〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

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岡本のぞみ

ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

昼から定食飲みと小料理飲みを提案

店名の「カモンチ」は「come on!家」と店主「坂本さんの家」という2つの意味が込められている。実は、坂本さんの旧姓は加茂だったため、まさにカモンチだったそう。

東京・月島といえば、もんじゃストリートのにぎわいが有名だが、路地に入ると昔ながらの古民家やマンションが立ち並ぶ住宅街がある。そんな住宅街の古民家で、昼から自然派ワインが楽しめる穴場の家庭料理店が「カモンチ」だ。

左から店主の坂本雅美さん、石井明日香さん、榎本幸恵さん、角丸奈津美さん

店主の坂本雅美さんは福岡出身で福岡と東京の「ユメキチ」で女将を務めてきた。夫の海外赴任から帰国後、月島の古民家に一目惚れし、店をオープン。かつての仕事仲間や地元仲間とともに店をはじめた。メニューづくりは和食の経験が長い角丸奈津美さんが担当している。坂本さんの自然派ワインとの出会いは20年前と古く「ワインは絶対はずせません」と話すほど思い入れは深い。

1階のカウンター席。手前にテーブル席、2階に個室もある

2019年8月のオープン当初はお昼から夜遅くまで営業していたが、コロナ禍に見舞われアルコール提供が難しくなると、定食とテイクアウトの店に。アルコール提供が再開すると、昼飲みの需要が高まり、スタッフ全員が家庭をもっていたことから、夜の営業時間を早めに締めることにした。その代わり、たくさんごはんを食べながら自然派ワインを楽しんでもらいたいと、お昼から夜まで同じメニューで、定食や小料理で飲める現在のスタイルとなった。

日替わり定食✕オレンジワイン

週替わりのToday’sごはん。この週は「豚のたっぷり玉子とじ」(1,500円)

お昼にランチを食べながらワインを飲みたいときは、まずは日替わり定食で腹ごしらえ。定食のおかずは種類豊富で、これまで128種類のメニューがあったという。サラダや漬物などの副菜も3品ついて、盛りだくさん。毎週、訪れても飽きがこないおいしさが待っている。

カルロ・タンガネッリのアナトリーノ・トスカーナ・ビアンコ2021(グラス1,100円、ボトル7,400円)

定食のパートナーにしたいのは、アヒルラベルのオレンジワイン。「お肉にも野菜にも合わせやすいのがオレンジワインのいいところ。定食は醤油ダレやスパイスなど、いろいろな味付けがありますけど、こちらのワインなら万能です」と坂本さん。そのまろやかな味わいは、包容力と旨味があって、和食にぴったり。しっかり食べてしっかり飲みたい定食飲みには、うってつけのマリアージュだった。

おつまみ盛り合わせ✕にごり微発泡ワイン

「おまかせおつまみ盛り」(1,200円)。この日は、冷奴にらじょうゆのせ、豆アジの南蛮漬け、チーズの紹興酒漬け、とうもろこしの素揚げ、野菜のトマト煮込み、自家製ロースハム。

定食ではなく、おつまみで始めたいという人の最初の一品としておすすめなのが「おまかせおつまみ盛り」。こちらも日替わりで5〜6品の前菜が盛り合わせになっている。季節の野菜や肉、魚の気の利いたおつまみがちょこちょこつまめて、どれもワインを誘う味付け。一人飲みでも楽しくなる彩りがいい。

マルコ・バルバのバルバボッラ2021(グラス1,100円、ボトル6,000円)

おつまみ盛り合わせに組み合わせたいのは、イタリアのフリッツァンテ(微発泡ワイン)。「暑い時期の最初の一杯には、酸味があってぐびぐび飲めるスパークリングがおすすめです。にごりのなかに旨味があって、さっぱり飲めるのもいいですね」と坂本さん。さまざまな品種が混ざっているのも、盛り合わせのいろいろな味に寄り添っていた。

鶏の唐揚げ✕ジューシー赤ワイン

「鶏の唐揚げ」(800円)

何かボリュームのある一品がほしいときに注文したいのが「鶏の唐揚げ」。「たまねぎと生姜たっぷりの醤油だれに漬け込んで、仕上げにこしょうをまぶしたみんな大好きな味付けです」と角丸さん。にんにくを使っていない、さっぱりと旨味の引き立つ味わいがたまらない。

レミ・デュフェイトルのキュヴェ・プランタン2022(グラス1,100円、ボトル7,000円)

唐揚げと一緒に楽しみたいのは、フランス・ボジョレーのガメイ。「軽快でほどよくスパイス感のあるガメイは和食にぴったりで、たくさん用意しています。こちらのワインは心地よいジューシーさがあって、醤油味によく合います」と坂本さん。ほどよいボリューム感と醤油を引き立てる旨味が唐揚げにベストなバランスのおいしさだった。

坂本さんの「私が恋した自然派ワイン」

ノエラ・モランタンのLBL ヴィエーユ・ヴィーニュ ソーヴィニヨン2019(ボトル12,000円)

ロワールの白ワインで自然派ワインに目覚めたという坂本さんが紹介してくれたのは、同じくロワールのソーヴィニヨン・ブラン。

「ノエラ・モランタンという女性の醸造家が造るソーヴィニヨン・ブランです。ロワールの自然派白ワインは、ソーヴィニヨン・ブランもシュナン・ブランもやわらかな感じが好きですね。

ノエラ・モランタンさんは現地を訪れたときにごはんを食べさせてもらったことがありました。ワインに女性的な感覚が表れていて、ぶどうそのままのような味わいのあるおいしさがあります。キレのあるソーヴィニヨン・ブランとはまた違う個性を感じてみてください」

和食に合うゆるやかなワインをラインアップ

カモンチのワインセラーには、ボトル200種類(5,500〜100,000円)、グラス8種類(800〜1,300円)が用意されている。フランスのロワールやアルザスの味わいのある白ワインやオレンジワイン、軽快でスパイシーなガメイなどの赤ワインがレパートリー。いずれもバラエティのある和食や出汁の旨味に合う、ゆるやかな味わいの自然派ワイン。飲み心地のいい昼飲みを叶えてくれるだろう。

昼からゆる飲みなら、カモンチ

テラス席
外観。昭和2年に建てられた古民家が利用されている

カモンチの使い方は人によってさまざま。ランチタイムで定食に自然派ワインやビールを一緒に飲む人や、仕事休みの日に午後から夕方にかけて昼飲みする人が多いが、月島のもんじゃストリートで飲む前に0次会や待ち合わせに使う人も。にぎやかなもんじゃストリートとは違って、運河近くののんびりしたエリアなので、ゆるやかに飲めるのがいい。のんびり昼飲みしたい、そんなふうに思ったら、足を向けてみよう。

※価格はすべて税込

取材・文:岡本のぞみ(verb)
撮影:山田大輔