〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

ナビゲーター

岡本のぞみ

ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

木の香りがする真新しい空間で再スタート!

内観

下北沢の人気店「ミルヴァン フィオーリ」が移転し、3年半ぶりの2024年5月に再スタートを切った。本来であれば、すぐにでも復活する予定だったが、物件が見つからず、POP UPなどで営業を継続。このたび、同じ下北沢の新築ビル1階に入居が決まり、完全復活を果たした。店内はナチュラルで温もりのある空間となっており、まだ木の香りがするほど真新しい。

オーナーシェフの藤木義之さん、サービスの藤木由香さん

これまで人気店として常連をよろこばせてきたのが、シェフの藤木義之さんが作る名物料理。ずわい蟹の入ったスフレオムレツや、レバープリン、シラスと九条ネギのぺぺロンチーノ、仔羊肉のハンバーグなど、誰もが大好きなワインに合うメニューが胃袋をつかんでいた。こうしたメニューはそのままに、鮎や皮付きベビーコーンなど旬を取り入れたメニューが加わり、パワーアップしている。

奥のテーブル席

また、アットホームな由香さんの接客を心待ちにしていた常連も多く、オープンキッチンのカウンターやテーブル席から連日、予約が埋まっているという。そして、店内の奥にはテーブル席も6つできた。テーブルを組み合わせれば半個室になり、10〜14人程度の貸し切りにも対応している。

ワインセラー

さらにカウンターの前には、ウォークインセラーを設置。ワインセラーの中には自然派ワインがぎっしり入っている。ボトルには産地や品種、味わいの特徴、値段を書いた札が下げられているため、中に入ってじっくり選ぶことも可能。新しいワインの楽しみ方もスタートしていた。

スフレオムレツ✕ロゼ風味オレンジワイン

ずわい蟹とラクレットチーズのスフレオムレツ(1,320円)

ミルヴァン フィオーリの一番人気のメニューといえば「ずわい蟹とラクレットチーズのスフレオムレツ」。卵白をメレンゲ状にホイップした生地をベースにラクレットチーズを加え、ココット鍋でオーブン焼きにしたもの。中にはズワイガニのソースが入っている。

スプーンですくうとカニがお目見え!

オーブンに入れると、生地はふわふわとボリュームアップし、表面はこんがり色づく。スプーンでスフレオムレツを割ると、ラクレットチーズの香ばしい匂いが漂い、中からおいしそうなカニソースがお目見えする。

いい匂いがふわり

ふわふわのオムレツを口の中に入れると、口いっぱいに柔らかな食感が広がり、同時にカニソースの旨みがやってくる。まさに至福の瞬間だ。これまで6人で訪れて6つ頼む団体もいたほど、ひとり占めしたくなる味わい。香りにつられて追加注文が入るのも、いつもの光景だという。

ファビュラス フォエミネ ピノ・グリージョ2022(グラス1,100円、カラフェ3,190円、ボトル6,050円)/よく見るとラベルデザインはトリックアートになっている。耳の部分にあるのはアブルッツォ州伝統のイヤリング。こうした話を糸口に会話を広げることもあるという。

スフレオムレツにおすすめのワインは、イタリア・アブルッツォ州のオレンジワイン。外観はロゼ色に近いオレンジワインだが、味わいもハーブやチェリーのロゼワインのような風味がまじる。そのため、甲殻類の入ったスフレオムレツにぴったり。「ほどよく厚みのあるワインなのでチーズにも負けません。カニの甘みとも合います」と由香さん。

鮎のコンフィ✕トロピカル白ワイン

まるごと鮎のコンフィ 豆苗と柚子胡椒のソース(1,210円)

夏が旬の鮎は、義之さんの手により美しい一皿に。「まるごと鮎のコンフィ 豆苗と柚子胡椒のソース」は、あさりのだしをベースに柚子胡椒を入れたソースに豆苗とオリーブオイルで彩りを加えたもの。「鮎が泳いでいるような一皿で涼しげに仕上げています」と義之さん。

アッラ・コスティエッラ ビアンコ・コスティエッラ2022(グラス990円、カラフェ2,860円、ボトル5,500円)

鮎のコンフィにおすすめなのがイタリア・ヴェネト州の海岸沿いで造られた白ワイン。トロピカルな香りとフルーティーな厚みとミネラル感のある白ワインが鮎のくさみを感じさせない組み合わせ。わたの苦みもおいしく感じられた。

仔羊肉のハンバーグ✕赤ワイン

仔羊肉のハンバーグ マスタードデミグラスソース(2,420円)

メインディッシュはこちらも定番人気の「仔羊肉のハンバーグ マスタードデミグラスソース」。タネの肉は仔羊肉だけを使い、風味づけに旨みの強い椎茸も入っている。上にはデミグラスソースに酸味のあるマスタードが加えられたソースがかけられている。

お肉がギュッと詰まっている

ハンバーグは、1個200gとボリュームたっぷり。ナイフを入れてみると、肉がギュッと詰まっていて、肉汁がしっかり閉じ込められ、口のなかで肉の旨さが爆発した。

エルヴェ・ヴィルマード シュヴェルニ・ルージュ2022(グラス1,155円、カラフェ3,355円、ボトル6,380円)

仔羊肉のハンバーグにおすすめのワインは、フランス・ロワール地方のガメイとピノ・ノワールの赤ワイン。「ガメイとピノ・ノワールの果実味がしっかり感じられますが、ボリューム感が強すぎるわけではなく、ハンバーグにちょうどいいバランスです。リコリスのような上品な香りもいいですね」と由香さん。旨みとジューシーさが感じられる果実味がハンバーグの肉汁とゴロゴロ感を引き立てていた。

藤木さんの「私が恋した自然派ワイン」

シルヴァン・マルティネズ ガズゥイ(ボトル8,800円)

藤木さんの恋したワインは、自然派ワインの味の広がりに感動した一本。

「自然派ワインを勉強しはじめた頃に出会ったワインです。当時は、自然派ワインといえばラディコンやダミアンなど果実味を余すところなく抽出したような重めのワインがそのイメージでした。ある時、仲間と居酒屋で飲んだあとに自然派ワインで有名なビストロに行き、出してもらったのがこちらのワインです。

飲んでみると、甘酸っぱいエキス系の複雑味があって、こういう自然派ワインもあるんだと思ったのを覚えています。果実味がじわっと感じられ、お酒を飲んだ後でも体にスムーズに入ってきて、いろいろな味わいが感じ取れました。

ガズゥイは年によってセパージュ(品種)が変わって微発泡していることもありますが、どんな年でも変わらないおいしさがあります。ぜひお店で味わってみてください」

ヨーロッパの自然派ワインを中心にラインアップ

ミルヴァン フィオーリでは、藤木さん夫妻が試飲会で飲んでおいしいと思ったワインが提供されている。自然派ワインを目当てに来店する人以外が飲んでも、体にスムーズに入っておいしいと感じられるワインや料理に合うワインが中心。華やかでクリアな味わいのアルザスやロワールのワインが多くなっている。もちろん、自然派ワインらしいおもしろいワインやコアなファンが喜ぶワインもある。グラス11種類(700〜1,155円)ボトル250種類(4,500〜15,000円)のほか、カラフェ(375cc)での提供もある。

若い世代こそ訪れたい気取らないメニュー

サービスの藤木由香さんはガメイ好きの”ガメラー”
外観

再開以来、ミルヴァン フィオーリには、近所に住む落ち着いた大人世代の常連が足繁く通っている。しかし、メニューはアラカルトでパスタ1,000円台、メイン2,000円台前半が価格帯の中心。グラスワインもたっぷり120ccで提供されるため、若い世代にも利用しやすく、ワイン好きの1人や2人客も訪れやすい。シェフの前のカウンター席をめがけて予約するのがおすすめだ。

※価格はすべて税込、チャージ料1人330円

取材・文:岡本のぞみ(verb)
撮影:木村雅章