ならではのやわらかい肉質を最大限引き出している。添えてある自家製のマスタードやワサビをお好みでつけて食べることで、赤身ながらもミルキーな尾崎牛のうま味が引き立つ。

尾崎牛に合わせてもらったのは、石川県にある御祖酒造の「遊歩のあか 山おろし 純米吟醸 無濾過生原酒」。山下氏いわく「バーベキューのような香り、焼いた肉が焦げたような風味を感じる」そうで、夏にぴったりなうま味も酸味もしっかり感じられる一杯が尾崎牛とマッチする。

コースを締めるのは、季節の食材を使った土鍋ご飯だ。訪れた日は、トウモロコシの黄色と枝豆の緑、毛蟹の赤と白がなんとも美しい色合いで、夏の味覚満載な土鍋ご飯が登場した。

米は、小椋氏の出身地でもある、岐阜県恵那産のコシヒカリを使用。日本穀物検定協会による食味ランキングで、2年連続最高ランクの特Aを認定された、なかなか手に入らない品種だ。この恵那産のコシヒカリを昆布だし、鯛のアラ、薄口醤油とみりんで味付けして生のトウモロコシをのせ、土鍋で炊き上げる。別途固茹でした枝豆と毛蟹を最後にトッピングし、混ぜ合わせたら完成だ。

トウモロコシはゴールドラッシュという品種で、色艶や粒立ちが良く、口の中でシャキシャキと弾けるジューシーでフルーティーな味わいが魅惑的だ。そこに毛蟹のうま味と塩味、枝豆のホクホクとした食感と青さを伴う味わいがアクセントになっている。

調理はシンプルだが、食材の組み合わせの妙が生み出す実直な味わいに、しみじみと満たされる「角打ち割烹 三才」。プロがペアリングする日本酒が飲み放題という太っ腹なコースからは「思う存分、酒とごはんを楽しんでほしい」という気概を感じる。「青二才」から「三才」へと成長した、飲食店の進化も体感してほしい。

※価格は税込・サービス料別。

撮影:佐藤潮
文:中森りほ、食べログマガジン編集部