東京で蟹の店といったら必ずその名前があがる「きた福」。選りすぐりの活き蟹を目の前で捌き、茹で、焼き、蒸しとさまざまな調理法で味わうコース目当てに全国から予約がひっきりなしに入る、言わずと知れた名店だ。その「きた福」が2月20日、新富町に3店舗目をオープン。「きた福」としては初めての“寿司と蟹の共演”というから見逃せない!
新富町に蟹の名店現る!
蟹料理の名店と謳われる「きた福」が東京・新富町に3店舗目をオープンした。寿司店出身の料理長とタッグを組み、寿司と蟹料理を提供するという「きた福」の新たな試みの店だ。
ここは1865年創業の「助六寿司発祥の店」で有名な「蛇の目鮨 本店」があった場所である。かつて西郷隆盛や勝海舟に出前をしたという逸話が残る歴史ある建物で、カウンターはかんなで削りはしたものの、そのまま引き継いだ由緒あるもの。時空を超えて同じ空間に居ると思うと感慨深い。
この店を任されたのは都内の寿司店で13年間務めたベテラン寿司職人、橋本 孝さんだ。日本料理や京料理居酒屋の経験も長いせいか、カウンターでの会話も弾む。さて、気になる料理であるが、蟹をあらゆる調理法で存分に楽しませる「きた福」ならではのコースに寿司が要所で組み込まれているという。コース料金は松葉蟹が44,000円(税込)〜、毛蟹が33,000円(税込)〜となっており、仕入れ状況によって価格は変動する。早速、コースの全容を紹介しよう。
蟹、鮪、鯖のハイブリッドコースに歓声必至!
コースのはじめは「茶碗蒸し」と決めている。本日は「すっぽんの餡かけ」であるが季節によって変えていくそうだ。
胃が温まったところに「せこ蟹の醤油漬け」と酢飯が供される。内子の凝縮したうまみ、外子のシャリシャリプチプチの食感、身のねっとり感が酢飯に絡まり、空腹を口福に変える。
ここで橋本さんの本領が発揮される握りをいただく。本日は千葉県銚子の120.4kgの「黒鮪」。脂ののり、色、香り、見るだけで最高級だとわかる。聞けば仕入れはあの豊洲の仲卸のトップ「やま幸」からと言うので納得だ。「大トロ」の後に「中トロ」と、一般的には逆順だが、なかなか良い違和感である。赤酢の酢飯が鮪に合う。
そこへ桶に入った本日のメインである「松葉蟹」が運ばれてくる。こちらでは「松葉蟹」なら1kg以上、毛蟹なら800g以上のものしか使わない。リクエストがあれば越前蟹のトップブランド「極」などの最高級蟹も用意する。脚、爪、胴と手早く蟹を捌くのを見ながら、甲羅についた「蟹ビル」がたくさんついていると脱皮をしてから時間が経っているので身が詰まっていておいしいといった“蟹の豆知識”が聞けるのもカウンターでの一興だ。
島根県1.1kgの「松葉蟹」をまずは刺身で。行儀が悪いと知りつつ大きな口を開けて透き通った脚をパクッといくのが「蟹刺し」の流儀。とろりとした食感、甘み、至福の瞬間だ。次に鰹と昆布をベースに「ラッキョ」や「ナンバン」など足先の細い部分を入れた出汁で「蟹しゃぶ」にする。脚をレア、ミディアムレア、そして爪はウェルダンと火入れだけで味の濃淡をつけるとは! なるほど、こういう楽しみ方があるのか。出汁も一皿ごとに蟹のうまみとコクが重なる。これをのちに雑炊にするというので期待が膨らむではないか。
ここで「鯖の棒寿司」でちょっと一息。脂ののりが良く肉厚の鯖には和芥子のツンとした辛さがちょうどいい。この贅沢な味わいにうっとりする。箸休めというには大層なごちそうだ。
カウンターに芳ばしい炭火焼きの香りが漂うと程なくして「焼き蟹」が登場する。その“おいしそうな顔つき”に思わず笑みがこぼれる。生のようにやわらかいのにじんわりと中まで温かく、「蟹しゃぶ」より一段と甘みも増している。レモンを数滴かけると、酸味が味をふくらませる。
続いては「蟹爪」を天ぷらに。サクサクの衣とあっつあつでホワホワの「親爪」とのコントラストがたまらない。橋本さんが「蟹は温度が高くなるほど甘みが増すんです」と言うのは本当で、天ぷらが一番甘みを感じる。
目の前に海苔が置かれ酢飯、焼き蟹、蟹味噌と重ねるのを見ているとワクワクが止まらない。シグネチャーディッシュとも言える「手巻き寿司」は味もスペシャルである。パリッと歯切れの良い海苔を感じたかと思うと、焼き蟹と酢飯が溢れる蟹味噌をまとって押し寄せてくる。なんという破壊力なのだろう。