〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

ナビゲーター

岡本のぞみ

ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

おしゃれエリア三宿で住民に愛されるビストロ

2Fのテーブル席
1Fカウンター席

池尻大橋と三軒茶屋の間にある三宿エリアは、駅から離れているがレストランやカフェがあり、業界人が集まるおしゃれな街。住民におなじみのスーパーの目の前にある「+ruli-ro(ルリイロ)」は、週末ともなるとカップルや子ども連れのファミリー、年配の夫婦まで年代問わず、地元住民が集まる。かつて茶屋だったという広い古民家を改装してできた店内は、田舎の親戚の家に来たようなほっとできる空間。テーブル席やカウンター席、半個室のように利用できる席もあり、使い勝手がよいのが人気の理由となっている。

左からシェフの枡田 真さん、ソムリエの向山和樹さん

しかし、最大の魅力は炭火焼きを中心にしたメニューの多彩さと自然派ワインのラインアップの多さだろう。小皿料理や季節のパスタはそれぞれ10種類ほどあり、炭火焼きは和牛や豚肉、鶏肉、仔羊をシンプルにローストしたもののほかにミラノ風カツレツやサルシッチャなどのイタリア郷土料理もあり、ボリュームたっぷり。デートにはちょこちょこつまめる1人8皿の盛り合わせ、4人以上ではお得な飲み放題プラン、一人飲みにはカウンター限定のセットがある。シーンにあわせておいしいものが食べられるコストパフォーマンスに優れた店で、ついつい足を向ける人が多いのもうなずける。

ガラス張りのワインセラー

自然派ワインは1階のガラス張りセラーにたっぷりと用意されている。ソムリエの向山さんと一緒にボトルを見ながら選ぶこともできる。

レバームース✕ロゼスパークリング

レバームースとエスプレッソ風味のスパイスパン(880円)

メニューには名前を見て頼みたくなる小皿料理がたくさんある。1品目におすすめなのが「レバームースとエスプレッソ風味のスパイスパン」。はちみつやシナモン入りのスパイスパンは水分にエスプレッソを入れて焼き上げ、レバームースをのせて青りんごのジャムが添えられている。こんなふうにフランス料理やイタリア料理に一工夫入れて、ワインを誘う味に仕上げるのがルリイロ流。目玉焼きのトーストのような見た目とシナモンやエスプレッソの香りがなんとも食欲をそそる一皿だ。

カルカリウスのフレッチャボンブ・ロゼ2021(グラス990円、ボトル6,050円)

これに合わせてもらったのは、南イタリア・プーリア州の微発泡ロゼワイン。「こちらの料理は食事の序盤に召し上がることが多いので、食欲が湧いてくるようなロゼスパークリングがおすすめです。こちらのロゼワインは、低アルコールで気軽にするする飲めるタイプ。ほのかな甘さや果実味のふくらみがあり、レバームースやパンのスパイス感を引き立ててくれます」と向山さん。レバームースのねっとり感やジャムの甘さに合いつつ、少し塩味を感じるさわやかさも料理にマッチしていた。

初鰹のカルパッチョ✕薄旨系赤ワイン

初鰹のカルパッチョ(1,760円)

魚料理もルリイロの自慢。いまが旬の「初鰹のカルパッチョ」は、刻んだビーツとトマト、梅、シソ、鰹節がのった和テイストの一品。鰹にはレモンやニンニクで風味づけされることが多いが、梅やシソの風味でさっぱりといただける。初めて食べる組み合わせだが、目からウロコの味わい。身の締まった初鰹の赤身の素材のなめらかさを、そこなうことなく満喫できた。

ドメーヌ・オヤマダのBOW!赤2022(グラス880円、ボトル5,390円)

初鰹のカルパッチョに合わせられたのは、山梨のカベルネ・フランとマスカット・ベーリーA主体の混醸ワイン。「鉄分のある赤身の魚で梅や鰹節と合わせているので、出汁のニュアンスがある赤ワインにしました。軽めでさらりと飲めますが、合わせることでカルパッチョに香りの華やかさやブドウの甘みが加わります」と向山さん。くさみのないさっぱりした初鰹がさらにフルーティーにいただける組み合わせだった。

牛タンロースト✕シルキー赤ワイン

特上牛タン(4,180円)

ルリイロの看板料理である炭火焼きは豪快さが魅力。「特上牛タン」は焼肉店で上タンとして出されるタン元の部位を使用し、塊でロースト。火入れして休ませる工程を繰り返してじっくり火入れすることで真ん中がピンク色のまま柔らかく焼き上げ、焦がしアンチョビバターのソースをかけて完成。柔らかいが生の部分はなく、歯切れよく弾力のある食感。そこへアンチョビバターの香ばしいコクが重なる。厚切りの牛タンを思いっきり食べたい、という夢を最大のおいしさで叶えてくれる一品だ。

オジルのグルーヴ2020(グラス1,320円、ボトル8,470円)

合わせてもらったのはフランス・ローヌ地方の赤ワイン。「豪快な肉料理に負けない果実味のあるワインです。しっかりとした味わいがありますが、骨格がありエレガントなので重たくはなりません。樽熟成されてもいるので、甘い香りがバターのソースともマッチします」と向山さん。歯切れのよいタンから牛肉の旨味があふれるとシルキーな赤ワインが受け止めてくれる最高に口福なマリアージュだった。

向山さんの「私が恋した自然派ワイン」

レ・コステのリトロッツォ ロッソ(グラス825円、ボトル6,050円/1,000mL)

向山さんはワインを好きになるきっかけとなった、イタリアのたっぷり1リットルサイズの赤ワインを紹介してくれた。

「もともとワインをそこまで飲んでいたわけじゃなくて、特に赤ワインは渋みが苦手でした。でも、レ・コステのリトロッツォのゴクゴクとワインを飲んでいるラベルを見て、“こんなふうに飲んでいいものなんだ”とビックリしました。

実際に飲んでみると、タンニンの引っかかりや渋みがなくて、それまでのワインとは違うものを飲んでいるような感覚があって本当にするする入ってきたんです。自然派ワインのスタイルを表現していて、気楽に肩肘はらずに飲めることを教えてくれたワインです」

300〜400種類の自然派ワインをラインアップ

ルリイロには1階にあるガラス張りのワインセラーに300〜400種類の自然派ワインが用意されている。向山さんがこまめに試飲会を訪れ、きれいめで落ち着いたヨーロッパの自然派ワインを中心にセレクト。初めてワインを飲む人でも飲みやすいワインがラインアップされている。ボトルは5,500〜13,200円、グラスワインは12種類660〜1,320円。向山さんにおすすめを聞いて選んでもらおう。

一人でも大人数でも、楽しくなごめる一軒

2Fの奥には一人や二人で落ち着けるカウンター席もある
外観

ルリイロは、テラスの踏み板を歩いて店内に入れば、いつもにぎやかで温かな雰囲気がある。おいしい料理と自然派ワインのメニューも豊富。一人でも大人数でも、楽しくおいしい時間を約束してくれることは間違いない。

※価格はすべて税込

取材・文:岡本のぞみ(verb)
撮影:山田大輔