独り立ちするまでの道のりが厳しい日本料理において、若手が台頭するのはなかなか難しいとされています。それを見事にやってのけたのが今年1月20日に誕生した「SHIZEN」の國居 優(くにすえ・ゆう)さんです。オープン間もない店に早速訪れ、その素晴らしい料理を味わってきました。

扉を開けると一変する世界観に高揚する!

なんと和食の超人気店「酒井商会」も同じビル!

今年1月20日にオープンしたばかりの「SHIZEN」。料理長の國居 優さんは神楽坂の「懐石 小室」で修業後、渡仏して在ストラスブール日本領事館で公邸料理人を務め、帰国後は西調布の「Maruta」で薪火と発酵料理を学んだという華々しい経歴の持ち主です。「Maruta」の後、予約困難な人気和食の渋谷「酒井商会」、恵比寿「創和堂」をプロデュースする酒井英彰氏と出会い「SHIZEN 」の料理長に就任しました。住所を頼りに向かうと、その経歴からイメージするものとは少々異なる古いビルに到着。

カウンター7席の劇場型オープンキッチン

店名は書いてあるものの、本当にこのビルだろうかと疑いながら階段を上がり、ドアを開くと一瞬にしてその世界観に引き込まれました。土をイメージする色調の空間の奥には華道家 萩原亮太氏による流木アートと火が燃え盛る薪火台。まるで自然の中にいるような錯覚に陥ります。

学生時代のアルバイト先は赤坂の「懐石 辻留」

料理長を任されたのは27歳の若き料理人、國居さん。「素晴らしい店で修業させていただいた経験を基に日本料理に薪火と発酵を融合させた新しい和食を創りあげたい」と話します。

薪火の温度を自由に操る國居さん

その國居さん、日本料理が好きという理由から専門学校時代にあらゆる店で食べ歩き、ここで働きたいと願った「懐石 小室」で修業が始まります。古き伝統を残しつつひたすら食材に向き合う親方のようになりたいと、どんな些細なことも逃さず学びました。

副料理長は専門学校からの同級生、近藤元貴さん

4年後、縁あってフランスの在ストラスブール日本領事館に公邸料理人として赴任、薪料理と出合います。アルザスには薪料理店が多く日本料理と薪料理を組み合わせたらおもしろいなと思ったそうですが、残念ながら公邸ではチャンスがなく、帰国後、薪料理で大人気の「Maruta」で修業することに。

後に紹介する「河豚の白子の茶碗蒸し」でも使われる「このこ醤」

また「Maruta」では薪料理を学ぶと同時に発酵への興味も芽生えました。「ナマコの卵巣『このこ』を使って魚醤を作ってみようと初めて自宅で発酵に挑戦。完成したのが今も使う『このこ醤』です。」

調味料を入れた器は20歳から少しずつ買い集めてきたもの

調理台にはその「このこ醤」をはじめ、「椿の葉」「桑の葉」「乾燥させた蓬の花」「このこ醤油を漉してできた残りを乾燥させたもの」「日本酒」「すじ青のり」「牡蠣醤油」「塩」を器に入れ置いてあります。何か足りないなと考えてみたら、どこの店でも使う酢がありません。「酢は発酵由来のものしか使いません。色々な食材を発酵させて酢を作っています」と見せてくれたのがワインセラーならぬ「発酵セラー」。

これが「発酵セラー」

「発酵料理は新しいと言われますが、醤油も味噌も麹も日本酒もぜんぶ発酵食品です。だから僕は伝統的な日本料理と捉えています。薪もしかり。最近の薪料理ブームの影響で新ジャンルと思われがちですが、実は炭より古くから使われていました。僕は伝統的な日本料理を現代的に表現にしているだけです」と語る國居さんの料理は、ソムリエ城戸美貴子さんによるペアリングとともに提供されます。