〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

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岡本のぞみ

ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

大地の恵みを食べるイタリアンレストラン

「テラットリア エッフェ」は、大地の恵みをコース料理でいただけるイタリアンレストラン。通常は“トラットリア”とするところを、Terra(=大地)に置き換えているところに、店の強い思いがうかがえる。実際に使われる食材や調味料は、全国の農家から直送されたこだわりのあるものばかり。直送のため、昨日とれた野菜が今日食べられるということも珍しくない。

内観。通常のテーブル席のほか、扉を閉めれば個室になるテーブル席もある

大地と太陽の恵みを力強く受けた野菜を食べると「こんなにみずみずしくてフルーティーな野菜は初めて」と驚きの声があがる。野菜を提供している全国の有名生産者も、上京した折には必ず店を訪れるというのもうなずける。

左からソムリエの福田麻美さん、オーナーシェフの福田智一さん

そうした素材に対するこだわりは、シェフの福田智一さんの経歴を見ても明らか。若手時代はイタリアへ渡り、ヨーロッパで初めてベジタリアンレストランでミシュラン一つ星を獲得したミラノ「JOIA」などで修業。帰国後、麻布十番やハワイのイタリアンレストランでシェフを務めてからも、生産者との直接のやり取りを大切にし、2015年に現在の店をオープンした。

店で提供されるワインも自然に向き合うイタリアの生産者のものを使用。ワインも食材同様に生産者を訪ね、今年1月も二人でイタリア・ヴェネト州に足を運んだそう。

ディナーはほとんどの客が月替わりコース(8,000円)とペアリングコース(5杯・6,000円)をオーダー。店の中央にあるワインセラーからソムリエの福田麻美さんがセレクトしてくれる。

野菜のバーニャカウダ✕スパークリングワイン

「生産者直送旬のお野菜のバーニャ・カウダ」「パン」いずれもディナーメニューのコペルト(500円)

ディナーメニューはコースもアラカルトもカゴにのせられた野菜の顔見せから始まる。「生産者の直送旬のお野菜のバーニャ・カウダ」はとれたての季節の野菜が7〜8種類。この日は練馬の高田さんが育てたイタリア野菜や高知のミョウガが届いていた。鮮やかな色合いの野菜はすべて、味が濃い。ほとばしるようなみずみずしさの中に苦味や酸味があって、シャキシャキとした食感とともに喉をうるおしてくれる。味の濃い野菜には、にんにくやアンチョビの利いたバーニャ・カウダがとても合う。

ディナーで提供される自家製パンは、栃木・アオヤギ製粉の有機小麦を原料に、発酵種は本醸造のみりん粕が使われている。一次発酵後はココットで二次発酵し、そのままオーブンへ。ココットのふたを開けたら、焼き立てあつあつがいただける。はじめから店自慢の大地の恵みが登場し期待が高まる。

ペーリのタレント・ブリュット2018(グラス1,320円、ボトル6,500円)

乾杯のおすすめは、イタリア・ロンバルディア州の家族経営ワイナリーのスパークリングワイン。「フランチャコルタ近くの地域でシャンパンと同じ瓶内二次発酵で造られていて高級感があります。今年1月にワイナリーを訪れましたが、家族だけで丁寧に造られていました」とソムリエの麻美さん。フレッシュさの中にコクやミネラル感のある味わいが乾杯の雰囲気と野菜の味を引き立てていた。

トマトとルッコラのパスタ✕コクあり白ワイン

「高知県おかざき農園さん“Lisaトマト”とルッコラのシュエシュエ スパゲッティ」8,000円のコースより

月替わりコースのパスタは2種類用意されているが、そのうちの定番が“シュエシュエ”。トマトをオリーブオイルでサッと炒めたときの音がメニュー名の由来になっている。「おかざき農園さんのトマトは甘いだけじゃなくて酸味がしっかりあるので、料理にキレが出ます」と智一シェフ。完熟したトマトの甘み酸味と、ルッコラの苦味が夏らしいフレッシュな味だった。

セルジオ・モットゥーラのポッジョ・デッラ・コスタ2021(グラス1,100円、ボトル6,500円)

シュエシュエに合わせたいのは、イタリア・ラツィオ州の白ワイン。「トマトの甘みが濃いパスタなので、果実の凝縮感のある白ワインを合わせました」と麻美さん。黄金色の白ワインは、色からわかるようにしっかりとしたコクとボリュームがあり、トマトスパゲッティと好相性。白ワインにある後味の苦味がルッコラにある苦味とも調和していた。

赤身肉ステーキ✕濃厚赤ワイン

「北海道摩周和牛イチボのステーキ 赤ワインソース」8,000円のコースのメインディッシュ

コースのメインは黒毛和牛のステーキや赤ワイン煮込みがよく出される。この月は、旨味の強いイチボのステーキ。肉料理の付け合わせには、野菜がたっぷり添えられているのもエッフェの魅力。「赤ワインと楽しんでいただきたいので、味付けは赤ワインソースにしています」と智一シェフ。

カ・オロロジオのカラオーネ2020(グラス1,200円、ボトル6,800円)

おすすめのペアリングは、イタリア・ヴェネト州の“地上の楽園”と呼ばれるエリアで造られた赤ワイン。「2ヶ月くらい遅摘みした完熟のブドウで造られた凝縮した赤ワインです。オーナーがその土地の自然を愛していて、その恵みを大切にしたワイナリーです」と麻美さん。玉ねぎなどの香味野菜の旨味を存分に感じる赤ワインソースと、樽香もある凝縮した赤ワインの相性は最高。自然のワイルドさを洗練された味わいでいただける満足感のあるコースだった。

麻美さんの「私が恋した自然派ワイン」

マストロヤンニのブルネッロ・ディ・モンタルチーノ2016 ボトル15,000円

ソムリエの麻美さんは、現地を訪れたこともあるイタリア・トスカーナ州のブルネッロ・ディ・モンタルチーノをあげてくれた。

「マストロヤンニは、モンタルチーノの丘でもトップの高さに畑があり、これほど日照量が多く、寒暖差がある恵まれた土地はありません。エスプレッソコーヒーで知られるillyが出資して設備投資はしっかりされていますが、ワインは畑からという哲学はしっかりと守られています。

ワインの味は、かなりエレガント。雑味をどれだけなくすかにこだわられていて、素晴らしい味わいです」

イタリアの自然派ワインをラインアップ

テラットリア エフェでは、イタリアの自然が育んだワインが用意されている。実際に訪れた生産者のワインも多く、そうでない場合でもワイナリーを訪れたことのあるインポーターの担当者から話を聞き、生産者の思いが伝えられるものを選んでいる。ストックを含めると、ボトルは200種類(6,000〜3万円)、グラスは7種類(1,000〜1,500円)と、かなり豊富なラインアップから選べる。

ミアーニがこれほど揃っているのは貴重。ミアーニ(ボトル23,000円〜)

ワインセラーの中には、あまりの低収量で”幻のワイン”と呼ばれるミアーニも。白ワインだけでなく、メルローやレフォスコなど赤ワインの銘柄も揃っていた。

駅前への移転でさらにパワーアップ

カウンター席からはシェフが腕を振るう様子が見られる
福田智一シェフ
イタリアのワイン生産者も東京を訪れるとテラットリア エッフェに

テラットリア エッフェは、2023年2月に同じ三田エリアのより駅に近い場所に移転した。オフィス街に近くなったこともあり、ランチは近隣で働く人も訪れる。農家から直送の有機野菜による山盛りサラダがつくランチ(1,650円〜)が人気となっている。

レストランで食事をする楽しみは、個人では入手できない食材やワインにもある。生産者から届く新鮮で珍しい野菜を洗練されたコースでいただけるのはテラットリアエッフェならでは。季節のこだわり食材や自然派ワインで元気になりたいときには、足を運んでみよう。

※価格はすべて税込、ディナーはコペルト500円

取材・文:岡本のぞみ(verb)
撮影:木村雅章