〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

ナビゲーター

岡本のぞみ

ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

〈中華✕自然派ワイン〉で気軽に角打ち

内観

ちょっとワインを飲みたいとき、レストランやバーに行かずとも気軽に一杯やる方法として“ワインショップで角打ち”という選択肢がある。日本橋・小伝馬町にある「timsum(ティムサム)」は、中華小皿で角打ちができるワインショップ。春巻きや酢豚などの定番の中華料理のなかで名物としてイチオシされているのが「檸檬焼売」。実はtimsumがオープンしたのは、材料に使われている広島県産の瀬戸田レモンをPRしたいという思いがきっかけにあった。

マネージャーの安間 淳さん

「オープンする前から、瀬戸田レモンを使った檸檬焼売を名物にすることが決まっていて、どんな業態にするかは未定のままでした。ソムリエの私が入社して『ワインショップとして自然派ワインが買えて、焼売で角打ちできる店にしたら、日本橋の人たちに愛される拠点になるのでは?』と提案しました」と、マネージャーの安間 淳さん。その提案がかたちになって、timsumは2023年11月にオープンした。

店内でボトルワインを飲みたいときは、ワインセラーから直接ボトルを選んで購入するしくみ

安間さんは外苑前のワインショップの初期メンバーとして活躍し、退職後は1年間ヨーロッパでワインの生産者を訪ねて畑作業を手伝ってきた。その経験を活かして、timsumで檸檬焼売と自然派ワインを広めている。店内ではグラスワインが用意されているほか、ワインセラーからボトルを購入し、抜栓料2,000円を支払って飲むことができる。

海老の春巻き✕ほろ苦オレンジワイン

季節野菜と海老の春巻き(780円)

まず注文したいメニューとして人気なのが「季節の野菜と海老の春巻き」。季節ごとに野菜が変わり、この日は大葉と梅干しが入って香味がきいた春巻きが提供されていた。春巻きのまわりにはレモンピールが削られ、見た目に美しいだけでなく、レモンの皮の苦みと柑橘の風味も楽しめるようになっていた。

カルロ・タンガネッリのアナトラーゾ・ビアンコ2020(グラス1,200円、ボトル小売5,500円、店内7,500円)

春巻きにおすすめなのが、あひるラベルがかわいいオレンジワイン。「こちらのオレンジワインは果皮の苦みや複雑さがしっかりあるので、さまざまな具材が入った揚げ物との相性が良く当店の春巻きにぴったりです」と安間さん。飲み心地の良さもあるため、春巻きの味を引き立てながら軽快に楽しませてくれた。

檸檬焼売✕柔らかロゼワイン

3種類の檸檬焼売(檸檬焼売・マスタード焼売・発酵唐辛子焼売、980円)

名物の檸檬焼売はさまざまな種類が用意され、盛り合わせメニューもある。檸檬焼売は、広島・横島ファームの「うつみ潮風豚」と広島・生口島の瀬戸田のレモンを使ったもの。レモンの風味がほんのり香る檸檬焼売は、豚肉の甘みをより感じさせてくれる。マスタードや発酵唐辛子のアクセントが入ると、酸味や辛みも加わって、絶妙なおいしさとなる。

ジョアン・タヴァレス・デ・ピナのキンタ・ダ・ボアビスタ ロゼ ルフィア 2021(グラス1,000円、ボトル小売3,520円、ボトル店内5,520円)

3種類の檸檬焼売に合わせてもらったのはポルトガルのロゼワイン。「ロゼワインはオールマイティな包容力があるので、いろいろなアレンジの焼売に合わせやすいですね。こちらのポルトガルのロゼは、生口島と同じように海の近くで育ったブドウが使われています。同じような地域のテロワールによるマリアージュです」と安間さん。ワインには塩味もあるので、レモンのほろ苦い風味にも寄り添って豚肉の甘みを引き立てていた。

トンポーロー✕凝縮した白ワイン

東坡肉(トンポーロー、1,380円)

肉料理のおすすめは「東坡肉(トンポーロー)」。こちらもうつみ潮風豚の豚バラを使用し、煮込むときに瀬戸田のレモンや八角を入れ、風味豊かに仕上げられている。しっかりと長時間煮込まれているため、箸を入れるとすっと肉がくずれるほど軟らかい。

絶妙な照りが食欲を誘う!
アレクサンドル・バンのキュヴェ・マドモワゼルM 2018(グラス1,400円、ボトル小売7,600円、ボトル店内9,600円)

トンポーローにペアリングしてもらったのは、フランス・ロワール地方の白ワイン。「アレクサンドル・バンは、凝縮した重厚感や蜜っぽさがあるのが魅力です。遅摘みしたブドウを使っていて甘みもあるので、トンポーローのような中華料理に合います。肉料理には赤ワインと思われがちですが、重たいワインだと疲れてしまいますし、やさしいワインだと負ける。そうしたときに甘みとコクのあるワインがおすすめです」と安間さん。ワインのまろやかさがトンポーローにフィットしながら、独自のミネラル感ですっきりと感じさせてくれた。

安間さんの「私が恋した自然派ワイン」

シャトー・ド・ボンヌゾーのインターヴァル2021(ボトル小売17,000円、ボトル店内19,000円)

安間さんが恋したワインは、自然派ワインの底力を改めて知った一本。フランス・ロワール地方のシャトー・ド・ボンヌゾーの甘口ワインを紹介してくれた。

「ロワールの2つの川が合流する地域のブドウを使った白ワインです。水温の違いによって周囲には霧が発生して、ブドウには貴腐菌が付着し、この地域では伝統的に甘口ワインが造られています。

インターヴァルは人工的な介入がないにもかかわらず、どんなワインよりもきれいで味わい深い、厚みのあるワインに仕上がっています。人が手を加えたわけでもないのに、衝撃的な完成度があり、初めて飲んだときには驚きました。ずっと飲んでいたいと思える複雑な味わいを持ったワインです」

きれいな自然派ワインをラインアップ

timsumでは、フランスを中心にイタリア、スペイン、ポルトガル、オーストラリア、ニュージーランドの自然派ワインが用意されている。はじめて自然派ワインを購入する人でも抵抗がないように、クセの少ないきれいなタイプのワインが多くなっている。また、中華にさらりと合わせられるよう、白ワインやオレンジワイン、ロゼワイン、軽快な赤ワインが中心。グラス10種類(1,000〜1,500円)ボトル500種類(2,500〜30,000円)と豊富にラインアップされている。

テラスはワンちゃん連れで昼飲みもOK

外観

timsumは、ワインショップなので気軽に立ち寄れて角打ちもできる。平日は15時、土曜は13時からオープンしている。外にはテラス席もあり、そこではワンちゃん連れもOK。日本橋で昼飲みしたいというときにも、のんびりと時間を過ごすことができるだろう。

※価格は税込

取材・文:岡本のぞみ(verb)
撮影:山田大輔