〈今夜の自腹飯〉

予算内でおいしいものが食べたい!
食材の高騰などで、外食の価格は年々あがっている。一人30,000円以上の寿司やフレンチもどんどん増えているが、毎月行くのは厳しい。デートや仲間の集まりで「おいしいものを食べたいとき」に使える、ハイコスパなお店とは?

教えてくれる人

森脇慶子

「dancyu」や女性誌、グルメサイトなどで広く活躍するフードライター。感動の一皿との出合いを求めて、取材はもちろんプライベートでも食べ歩きを欠かさない。特に食指が動く料理はスープ。著書に「東京最高のレストラン(共著)」(ぴあ)、「行列レストランのまかないレシピ」(ぴあ)ほか。

普段使いの和食を求めるなら、上質な居酒屋という選択肢を

ここ数年、和食店の高騰ぶりは凄まじい。当節、新規のオープン店でも2万、3万は当たり前。名店、人気店ともなれば片手は必定。お酒を嗜めば、両手を超える店も少なくない。まさに、“和食は遠くなりにけり”といった感のある今日この頃だが、もっと気軽に和食を食べたい時には「居酒屋」という術がある。そう、何も割烹料理店だけが和食店というわけではない。普段使いで行くのなら、上質な居酒屋の方がかえって気取りなく楽しめるというものだ。

そんな時に覚えておきたい一軒がここ。今年の6月にオープンした目黒「それがし」だ。2011年開店の五反田「酒場それがし」、2014年開店の恵比寿「それがし」に続く3店舗目となる。オーナーの尾山淳さん曰く「居酒屋としては9年ぶりに手がけた同店では、カウンター席をメインに、より落ち着いた大人の空間をイメージしました。料理も、新たに炭火焼きを取り入れ、また、太巻きを看板メニューに加えています」とのこと。

なるほど、ベージュとグレーを基調としたスタイリッシュな店内は、駅前ビルの2階、昔ながらの飲食街という立地を忘れさせるよう。ずっしりとした扉を開けば、日々の疲れを癒やしてくれる気軽な美味と美酒が待っている。

メンチカツにポテサラ。一捻りを加えた定番メニューは気の利いた値段設定もうれしい!

まずは「山椒ジントニック」770円で喉を潤しつつ、「それがし」定番の「特製メンチカツ」990円と「三代目ポテトサラダ」770円を注文。どちらも、どこにでもある料理だが、同店のそれは、さりげないアレンジが秀逸だ。

例えば、ポテサラ。半熟気味の茹で卵が目を引くビジュアルもさることながら、マグロの酒盗を加えたドレッシングがお馴染みの味を一捻り。日本酒が似合う乙なアテとなっている。一方、メンチカツは、ジューシーさと余韻の深さを追求した結果、赤ワインで煮込んだ挽肉と生の挽肉を半々で合わせるという手間のかけようだ。

そして、特筆すべきはその値頃感。「メニューにもよりますが、料理はだいたいお2人でシェアできる量にしています」と尾山さん。というわけで、上の写真の料理はいずれも半量。1人の場合は、可能な料理はすべて半分の量にしてくれるうえ料金も半額!というのも良心的だ。半量とはいえ、1人で食べるには充分。これなら、おひとりさまでもアラカルトでいろいろ楽しめるはず。

東京ではなかなか味わえない「淡海地鶏」にもありつける

「にら玉」880円、「鯖フライ」990円に「出汁巻き卵」990円も魅力的だが、ここは、やはり「目黒それがし」限定の炭火焼きを試してみたい。「米沢牛の炭火焼き」や「本日の鮮魚の炭火焼き」等々、どれもおいしそうだが、「淡海地鶏」の名に目が留まり、こちらに決定。

「淡海地鶏炭火焼き」2,750円

それというのも、この淡海地鶏、東京ではなかなかお目にかからない品種だからだ。もともとはフランスで作出した鶏だそうで、一般的な食用鶏の飼育日数がおよそ40〜50日なのに対し、淡海地鶏は約120日かけて飼育。癖のない脂の旨みと締まった肉質、さっぱりしていながらも濃い肉味が特徴で、とうもろこしをベースに海老粉を与えた独自の餌とストレスの無い飼育方法が美味さの所以だ。

目黒それがしでは、この淡海地鶏の腿肉を塊のまま炭火焼きで提供。淡い狐色に焼けた色合いも香ばしいそれは、パリッと薄い皮の下から溢れ出る脂が出色。美味というより綺麗な味という表現がピタリとくる透明感のある味わいだ。

その脂と共に噛み締める肉汁のおいしさと風味は、炭火で焼けばこそだろう。ボリュームも満点! 食べ応えのある一皿だ。

ご飯よりも具が多い! 新名物の「太巻き」も必食

「〆鯖と鰯の太巻き」

そしてもう一つ、新たな名物となりつつあるのが、太巻き。「本マグロ鉄火太巻き」「煮穴子の太巻き」(各2,640円)、「〆鯖と鰯の太巻き」1,980円の3種がそろう中、一番人気という「〆鯖と鰯の太巻き」をいただくことにした。

塩と酢でややしっかりめに締めつつも、本来の旨みと風味を残した鯖と軽めに締めて脂の旨みを残した鰯の取り合わせも巧妙なら、赤酢と米酢を半々にブレンドした酢飯との相性もなかなか。具よりもご飯の方が少なく、つまみにもなる寿司だ。

もちろん、居酒屋だけにアルコールも豊富。今回は、より幅広く酒類をそろえ、ワインもグッと充実。ナチュールを中心にざっと50本余りをストックしている。

「酒盗うどん」

そして、飲んだ後の〆には「酒盗うどん」660円をぜひ。小技を利かした細めのうどんがほろ酔いの舌に心地よい。

【本日のお会計】
■食事
・三代目ポテトサラダ 385円(1人分)
・特製メンチカツ 495円(1人分)
・〆鯖と鰯の太巻き 1,980円
・淡海地鶏炭火焼き 2,750円
・酒盗うどん 660円
■お酒
・山椒ジントニック 770円

合計 7,035円

※価格はすべて税込

撮影:外山温子

取材:森脇慶子

文:森脇慶子、食べログマガジン編集部