〈秘密の自腹寿司〉

高級寿司の価格は3~5万円が当たり前になり、以前にも増してハードルの高いものに。一方で、最近は高級店のカジュアルラインの立ち食い寿司が人気だったり、昔からの町寿司が見直され始めたりしている。本企画では、食通が行きつけにしている町寿司や普段使いしている立ち食い寿司など、カジュアルな寿司店を紹介してもらう。

教えてくれる人

大石智子

出版社勤務後、フリーランス・ライターとなる。男性誌を中心にホテル、飲食、インタビュー記事を執筆。ホテル&レストランリサーチのため、毎月海外に渡航。バー巡りも欠かさない。スペインに行く頻度が高く、南米も好き。拠点は東京だが地元である静岡にも毎月滞在し、主に中部エリアを食べ歩く。柴犬愛好家。Instagram(@tomoko.oishi)

築地のビルの地下に潜む立ち食い寿司

気取らず懐かしい雰囲気の店内。交通系ICなどの電子マネーでも支払えるのが便利だ

店が入るのは築地4丁目の交差点に立つ複合ビルの地下1階。「寿し」という昔ながらの暖簾の奥に立ち食いカウンターをかまえる。

定員は8名。廊下に置かれた簡易椅子で寿司を待ちわびる人々もまた、店の目印と言えるだろう。小体な店ながら、仕込みもすべてここで行っている。

 

大石さん

築地4丁目交差点にある交通の便がよいビルに入り、混み具合にそわそわしながらエスカレーターを降ります。カウンターが見えてすぐ入れた時の“ラッキー!”という感情もうれしいおまけ。週末や集中しやすい時間帯を除けばわりとすんなり入れるはず。

オーナー大将の田島尚徳さんは寿司職人歴26年。白金「鮨龍尚(しょうりゅう)」を営業しながら、2021年2月に「立喰い寿司 あきら」を新橋に開業して大ヒットさせる。同年7月には築地店、今年5月には札幌にも進出。本格立ち食い寿司ブームの火付け役であり、最も成功している店を手がけた人物と言っていい。なお、店名にある「あきら」とは田島さんの父親の名前だ。

田島尚徳さんは岐阜で12年、東京で5年修業して2014年に「鮨龍尚」を独立開業。自ら食べ歩いた鮨店も相当な数に達する

田島さんは自身もお寿司を食べ歩く中で、“おまかせ一辺倒じゃ面白くない。寿司の原点は好きなものを好きなだけ食べること”という思いがあったという。高級店に負けない立ち食いをやろうと以前から考えていて、コロナ禍がきっかけになったようだ。

 

大石さん

“外食時間が制限され、急に時間が余って最初のうちはPS4とかをやっていたけど飽きて、忙しくなりたいと新橋の4坪の物件から立ち食いをスタート。いままで以上に朝早くに河岸に行き、10時半に新橋に行って、握って、夜は白金で一回転させる”という話を聞き、まったく業種は違うけれど刺激を受けました。型にはまらない発想と機転のよさがお寿司のおいしさにも通じていると思います。

提供するのは「鮨龍尚」とまったく同じ寿司。確かな技とタネまで変わらない。おこのみ限定となり、最初にオーダー表へ欲しいタネと個数を書き入れる。追加注文は不可。高級寿司と同等のクオリティでいて、「やま幸」のマグロが440円で、高価なウニでも1,100円と破格である。

オーダー用紙に数字を入れて注文する。英語版もあるので海外からの客も連れていきやすい。全種類頼む客も少なくないとか
 

大石さん

注文は一発勝負なので、今日は何を食べようかと吟味する瞬間も楽しい。でもいつも“やっぱりもっと頼めばよかった…”と思います。そういうパターンが多いらしく、並び直して2ラウンド目にトライする人もいるとか。日本酒2杯と5貫でサクッと終わらせることもできるし、マグロを思いっきり10貫食べることもできる。自由なのが最高です!